第51話

 ナノマシンの監視ドローンを飛ばす。

 この惑星で蔓延してるコンピューターウイルスに感染しない最新型だ。

 というか、数千年前のコンピューターウイルスとまったく互換性がない。

 そんなドローンをなぜ飛ばすかというと、ガキどものお使いの監視である。

 ないとは思うけど、強盗に襲われたりヤバいお薬に手を出したら助けるためだ。

 持たせたお金は銀貨で10キロ程度。

 あとお駄賃で銅貨も1000枚で5キロくらい。

 銀貨は単位が従量制みたいだからこのような感じに。

 15キロもあるから台車で。

 すると金の量にビビったのかガキどもはまっすぐに売店へ。


「こんにちわー。マコト様の言いつけで来ましたー」


「あら、お使い? えらいわねー」


 とお姉さんが言うと、一番年上の子であるカートマンが俺の注文書を渡す。

 すると売店のお姉さんが台車の上にある銀と銅に血相を変えて店長を呼ぶ。


「ちょっと待ってね。店長!」


 するとおっさんがやってきて注文書と貨幣を見る。

 なんかおかしいな?


「なにか言われてなかったか?」


「それを注文して余りは使えって」


 シンプルな話だろが。


「うーん……余る金が多すぎるな。おそらく君らを試してるんだろうな」


「そう言えば兄ちゃん、テストって言ってたな」


「兄ちゃん、ちょ、お前ら、マコト様は王族だぞ」


「うそだー! 貴族みたいな迫力ねえぞ」


「たしかに威厳はないが立派な王族だ。なにか深いお考えがあるに違いない」


「そうなの?」


 というやりとりを自室で見てるわけだ。

 するとカチャッとカップがテーブルに置かれる。


「まあ、お兄ちゃんは迫力ないよね。なめてかかったら殺されちゃうけど。ある意味トラップだよねえ」


 セレナが俺にお茶を持ってきた。


「威圧しなきゃならんような相手いなかったし。本気で威圧したら死人出るぞ。そもそもやらん」


 全身から血を出して死んじゃうよ。

 そんなことできるけどしないって。

 なめられたくらいでいちいち殺してたらきりないでしょ。

 すると監視カメラの映像に動きがある。


「俺にもその深いお考えってのはわからん。それにこの大金じゃ俺の能力を超えてる。だからもっと偉い人に報告する。いいな?」


「内密にって言われてないからいいと思うけど。なあみんな」


 カートマンが聞くとみんなが同意する。


「大人がわからないんじゃ、俺たちにわかるわけねえしな。おっちゃん、お願い」


「おう、じゃあ少し待っててくれるか」


 とガキどもは売店で待たされる。

 なんか、かわいそうになってきたぞ。

 無茶なパシリした感よ。


「なんか大事になってね?」


「おっかしいなあ。ちゃんとシャルロットちゃんとデートしたときの物価で計算したよ」


「だよなあ」


 おかしいな。

 なにがあったんだろ?

 すると今度は学校事務の偉い人がやって来た。


「なに? 銀貨だと!?」


「ええ、そうなんです。この注文書じゃ全部で銅貨100枚程度。多すぎるんですよ」


 するとカートマンが言った。


「そういやマコト様が俺たちの身の回りのものを用意しろって」


 すると売店のおっちゃんがツッコむ。


「身の回りのものってそこの銅貨で足りるだろ」


「だよねー」


 なんてやりとりの後に事務の偉い人がボソボソと言った。


「マコト様は王族です。意図を我々が考える必要があるかと」


 いやなんにも考えてないッス。

 するとカートマンが首をひねって言った。


「もしかして王都の高級店が並んでるとこの価格だと思ったんじゃね? 値札ついてる店の値段しか知らないとか」


 え……?

 値札ついてるとこってもしかして高級店なの?


「ねえセレナ……」


「失敗したかも……てへ♪」


 セレナはペロッと舌を出してかわいいフリをする。

 普段の毒舌のせいで効果ない。

 お前もか!

 ってよそ者だからわかるわけねえよな。


「まさかそんなはずはないでしょう。これは秘密の情報なのですが、マコト様はあのリッチを討伐された英雄とのこと」


「え? リッチって最近討伐されたってあれ? 会ったら死ぬっておとぎ話に出てくるあれ? あのマコト兄ちゃんが?」


「ええ、マコト様の意向で近衛騎士団の活躍となっておりますが……歴史に残る英雄になるだろうと言われてます」


 ならないならない。

 この惑星の人型労働生物と狂ったAI掃除したらダラダラ生きる予定だし。


「そう言えば問題が起こったら神殿のアリシア殿を呼べという注意書きが回ってきたような」


 思い出したように事務の偉い人が言った。


「それだ!!!」


 全員で指さす。

 いや直接俺に言えばいいと思うのよ。

 向かおうかな。


「もう遅いんじゃね? ほら神殿に誰か行ったよ」


 で、小一時間ほど経ったら走ってやって来た。アリシアちゃんが。

 アリシアちゃん、なんか昇進して王都勤務になったんだよね。


「今度はなにやらかしました?」


 初手ブチ切れてらっしゃる!!!


「いや、みんな家具とか服とか新調して。で、それだけだと同僚の恨み買うからお菓子配ればいいじゃんってお金渡したのよ。そしたら大騒ぎに」


「どこの高級店で頼むつもりだったんですか!!!」


「シャルロットちゃんと出かけたときの値札見て計算したもん!」


「がっつり高級店じゃないですか!!! 領主クラスの貴族が平民の店があるとこウロウロするはずないでしょ!!! この金額じゃ聖堂の修復事業とかで寄付する金額でしょ!」


 たまらずアリシアちゃんが俺の頬をつっつく。

 うりうりうりー。やーめーてー!


「喜ぶな童貞!!!」


 セレナが一喝。

 は? 思わずトリップしそうになった。


「こほん、それでどうします?」


「修理します? 聖堂。もうちょっと出せますけど」


「やめてください、恐喝したみたいじゃないですか!!! そういうのは取引とか駆け引きがあるんですからね。いきなりぽんっと金出されたらこっちも困ります」


「えー、なにかないですか?」


「各地の難民が王都に集まってます」


「ああ、外周の」


「ええ、炊き出しや学費の援助、職の斡旋などは随時行っていますが、お金がいくらあっても足りません」


「じゃあそれで」


「いいんですか!」


 がぶり寄りから手を握られる。

 なに? どうして?


「いやーよかった! 領地も守れなかった負け犬扱いで寄付金も集まらないんですよ!」


 うわーお。

 自己責任論の範囲が広すぎる!!!


「あの……なんでそんなに当たりが強いんですか? 被害者なのに」


「そうですねえ。例えばシャルロット様。彼女が評価されてるのも、一度は奪われた土地を取り戻したからですよ。そうでなければ負け犬扱いで爵位も財産も没収されて放り出されたでしょうね」


「お兄ちゃん。愛されるわけだわー。シャルロットちゃんの人生の危機を救ったのか」


「バルガス家も同じですよ。彼らも返せないほどの恩義を感じているはずですよ」


 するとバンッと扉が開かれてシャルロットとサーシャが入ってくる。


「大丈夫か!? アリシアがすぐに来てくれって言ってたぞ!!!」


「マコト様! 問題が起きたと聞きましたが!!!」


 二人は入ってくると抱きついてくる。


「お呼びしたらすぐに来てくれましたよ。わからないことがあればお二人に聞けばよろしかったのでは?」


 その発想はなかった……。


「ま、そう言うなアリシア。マコト殿もキャンプに向けて指導に熱が入りすぎたのだろう」


「そうですよ。ここで指揮能力を見せねばなりませんから」


 シャルロットとサーシャが言った。

 ちょっと待って。


「え? なにそれ? 聞いてない」


「え?」


 連絡ミスがひどすぎる。

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