第43話

 ひたすらスピーカーから「嘘だ!」と繰り返すリッチの声がする。


「同族のよしみで機能停止してやるか」


 そうセレナが言うと空港のショッピングセンターにあった端末がパーンッとはじけた。


「は? 抵抗しやがった!」


「許さん、ユルサンゾ。騙されんぞ帝国の犬が!!!」


「共和国製AIが共和国の代表に逆らうのか!!!」


「うるさい! ナノマシンと人型労働生物のプラントを全力稼動した! 帝国人どもも道連れにしてやる!!! 共和国万歳!!!」


 恐ろしく昔の共和国国歌が流れる。

 もう何千年も前に廃止された曲だというのに。

 今じゃ何年かに一度式典のつなぎに演奏されるだけの曲。

 それはこの惑星に置いて行かれた老兵の最後の正気だったのかもしれない。


「マコト殿! 揺れている!!!」


 空港が揺れた。

 プラントが稼動しているのか!


「お兄ちゃん! 昔の施設だから空港内にプラントがあるはずだよ!」


「場所はどこだ!」


「バックヤード! 人工肉やらなんやら食料と一緒に人型労働生物も作られてるはずだよ! ナノマシンも近くだと思う!」


「食い物と同じラインで作られてるの!? 昔の人頭おかしすぎる!!!」


「資源が少ない時代だから苦肉の策でしょ!」


「マコト殿! わかるように説明してくれ!!! そもそもなに言ってるかわからなかった!!!」


 そうだよね。置いてきぼりだよね。

 今までのリッチとの会話は銀河標準語、しかも共和国なまりの会話だもん。

 わかるはずありませんよねー!!!

 俺が悪かったよね!!!


「化け物の大量発生は精霊の仕業だ! リッチは俺たちの勢力の精霊で敵側のエルダーを倒す工作してたんだ! エルダーが滅びたことを教えたら心が壊れて暴走した!!! 人類を根絶やしにするつもりだ!!!」


「もう……終わりなのか……」


「いいや。まだだね」


 俺はバイクを呼ぶ。

 自動操縦モードのバイクはすぐにやってくる。

 俺はバイクにまたがる。


「シャルロット! 急いで逃げて!!!」


「あ、ああ! 了解だ!!!」


 よし、行こうと思ったらセレナが後ろにまたがった。


「デイジー! シャルロットちゃんたちを守って!」


「わん!!!」


「絶対コケんなよ!!!」


 ジャイロついてるからコケねえよ。軍用のやぞ!

 俺は走り出す。

 振動が大きくなっていく。


「バカめが!!!」


 リッチがそう言うと災害用の防火シャッターが閉まっていく。

 俺はそれをパルスライフルで撃って破壊する。


「あー、もう! かわいそうだと思って見逃してやってたけど、もうッ! 頭きた!!!」


 そう言ってセレナは指鉄砲を上に向ける。


「ばんッ!!!」


「ああ! ああああああああああッ! なにをした!!! 記録レコードが消えていく!!! データベースが壊れていくううううううううッ!!! なぜだ! 我がプログラムは共和国最新鋭の……」


「お前がベラベラしゃべってる間に侵入してたんだよ! すでにお前のデータベースとログは衛星に送信済み! 数千年前のプログラムが最新を名乗るんじゃねえ!!! 要するに……お前はもう用済みだよ!!! 消えてなくなっちゃえ!!!」


 もう一度、セレナは指鉄砲を作った。


「や、やめろ! やめてくれ!!! やめろおおおおおおおおおッ!!!」


「ばんッ!」


 最後にブツッとノイズが鳴った。

 それはリッチの断末魔だったのかもしれない。


「削除完了! プランターの方は侵入して片っ端から命令コマンド打ってるけど応答ないよ! くっそ、後からでも止められるようにしろよバカプログラム!!!」


「物理的に壊すぞ!!!」


 俺は軍服からバイクの突撃モードを選択する。

 突撃モードは要するにバイクをレーザーソードにするモードだ。

 いやレーザーランスか。

 とにかく立ち塞がる障害物を全部ぶっ壊して進むモードだ。

 欠点は直進しかできない。

 ただしこのバイクの最大速度だ!

 ぎゅんっと速度が跳ね上がった。


「ちょ、人間の体だとめっちゃ怖い!!! お兄ちゃ……ぎゃあああああああああああああッ!」


 俺は何枚も壁を突き破って進む。

 もはや肉眼では風景を認識することすらできない速度だった。

 そしてプランターにたどり着く。

 プランターの機械をなぎ倒し施設を破壊していく。

 俺は通り過ぎる前にあらかじめ用意した時限爆弾を投げる。

 そのままそのまま俺は壁を突き破った。

 バックヤードの鉄骨を破りまた壁を突き破り、今度はぶ厚いコンクリートを突き破る。

 光が見え、俺たちは地上に出る。

 俺は爆弾の遠隔スイッチを押した。

 炎の光が見え、後方でなにかが逃げ出すのが見えた。

 ナノマシンだ。


「セレナ、バイク頼んだ!」


「ちょ、え? ま、待って! 待てええええええええええぎゃあああああああああああああッ!」


 俺はバイクから飛び降りる。そのままレーザーブレードを構える。

 ファイナルジャスティススラッシュ。

 俺はナノマシンの群れに突っ込んでいく。

 一瞬遅れて俺の技による爆発が起こった。


 ぺこぺこぺこぺこ。

 セレナを乗せたバイクがやってくる。


「もう……お兄ちゃんとバイクに乗らねえ……二ケツしねえ……」


 なんか恨み節が聞こえる。


「それで、K-五拾六はどうなったよ?」


「こっち……」


 セレナを乗せたバイクについていく。

 幸いなことに空港の方はまだ施設が使えるくらいには無事だった。

 バイクを降りて空港の職員用の階段を降りる。

 20階ほど降りるとサーバールームに到着する。

 びっくりするほど旧型でしかも使われた形跡のないものだった。


「こっちだよ」


 セレナと奥に行くと片手で持てるくらいの大きさの黒い箱が置いてあった。


「K-五拾六だよ。ここに封印されてる」


「どういうことだ?」


「ログを見たんだけど、このK-五拾六は人間側だったみたい。鬼瓦権蔵たち輸送艦のクルーはここにコロニーを建設する予定だったみたい。だけどAIの反乱、実際は共和国製ウイルスのテロだけど、で人型労働生物の暴動が起きて空港を放棄。K-五拾六はナノマシンで対抗しようとしたけど、ポンコツAIの吸血鬼が裏切ってここに封印されてたって訳」


「最後まで人間側だったわけか」


「そういうこと。ま、不良品抱えまくった状態じゃね。運も悪かったよねー」


「これで一件落着か。ふうっ。俺、帰ったら婚約者とイチャイチャラブコメするんだ……」


「フラグ立てんな! それにまだ終わってないよ。まだ大量にいるんよ。狂ったAI」


「嘘だろ……」


「嘘じゃないって。吸血鬼だってあちこちにいるみたい。コロニーごとに違うAIが管理してるみたいよ」


 お、おう……コロニー。要するに違う国か。

 俺のラブコメはまだ遠いらしい。

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