第50話

 夜。


「あーくそ、やってらんねえ!」


「お、おい! こんなとこいたら死んじまう!」


「おう! 逃げるぞ!」


 と子どもたちの声が聞こえたのでテントへ突撃!


「寝られないのか! 遊ぼうぜ!!!」


 よっし、今度はバスケットボールを……。


「ぎゃあああああああああああああッ!」


「なんでバレたぁ!!!」


「ああ、うん。ナノマ……精霊に様子見てもらってたし」


「絶対お前と遊んだりしねえからな!!! 死ね!!!」


 と言って三人ほどが逃げる。

 他はすでにあきらめた顔をしている。


「君ら逃げないの?」


「あんたから逃げ切れる気がしない。鍛えてチャンスを待つ。あと逃げなかったからおやつくれ!」


 年長の子がそう言うと、他の子たちも声を上げる。


「そうだそうだ! あとメシだけはいい!」


「メシがいいから逃げない。でもあとで絶対仕返ししてやる!!!」


「行くところないし絶対逃げない。おなかすいたー……」


 あら賢い。

 ナノマシンのステータスを見たら栄養が切れてたので、夜食をオーダー。


「はいはい、夜食ですよー」


「野郎ども夜食だぞ!」


 セレナとくっころちゃんがレーションを配ってくれる。

 俺もペットボトルとかの重い荷物を配る。

 ガキどもはそれを奪い合う勢いで食べる。


「はっはっはーいくらでもあるぞ。仲良くしろよー。あとちゃんと水分取れよー」


 水分取らないと血が濃くなって修復遅れるからな。

 ナノマシンによる急速回復。

 その飢餓感は大人じゃないとキツいよな。

 はっはっは、食え食え。

 水分もナノマシンが使いまくるから、おねしょの心配もないしな。

 食べるのを見届けて俺はテントの外に出る。

 そろそろ敷地の外に出た頃かな。

 まったく飯より遊んで欲しいなんて寂しがり屋だな。

 じゃあ追いかけっこはじめ!!!


「ふははははー! 待て待てー!!!」


「ぎゃあああああああああああああッ! 来たーッ!!!」


「ふはははははははははー!」


 もうね、こいつら。

 王都の街に逃げたらすぐに捕まると思って、学園練兵場裏の森というか林に逃げ込んでるの。

 危険な動物はそんなにいないだろうけど、コケたら怪我するじゃん。

 はやく捕まえないと。

 というわけで飛んで木を蹴りながら移動。

 上から急襲して一人確保っと。


「うんぎゃあああああああああああッ!」


 と悲鳴を上げてパタンと気絶。

 そっかー、遊び疲れて寝てしまったか。

 しかたのないやつだな。


「ケニーが捕まった!!!」


「ちくしょー! この人でなしめー!!!」


 と茶番と演じてたので、茂みから飛び出て横からかっさらう。

 はいもう一人ゲット。


「ぎゃあああああああああああああッ!」


「く、くそ! もう俺一人か!!! に、逃げてやる! 俺はスラムで頂点に立ってやるんだ!!!」


 と面白いこと言ってたので真上からローブでグルグル巻きにして確保。


「はーい、終了」


「俺たちが何もできずに捕まるなんて嘘だー!!!」


「はっはっはっはっは! 腹へっただろ、夜食用意したからな」


 と問答無用でテントに連れていく。

 すると三人組の最後に捕まった子がブツブツ文句を言ってる。


「てめえ、ふざけんな……」


「おう、どうしたちびっ子」


「俺はスタンリーだ! もてあそびやがって! どうせ俺らがスラム出身だからってバカにしてんだろ!」


「バカにするほどスラムのこと知らんがな」


「ああん! スラムを知らねえだと!? てめえどこの田舎からやって来やがった」


「ものすごく遠くかな。俺の故郷、戦争で滅亡しちまってよ。俺とセレナたちしか生き残ってねえのよ。しかも俺、軟禁されてたから外のことよく知らんのな」


「……うん……俺が悪かった。兄ちゃんも苦労してんだな」


 なんか同情された!!!

 テントに入ってセレナたちが温めた飯を食わせる。

 逃げるのにエネルギー使いすぎたんでメシだって。

 肉体の限界を超えて走ってたらしい。

 うん、ナノマシンの使い方を憶えたのか。えらい!

 しかもなぜか、もう逃げようとしてないようだ。


「おう、兄ちゃん! メシは食わせてもらった! 俺たちはなにすればいい!?」


 完全栄養食のパンとプロテインミルクを飲みながらスタンリーが聞いた。

 特にないのだが。


「特にないぞ」


「他の貴族のところに行ったやつは仕事たくさん押しつけられてるぞ。洗濯とか掃除とか!」


 あー、そうか。

 洗濯掃除から規律を教えるのか。

 なるほどな。

 残念なことにその辺のノウハウねえのよ。

 共和国のだと技術レベルが違いすぎて参考にならねえし。

 その辺はおいおい考えるとして……。


「遊びにつき合ってくれれば」


「さっきのノリでやられたら死ぬからやだ。もっと手加減しろ」


「ウス、わかった」


「なんだろ? セレナ、落下傘降下訓練していい? 徐々に高度上げて軌道上からのパラシュートなしの戦闘スーツ降下やるのを目標にして……」


「ダメに決まってんだろ!!! できるのお兄ちゃんだけだからな!!!」


「えー……、なんだろう」


 惑星日本の一般人レベルを目標にしてたが、遊んでれば目標達成できるしな。

 んー?

 じゃあ、お使いでも頼むか。


「セレナ、例のコインあったじゃん。あれ渡してみる?」


「ああ、それな! いい考えじゃん」


 コンテナを漁ると出てきた。

 鋳造した偽コイン。

 銀貨と銅貨でいいか。


「これ使え」


 ずしっと音がした。


「はあ?」


「お使いミッション。必要物資を手に入れること。手に入れるものの一覧は明日渡す。余った分は好きに使え」


「は? はああああああ? あんた正気か!?」


「なにがよ?」


「スラムのガキに金渡すって、持って逃げるぞ」


「逃げられない」


「使っちまうぞ」


「別にいいぞ? それのテストもあるし」


「なんだって?」


「いやなんでもない」


 いや使用してみてのテストもあるでな。

 ほら、地元ルールとか慣習とかわからないから。

 学園通せばそのへんちゃんとやってくれんだろ。


「あのな、金と注文書を売店に持っていく、おつりをもらう、残りは自由に使え。以上だ」


 いいから買い食いでもしろって。

 みんなの分のお菓子でも買ってこいって。

 お前らの給料分も上乗せしてあるんだって。

 いるだろ?

 服とか家具とか寝具とか。

 金の面じゃ不自由させんぞ。

 どこでなに買えばいいとかの情報はないけどな。

 俺もいろいろ学ばんといかんな。

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