第48話

 さーて、問題児ばかりのハーレムを築いた俺への男子生徒の目は尊敬に染まっていた。

 尊い存在すぎて逆に話しかけてもらえない。

 ぼっちやんけ!!!

 俺はまだ問題起こしてねえぞ!!!

 そんな俺のところにクラウザーくんがやってくる。


「マコトくん、受け持ちが決まったよ!」


 受け持ち?

 よくわからずに校庭に案内される。

 セレナやくっころちゃんも一緒にやってくる。

 するとそこには12歳くらいまでの子どもたちがいた。


「え? なに?」


 人数は20人ちょい。

 サッカーや野球なんかの球技ができるくらいだ。

 ラグビーには少し足りないかも。


「なにって指揮の授業の子だよ。僕らがこの子たちを指揮するんだ。僕らは彼らの衣食住の面倒を見て軍の仕事を学ぶんだ。市民や騎士階級の子には学校から予算も出るよ……僕ら王族は出ないけど……」


 ……つらい。

 いや金はあるんだけど。


「ああー、それ帝国士官学校式教育! 下のものの面倒見させて軍の仕事を総合的に学ばせるってやつ! 責任感と秩序を学んで士官学校の学習時間を最大3年減らせるんだって」


「へー。合理的だね」


「それがさあ、イジメとリンチの温床になって廃止されたんよ。子どものやることだしねえ。あと予算使い込んでご飯食べられない子が大量に出たり……」


「ダメじゃん! クラウザーくん、こっちは問題ないの?」


「うん、たまにあるけど。成績に直結するし、この授業の成績が悪かったら容赦なく廃嫡されるから大丈夫かなあ。報告書の書き方の学習もあるから週一回の報告書出さなかったら呼び出されるし。先生たちも後に上司や部下になる子だから、ちゃんと監視するし。そもそも僕ら自身、代わりなんていくらでもいるからね。みんな必死だよ」


 命の価値が安すぎて下のものが逆に安全というパラドクス。

 帝国も共和国も領土の広さに反して都市惑星は少子化だもんねえ。

 人口の多い地方の惑星は自分とこの開発で手一杯で都市部に人を出さないし。

 結果アホが士官学校入学して下のものが被害を受けると。

 結局、都市惑星の上流階級が下層階級を駒にして戦争してるだけだもんね。

 共和国も似たようなもんだよね。

 ……なんか腹立ってきたぞ。


「お兄ちゃん、ステイ。どうせ思い出しムカつきしてるんだろうけど、もうみんな死んだから」


「そうだな」


 俺は子どもたちの方を見る。

 痩せてるな。


「セレナ、くっころちゃん、この子たちの体どう?」


「共和国の健康水準からすると痩せすぎだね」


「帝国の基準でもかなり痩せてるようですね」


「そうかあ、うん、決めた。クラウザーくん、俺と君の班の子たちとみんなで一緒にご飯食べよ」


「うん! いいけど人数多いから食べ物屋さんの注文難しくないかな?」


「それは大丈夫。なあ、セレナ」


「そうだねお兄ちゃん。クラウザーくん、どこか広いとこある?」


 くっくっく。こちらには大量の食べ物があるのだよ。

 ついでにナノマシン一服盛ろうっと。


「あるよ! 練兵場の使用許可取るね」


 練兵場でご飯。

 まずは缶詰を煮る。

 はい、すぐにできるから待っててね。

 クラウザーくんの受け持ちの子たちはさすがに血色がよかった。

 ちゃんとごはんを食べられてる顔だ。


「僕の班の子も最初は痩せてたんだ。ここまで面倒見たけど、でも指揮は勝てないねえ」


 話を聞く限り王族への忖度はないようだ。


「ねえねえ、クラウザーくん。この子たちって騎士の家系の子なの?」


 と、セレナがどストレートに聞いた。

 ちょ、おま、直球すぎだろ。

 俺、空気読んで聞かなかったんだぞ!!!


「両親が戦死した騎士の家の子だったり、貴族の家に士官を望む平民の子だったり様々だよ。志願して候補生になるんだ。この授業を乗りこえたら学費無料だし、成績がよければ王国の騎士団へ入団できるんだ」


 奨学生ってわけか。なるほどね。

 共和国の工兵学校と同じだな。


「じゃあ、ほとんど普通の市民階級?」


 今度は俺が質問する。


「僕のとこの子は騎士や貴族の子ばかりかな。僕の所ならご飯の心配はないから、なるべく困ってる子を希望したんだけど、気の弱いお前には難しいって父上が……」


 そういうのはあるのね。


「マコトくんの班は王都の外周出身の子だって」


「外周?」


 思わず聞くとクラウザーくんは困った顔をする。


「主に城壁の外にあるところなんだけど、街が滅んで王都に逃げてきた人たちが住んでる地域なんだ。本当はどうにかしなきゃいけないんだろうけど、王国も予算には限りがあるから……あ、でもマコトくんのおかげでこうやって候補生を増員できたんだ!」


 金のカーネルサン○ースの効果がこんなところにまで。


「それでまずは実戦経験者のマコトくんにまかせることにしたんだって」


「でも俺、指揮はそんなに得意じゃないよ」


 なんたって、人類滅亡直前まで二等兵ですし。

 士官教育なんて受けてないよ。


「大丈夫だよ! マコトくんだし!」


 謎の信頼が……。

 う、その目やめて! ちゃんとやるから!

 俺が苦しんでると、調理完了。

 班の子たちにご飯を渡す。

 身分はあえて考えず、並んでもらう。

 皿に盛って渡す。

 配膳は俺とクラウザーくんとセレナにくっころちゃん。

 クラウザーくんの班の子たちは申し訳なさそうだった。

 いいのいいの。気にすんなって。

 もの凄い勢いで食べまくる子どもたち。

 お腹空くよねえ。いいからお食べ。

 そんな子たちにほっこりしながら会議。


「訓練とかってどうするの?」


「うん、マニュアルは図書館にあるんだけど、最低限だから模索しながらかなあ。僕のとこは走ったり相撲取ったりしてるよ」


 相撲好きだったんだな。鬼瓦権蔵。


「セレナ、どうすればいいと思う?」


「わからない。戦術AIと練兵マニュアルはあるけど戦術そのものがここと違うし。むしろ惑星日本式の方がいいんじゃない。頭おかしいヤツじゃなくてソフトなのあるでしょ?」


 とうとう惑星日本式解禁か!!!


「それってエルダーの国の訓練?」


「そうそう。じゃあクラウザーくんの班も一緒にやろっか?」


「うんやろう!!!」


 と俺たちが盛り上がってるとくっころちゃんがぼそっと一言。


「絶対にまかせちゃいけない人にまかせた予感がするのですが……」


 結構毒舌だよね。キミ。

 あとめっちゃ食べるね。


「おやつもあるぞ」


「ください!!!」


 なお全員にナノマシン盛った。

 共和国宇宙海兵隊へようこそ。

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