第52話

 その後、せっかくなのでガキどもと遊んでるところをシャルロットとサーシャに見せた。

 ……めっちゃ怒られた。


「近衛騎士団の訓練よりも厳しいから! 死ぬからな!!! セレナもなぜ止めない!!!」


 えー……。

 サーシャは扇子で隠した口元が上がっていた。

 プルプル肩をふるわせている。

 そしてキラキラ目を輝かせた。


「マコト様。私、この子たちがキャンプで他の班を蹂躙するのが見たいです」


「蹂躙? 遊んでるだけだよ? なあ、お前ら」


 カートマンブチギレ。


「てめえ、ふざけんな! 死ぬだろが!!! っていうか筋肉痛しなくなったぞ! なにやりやがった!!!」


「惑星日本の侍風ブートキャンプ」


「うがああああああああああッ! お前さ、もっと、こう、ないの? 剣術の訓練とか?」


「あ、ごめん。チャンバラやりたかったのか。おう、わかった。今日はチャンバラやって遊ぶぞー!!!」


 ほいっとスポンジの刀を渡す。


「戦い方わかんねえ。教えろ」


 もー、言ってよー。

 剣なら教えられるぞ。


「今日は積極的だな。じゃあ、待ってろ」


 スポンジの刀を持って練兵場の林に行く。

 そのままスポンジの刀で適当な木を横薙ぎ。

 丸太を作って持っていく。


「なあ、すでに絵面が狂ってるのだが……」


「この程度は普通普通。他の班もこのくらいできるだろ。技がなくても魔法とかあるだろ」


「嘘つけ!!! それはお貴族様のとこだけだ!!! それにスラムのガキに魔法を教えてくれる貴族なんていねえよ!!!」


「つかこれ魔法じゃないよ。腕力だよ」


 やだなー。

 魔法なんてまだ分析終わってないから使えないぞー。

 なんかこの惑星のナノマシン、使おうとすると逃げるし。


「もっと無理じゃねえか!!! つか丸太何本も担いでるのがすでにおかしいって気づけよ!!!」


 ぜえぜえとカートマンが息を切らす。


「まあまあ、やり方教えてやるよ」


 と丸太を一本置く。

 少し距離をとってからスポンジの刀を上段に構えて、突撃!!!

 丸太の前で勢いを落とさず体重を落とし気合とともに振り下ろす。


「でえええええええええええいッ!!!」


 バキっと折れて終了。

 真っ二つである。

 剣線が通ったあたりが砕けてへこんでるが腕力だとこんなもんだろう。


「と、こんな感じだ。コツは止まろうとしてスピードを落とさないこと。体重と勢いを一撃にこめること。大声を出して頭のリミッター外すこと。全身の筋力使って振り下ろすこと。まあ体当たりだと思え」


「できるかボケ!!!」


「あのなあ、騎士や貴族の子は小さい頃から剣握ってるんだ。同じことしてても追いつけるわけねえだろ。こういうときは戦術ごとぶっ潰す方法で行くの。戦闘の基本だろ」


「言ってること正しそうなのに方法が完全に間違ってる!!!」


「だって騎士や貴族の子どもの技術水準に追いつくのには3年はかかるぞ。血反吐はくレベルの練習で1年かな。だったら体を作り込んでパワーで戦う方が合理的で楽だろ」


「くっそ、正しいけどお前の望んだレベルが間違ってるの!!!」


「まあまあ、やってみろって。まずは力任せに丸太をぶっ叩くところから。ほれウェイト代わりの木刀」


 と「秩父」と書かれた木刀を渡す。

 形からやってもいいけど、まずはキャンプで恥かかない程度に仕上げないとな。

 自信と成功体験こそが人を成長させるわけよ。


「ちょっとシャルロット様! なんか言ってくださいよ!!!」


 あ、カートマン言いつけやがった。


「その……な、言ってることとやらせようとしてること自体は間違ってないぞ。大声出しての突撃は基本の戦術だ。と言っても大人でもできてないほど難しいものだが」


「そうなんだけどー……」


「まあやってみろ。遊んでもらうよりは楽なはずだ」


「ぐぎぎぎぎ!」


 というわけでキャンプまでさんざん遊んだのである。


「あ、終わったら全員でかかって来い。反撃しないから」


「ふざけんな! 逃げろおおおおおお! 回り込まれぎゃあああああああああああああッ!」


 で、キャンプ当日。

 俺たちや他の班も練兵場に集まっていた。

 ガキどもは真新しいが傷だらけの革鎧を着用していた。

 前日に遊んでたらこうなった。

 慌てて新しいの注文したけど間に合わなかった。

 反省してる。

 キャンプは要するに各班の訓練の進行状況を見ましょうというイベントだ。

 いわゆる格闘トーナメントってやつじゃないけど、訓練見て、行進させて、何戦か模擬戦やってってテストみたい。

 サバイバル気味の体育祭?

 で、今は最初にやる模擬戦で並んでるというわけだ。

 そういや俺、体育祭出たことねえな。

 なんかそわそわする。

 挙動不審の俺を見てスタンリーがつぶやいた。


「兄ちゃん暴れんなよ!」


「あ、暴れないよ?」


「不安すぎるわ!!! それとさあ兄ちゃん、なんか走っても息切れないんだよ……俺の体どうなっちまったんだ?」


 カートマンも同意する。


「俺もあれから一度も筋肉痛起こってないんだわ……怪我もすぐ治るし」


「うむ。精霊ナノマシンの力を制御できるようになったみたいだな」


「こ、これが精霊の力……」


「自信を持て。お前らならいける!」


「それ根拠ねえよな!? なあ兄ちゃんよぉっ!」


「ほめてんだから素直に受け取っておけ」


「くっそ、本当に怒鳴りも怒りもしやがらなかった」


「それだけお前らが優秀なんだって」


 と言うとカートマンはぷいっと顔を背けた。

 やだ……ツンデレさん。

 ニヤニヤしてると大声で呼び出される。


「シロガネ班前へ!!!」


 言われたとおり前に出る。

 行進自体はヘタだけど、徹底的にチャンバラをやったせいか背筋が伸びている。

 それを見て審判の教師が「仕上げてきたじゃねえか」とつぶやいた。

 教師の顔憶えとこ。

 ごめんね。

 まだ授業受けてないから教師の顔と名前が一致しないのよ。


「ジード班! 前へ!!!」


 豪華な装備を着用した子どもたちがそこにはいた。

 革鎧には金属の板が張り付けられていて、兜なんて金属製だ。

 それに比べて、わが革製&毛皮のみの隊よ。

 見た目は完全に負けてる。

 しかも向こうはうちの班よりも年長で体も大きい。

 うちの班の子は、はやくも数人ビビってやがる。

 するとカートマンが俺に聞いた。


「俺たちはどうすればいい?」


「お互い木製の武器で有効打が出たら終わり。魔法も使用可能。怪我しそうなら審判が止める。要するにいつもどおりだ。相手が攻撃する前に大声出して突撃。絶対に考えるな。以上」


「ひでえ作戦だな」


「ま、楽しんできなさい」


 まずはカートマンが出る。

 相手はカートマンよりも一回り体が大きい。

 会場にいる連中は誰も俺たちに期待してなかった。

 シャルロットやサーシャ、それにセレナとくっころちゃん以外はね。


「はじめ!!!」


 と審判が号令をかけた。

 同時にジード班の先鋒が魔法を唱える。


「喰らえ!!! ファイアランス!!!」


 炎がカートマンに直撃する。

 だけど次の瞬間、ジード班の先鋒の体が吹っ飛んだ。

 そのまま先鋒の体は木にぶち当たった。


「はあ? 嘘だろ……」


 立ち尽くすカートマン。

 相手は白目を剥いていた。

 はい腕力。

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