第39話

 揚陸艇が降下します。


「はい?」


 謎の注意報がアナウンスされた。

 甲高いセレナの声じゃなく大人の声だ。

 慌ててテントの外に出る。

 天を見上げると火球が見えた。

 あれが揚陸艇だろう。


「な、なんだ! 空に火の玉が!!!」


 騎士が叫ぶ声が聞こえた。

 シャルロットやサーシャも会議していたテントから出てくる。


「警戒体勢!」


 と大事になりそうだったので釈明。


「敵じゃないです! 妹がやって来たんです!」


 みんな「マジかよ」って顔してる。

 揚陸艇はジェット噴射で姿勢制御しながら降りてくる。

 あんなのやるくらいなら生身で大気圏突入した方が速くて便利だよね。

 と思ったがツッコミが来ない。

 放置プレー悲しい。

 揚陸艇がゆっくり着陸する。

 地についてジェット噴射が収まるとゆっくり蓋が開く。

 ブシューっとガスが噴射し、中から青い髪の女の子が……おま、アンドロイドじゃねえのかよ!

 それ法律違反じゃ……って全裸やんけー!!!


「おっすお兄ちゃ……え? なに!!!」


 素早く軍服を羽織らせさらに制服コマンドから儀礼用モードにしてマントを着せる。

 焦った。マジで焦ったぞ!!!


「服着ろ。な? 俺のテントで着替えろ? な?」


「お、おう」


 さすがに近衛騎士たちやゴードンの兄貴は紳士だった。

 顔を背けマントでガード。


「どうだ! このボインボインは!!!」


「真っ平らやんけ!!! いいからはよ服着ろ!!!」


「この大人の色気を見ろ!!! 人妻もののようなこの色気よ!!!」


「現実を見ろセレナ!!! 股間に三本毛があるだけの子は色気なんかありません!!!」


 思わず目に入ったものの感想が出てしまった。

 ツッコんだら負けだ。ツッコんだら負けだ。ツッコんだら負けだ。

 俺はシャルロットとサーシャに助けを求める視線を送る。

 すると二人はこくんとうなずいた。


「ほら、妹君。こちらで着替えよう。スジを凝視している男もいることだし」


 あれー?

 なんかシャルロットさん、言葉にトゲがない?

 あと俺はスジの話してないよ。

 なに凝視してるの?

 俺、毛が三本としか言ってないよ!!!

 たまに失言するけど、結構エロいよねキミ。


「そうですよ。真っ平らを凝視して……ささやかなお胸が好きなのは好感持てますが」


 あれー?

 サーシャさん、なにどさくさ紛れに俺を貧乳スキー認定してるの?

 ねえなんで?

 いいかげんにしないと俺、尻派に転向するよ。

 ヘソ曲げそうな俺を放置して三人は俺のテントでセレナに服を着せる。

 着られそうな服は俺の軍服だろう。

 あれはオートアジャストついてるからな。

 下着あったっけ?

 するとドーンッと特急便で荷物が降りてくる。

 中を開けるとカゴに入った下着が入っていた。

 Sサイズのスポーツタイプ。

 というか女児用。

 初めて見た。

 とはいえ変態認定されるのも面白くないのでテントの前に立ち、


「下着置くぞー!」


 とクールなフリしてカゴごと下着を置く。


「だからそれはたぶん下着だ! 外に出るな!!!」


 とシャルロットの声が聞こえたが聞こえないふり。


「ふふふ……お姉ちゃんよりお胸がささやかないい子ね」


 サーシャの声も聞こえないふり。

 あーあーあーあーあー!

 なにも聞こえない!!!

 そして軍服来た元裸族の妹君が出てくる。


「うぃーっす! お兄ちゃんセレナだよ!!!」


「あ、うん、はい」


 すでにドッと疲れた。

 お兄ちゃんの気力はゼロよ!!!


「ぷぷー! 人のぺえを見て興奮して! このロリコンお兄ちゃん!!!」


 俺は頭をなでながら飴を差し出す。


「はいはい。これで大人しくしてね」


「子ども扱いすんな!!!」


 パーンっとセレナが手をはたく。

 なお飴は強奪された。

 飴を口に入れてころころ転がしながらセレナは上機嫌になる。

 そういうとこやぞ。


「あ、これ美味しい。お兄ちゃん! もっと美味しいの食べたい!!! 食い物よこせ!!!」


「台詞がクソガキすぎる!!!」


 クソガキをあやしてるとシャルロットとサーシャがやってくる。


「ふむ、髪をもうちょっと整えた方がいいかもな」


「あら、そのままでもかわいいですわ」


「ありがとうお姉ちゃんたち!!!」


 と言うとシャルロットはきゅんきゅん身もだえしている。

 凄まじく顔がいいものな……。

 歴史上の美形の傾向からDNAを作ったに違いない。

 一方、サーシャの方はなぜか怖い笑みをこちらに向けていた。


「マコト様……一つご質問が。そのマコト様とセレナさんはあまりにも似てないようですが……」


「うん、血繋がってないよ」


 セレナが答えると、サーシャの後ろからぼうっと後ろに炎が見えた気がした。

 完全に気のせいだが。……そうだよね?


「えっとね。うちらのいたところね。男で生き残ってるのお兄ちゃんだけなの。だから最後の男としてお役目があるんだって」


 わざと知らないふりして思わせぶりな説明しやがった!!!

 サーシャは笑顔のままこちらに来る。

 やめてその笑顔、本当にゾクゾクするから。

 なおシャルロットは未だに意味がわかってない模様。

 シャルロットちゃん! 君だけはそのままでいて!!!

 するとサーシャが嬉しそうに言った。


「わたしもマコト様も独り占めしようとは思ってません。最高の腕を持つ医師で錬金術師、そしてエルダー。最高のカードですわ……でも……たまに嫉妬してもよろしいかしら」


 そう言うとサーシャかぷっと俺の小指を噛んだ。


「私の男」


 ぞくぞくぞくぞくー!!!

 ら、らめ、へんになりゅうううううう!

 するとパーンとセレナが俺の尻に蹴りを入れる。


「変態!!!」


 ナイスセレナ。

 冷静になったこのタイミングでシャルロットが


「あ、あああー!!! あああああー!!!」


 と顔を真っ赤にして声を上げた。

 リアクションが遅い。

 キミ、全体的に興味津々なのに知識が足りないよね?

 最後にゴードン兄貴が一言。


「どうしてこうなった……」


 俺にもわからない。

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