第41話

 一度テントに戻ってきた。

 そこで俺たちは……。


「ぎゃははは! ストレージコピーして最新の汎用チップ取り替えてガワつけて」


「ぴぴぴ! ぴぴー!!!」


 悪の組織が改造手術してる。

 なぜか俺は後ろで見学させられる。


「はい、できたー!!!」


「わんわん!!!」


 オイコラ。

 そこにいたのは柴犬だった。大きさからすると豆柴。

 犬型の戦闘用ロボット。

 その小型犬シリーズ。

 もともとは配管や小さな通気口からでも侵入して敵を殲滅する用途に開発された。

 だが見た目がかわいいので一般用に売ったら子どもの護身用にと大ヒット。

 ペットロボット業界に激震を起こしたと言われている。

 ネットニュースでしか知らんけど。

 こんななりだがパルスライフル装備。

 光学迷彩とシールドもあるため、戦闘ロボットの中でもかなり強い。

 そりゃ人間の目玉型のよりはこっちの方がいいわな。


「ペット、欲しかったんだな……」


「うん!!!」


 ほぼ女児の行動である。


「わん!」


 犬型ロボットはしっぽを激しく振っている。

 なぜか飼い主というか製造主のセレナを無視して俺に体をすりつける。

 人工筋肉と人工毛で質感はまさに子犬だ。

 温度も子犬っぽく暖かい。


「きゅーん!」


「やたら愛想がいいな。女性型か」


「うん、性別設定してあったからそのままにしたよ」


 なでろとお腹を見せる。

 はいはい、なでなで。

 激しくしっぽをふりながら身をよじらせる。


「お兄ちゃん……うち、なんの設定もしてないんだけど……AIにモテる謎のフェロモンとか出してない?」


「ねえよ、たぶん」


 なでる手を止めると前足でペシペシ叩いてくる。かまってチョップ。

 そのうち指をはむはむしてくる。

 セレナが代わりになでるが不満そうだ。

 表情が違う。

 AIにモテる説……。本当に?


「露骨に反応が違う。おかしいなログ見てみるわ。なになに……『しゅき! しゅき! しゅき! しゅきー!!! しゅき? しゅきしゅき!!! しゅきー!!! うれちいしゅきー!!!』 え? なにこれ!?」


「一瞬正気に戻ってるのが謎だな」


「やっぱお兄ちゃんから謎の電波が……これが惑星日本の日本人……」


「やめて、日本人でもさすがにそれはないから」


 セレナは「うーん」と渋い顔をしたが立て直す。


「わかんねえや。でさでさ、ストレージをダンプして解析したんだわ。でさでさー、あそこの遺跡、K-五拾六を封印してるみたい」


「封印? そんな施設いる? むしろわかんねえように穴掘って埋めるだけにするだろ」


 学校の歴史でも習う出宇宙前のビデオゲームの墓場もそうだ。

 本当に見られたくないものは入り口なんて作らない。

 雑に埋めて隠すものなのだ。

 うむ、意図がまったくわからん。


「それにしても危険なAIを当時の技術で封じることができるなんて鬼瓦権蔵、実はできる男?」


「そう考えると辻褄は合うんだけど、今度は封印した場所を派手に飾る意味がわからないんだよね。しかも忘れられてるし」


「ですよねー」


「もう行くしかないでしょ!」


 と言うわけで全員に情報を共有して出発。

 それと戦闘ロボットをみんなに紹介。


「これセレナが捕獲したゴーレムを作り直した。こう見えてすごく強いんで」


「ですですー! えっへん!!!」


 シャルロットが見てる。

 すごく見てる。

 ガン見している。


「お手」


「わん♪」


 お手をするとにおいを嗅がせて首をなでる。


「いい子いい子」


「わん♪」


 そのまま嫌がらないのを確認しながら抱っこ。

 骨は軽量合金なので5キロくらいか。

 シャルロットはわんこを気に入ってしまったらしい。

 お腹をなでる。


「かわいい」


 そのまま抱っこして移動しようとしたので注意。


「シャルロット。そいつ護衛だから。下に降ろしてあげて」


「わんわん!」


 しゃきーんっとする。


「うう、わかった。マコト殿、名前は?」


「あ、決めてないや」


 忘れてた。


「ではデイジー。お前はデイジーだ」


「わんわん♪」


 シャルロットとデイジーが「あははうふふ♪」してる。

 すごくほほ笑ましい。


「お兄ちゃん、私がマスターなのに扱い悪いの納得できないんだけど」


「改造手術したの恨まれてるんだろ。あきらめろ」


 遺跡の扉の前に立つ。

 わんこのデイジーが「わん!」と吠えると扉が開く。


「純正の認識チップだから簡単に開くわー」


 と外道な妹が得意げに真っ平らな胸を張る。

 中に入ると俺とセレナは同時に感想をつぶやいた。


「駅っぽいわー」


 戦艦の中の駅。

 そこはサーバールームと居住区を繋ぐモノレールの駅そっくりだった。

 いや戦艦『ぱいせん』の方がはるかに型式が新しいのに似てる。

 逆に異常性が際立つ。

 違うのはモノレールではなく線路というくらいだろうか。

 おそらく地下鉄だな。


「人間はあんまり進歩しなかったのかなあ」


 古い型のお掃除ロボットが行ったり来たりしている。


「列車は使えそうか?」


 そう聞くとセレナがデイジー経由で交通システムにアクセスする。


「ダメみたい。センサーオールレッド。線路もそのまま使うと危険。こういう乗り物系は人間がメンテナンスしないとあっと言う間にダメになるから」


「下から給電する方式じゃないから線路に降りて歩くしかないかなあ」


 シャルロットやゴードンの兄貴、それと近衛騎士たちはその異常性に恐れおののいている。

 けど俺とセレナが線路に降りてくと意を決してついてくる。

 パルスライフルを構えながら薄暗い線路を進む。

 作業用の照明はついてるが昔のもので劣化して光束も落ちているようだ。

 肉眼で進むのは難しい。

 なので現地組のライフルのライトをつける。

 現地人組はライフルのライトに一瞬驚いたが、そう言うものと説明するとすぐに慣れた。

 ライトつけてると赤外線やサーマルビジョン搭載の機体に狙い撃ちされるとかの余計な情報は与えない。

 無駄に不安にさせても意味はない。


「人型労働生物の巣だからもっとぐっちゃぐちゃかと思ってたわ。でもなにもないよね? お兄ちゃん、殺気感じる?」


「いいや、逆になにもなすぎて不安になる」


 うーん……予定と違う。

 なにがあった?

 俺たちは進んでいく。

 数キロほど進む。

 すると光が見えた。

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