第42話

 光束の落ちたライトの光。

 その先には地下鉄の駅があった。

 銀河公用語と日本語で「ナリタ・エアポート・ステーション」と書かれている。

 漢字じゃないのか?


「お兄ちゃん、ここ惑星千葉を模してるみたい。当時の内装と同じだよ。この当時は数回の大戦の影響で漢字の大部分が失われてたみたい。かなりがんばってたんじゃないかな」


「あー、だから鬼瓦権蔵もドイツ貴族風に改名したのか」


 漢字表記できなきゃ改名した方が楽だしな……。

 惑星日本も惑星さいたまもそういう日本復興運動でできた惑星らしいし。

 ま、いまは両方消滅したけど。


「空港の機能は?」


「エレベーターとかエスカレーターみたいな動くものはあきらめた方がいいかな。飛行機も危ないから衛星で作ったものの方がいいよ。コンピューターは生きてるみたいだから管理権限取得しとくね」


「了解」


 今度はシャルロットを見る。


「シャルロット、セレナによるとここは先史文明の遺跡だって」


 シャルロットに説明するていで、その場にいるみんなに説明する。


「理解が追いつかないな……エルダーの残した遺跡なのか」


「そういうこと。施設が古くてあちこち壊れてる。いま安全なルートを割り出してるから待機してね。床抜けたりするから」


「ああ、了解した」


 その場で休憩してもらう。

 俺も休憩。

 お掃除ロボットが行き交う。

 シャルロットたちはお掃除ロボットを見てびくっとする。


「だから敵じゃないって。ただの掃除用ゴーレムだから」


「そう言われてもな。どうしても警戒してしまうのだ」


 まあしかたないよね。

 するとセレナが声を上げる。


「お兄ちゃん、生体反応あり。監視カメラがいくつか生きてたから見るね」


 そう言うとセレナはターミナル端末の蓋を開け、回路に持参したチップを取り付ける。


「よーし、これで入り口できた。さーてどれどれ」


 そう言うと、セレナは俺たちに見せるためにノート端末に監視カメラの映像を転送する。


「場所はこの駅の上。空港のショッピングモールだね」


「なんでこのクラスの惑星にショッピングモールがあるんだよ……この時代ってキットとかねえの?」


 建築用のドローンに基本形のキットが組み込まれてるはずだ。


「昔のキットは当時あった企業とコラボしてショッピングモールとかレストランとかいらん機能がついてたみたいね」


「自販機でいいじゃん」


「この時代は自販機より調理ロボットの方が安かったの。それに『ぱいせん』だってお兄ちゃんがいないとこじゃ人間が調理してたし」


 聞けば聞くほどひどい待遇である。


「手作り料理ってなによ!」


「あー、もー! キレるのそこかよ!!! ったく、さすが『キレるのは食い物のことだけ!!!』で有名な惑星日本の日本人な!!!」


 おまえ、日本人は食い物切れたら暴動起こすからな。わかれよ。


「いいから任務!!! あとでなんか作ってやるから!!!」


 わーい!

 そこは集落だった。キリッ!

 数え切れないほど大量のゴブリンやオーガがいる。


「人型労働生物の巣かよ……」


 これで人間でも食ってたら、今すぐ乗り込んで皆殺しにするところだ。

 だがその気配はない。

 人型労働生物はただウロウロしてるだけだ。

 ただわからないのは吸血鬼がいないことだ。


「この量と戦うのは面倒だよね。おっと、眠ってる警備ドローン発見。ここと繋がってるから起動するね。はい、テロ鎮圧モード」


 警報音が鳴る。


「空港内で銃撃事件が起きました! 空港内で銃撃事件が起きました! お客様は慌てず避難を……」


 警備ドローンが起動する。

 壁が開き、実銃を装備した車両型ドローンとヘリコプター型ドローンが出てくる。


「人型労働生物を敵マークするね!」


 タタタタタタと実銃が発射される。

 ドローンは正確に人型労働生物の急所を撃ち抜いていく。

 人型労働生物の悲鳴が地下の俺たちにも聞こえてくる。


「念のためっと」


 俺はライフルを散弾銃モードにして階段で待つ。

 するとすぐにやって来た。


「なんだ! なにが起きた!!!」


「外の連中が死神って騒いでたらしいぜ!」


「なんでもいい。ここから抜け出して人間食おうぜ!」


 はい処刑。

 やって来た三体のゴブリンにパルスライフルの散弾銃を浴びせる。

 俺を見て後続が「ひいッ!」と叫ぶと空港に戻っていく。

 だが押し寄せた人型労働生物とぶつかり将棋倒しになる。

 そのままドローンがやって来て始末される。


「お兄ちゃんこっちも来たよ!」


 エスカレーターのシャッターをこじ開けゴブリンが入ってくる。


「わんッ!!!」


 柴犬型ロボットのデイジーの目からパルスライフルが発射される。

 先頭の体に穴が空き倒れ、それに足をとられ後続がエスカレーターから転げ落ちる。

 そんなゴブリンにシャルロットたちも一斉掃射。全滅した。

 ……うん、エスカレーターも原型を留めてない。

 使えなくなった。

 それを知らずにさらにゴブリンが押し寄せるが次々と下に落ちていく。

 さらに追撃。

 もう施設維持しなくていいよねと俺は火薬の方のグレネードを投げ込む。

 ぼんっと音がして地下鉄ホームは地獄のような有様になった。

 生きてるゴブリンにトドメを刺して終了。


「ひ、悲惨すぎる……」


 と、主犯格のセレナがぽつり。


「人間用に作られた構造物内で戦闘したらこうなるよね」


 なのでよくわからん慰めの言葉をかける。

 空港のショッピングセンターに入ると人型労働生物の死骸だらけだった。

 その中にショッピングセンターの宣伝のために置かれた像があった。

 それらは血や泥で装飾され人間の骨が飾られていた。

 どうやら信仰の対象だったようだ。


「ここの人型労働生物、やけに頭よくない?」


「だな、でもなんで?」


 いくらAIに違法パッチを当てて他と言えども、ここまでやるには人間の承認が必要だろう。

 するとショッピングセンターのライトが一斉に光った。

 催事用の飾りまで光っている姿はまさに異様としか言いようがない。


「愚かな人間どもよ……とうとうここまでやってきたようだな……」


 するとスポットライトが光る。


「我こそはリッチ! 邪神の右腕にして絶望の名を冠するもの!!!」


 現われたのはローブを着た骸骨。

 頭に王冠を被り、左手に本を持っている。

 ドンッと音がして施設の壁に花火が打ち上がる。

 シャルロットは「なんだ……あれは……」と驚愕し、ゴードンの兄貴や近衛騎士隊も驚愕していた。

 だが俺たちはスンと意気消沈していた。


「なにが出てくると思ったら……お兄ちゃん、ホログラムだよ」


「そうだな。ホログラムだな」


 だって花火は投影された映像だし、その画質も最新のVR映画に比べれば画質が荒く見てられない。

 なんというか昔の画質だなとしか感じられなかった。


「な、なんでそんな残念な表情をするな!!! おい、お前ら聞いてるのか!!!」


 ライフルで投影機を撃つ。

 一個壊すと赤色がなくなり、二つ目を壊すと青、最後に緑。

 すると骸骨の姿が消え去る。


「種はわかってんだよ。お前の正体は、おそらく……ハッキングツールについてきたAI人格つきウイルス」


「貴様……なにを知っている?」


「なにも。ただ輸送船船長の鬼瓦権蔵がやったにしては手が込みすぎだ。同時期に惑星が全滅するような事件が頻発したらしいしな。共和国の破壊工作だったのかただのテロだったのか。どちらも滅んだ今となっては真相はわからんけどな」


「共和国が滅んだ……だと?」


 心の底から絶望した声だった。

 ああ、共和国製の工作AIか。


「ああ、滅亡した。俺とほか数人、それにこの惑星の住民が最後の人類だ。セレナ、データ渡してやれ」


「了解。いまデータ送るね」


 データが送信される。

 セレナのことだ。相手にも開くことができる形式で送ったのだろう。

 するとリッチの金切り声が聞こえた。

 それは胸が痛くなるような悲痛な声だった。


「嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 何千年も共和国の命令に従って人間を管理してたのに! 滅んだなんて! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ!」


 しばらくするとリッチは「嘘だ!」をずっと繰り返すようになった。


「お兄ちゃん、AIの人格崩壊を確認」


 リッチは延々と「嘘だ」を繰り返していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る