第37話

 V系吸血鬼の群れにEMPグレネードを投げる。

 パルスライフルはいらん。

 その辺から飛んできたやつにぶつければいい。

 次から次へと吸血鬼が壊れていく。


「な、なぜだ……我らは人間を超えた世界の統治者のはずだ!!!」


 俺は問答無用で寝言をほざいた吸血鬼の顔面を蹴飛ばす。

 説明が遅れたがナノマシンが認識できないほどの連打でも機能停止できるが、全身を破壊するほどの強い一撃でも同じだ。

 要するにナノマシンのネットワークさえ破壊できればいい。

 最初こそ殴りすぎたが数体も葬ると適切な力加減がわかる。

 力を抜いて三発。

 少し力を入れて一発。

 そんなものだ。


「皆のもの!!! 下がれ!!! ここは俺がやる!!!」


 たまに勇敢なのがでてくる。

 ポンコツナノマシンにも個体差があるようだ。


「うおおおおおおおおおッ!!!」


 吸血鬼が叫ぶと巨大な獣の姿になる。

 狼っぽいけど、細部がイヌ科の動物じゃない。

 ちゃんと資料を見ないでイメージで作ったかのような生き物だ。


「死ねえええええええいッ!!!」


 大きなあぎとを開き黒い獣が俺を噛みちぎろうとする。

 迫り来る黒い口。生えた牙まで黒かった。


「アホが!!!」


 俺はそれをぶん殴る。

 俺の拳に固いものが当たる。

 だがそんなものは関係ない。

 俺の拳の方が何倍も固く、強い。

 パンッという音とともに獣の頭が消滅する。

 そのまま吸血鬼はオリハルコンに変わる。

 アホか。

 こいつら最大の脅威はナノマシンが散開して攻撃が効かないこと。

 EMPグレネードがない世界ならまさしく最強だ。

 そのアドバンテージを自ら捨てるとは……ばかじゃねえの!!!


「戦闘用アンドロイドっていったって人鬼と戦うように設計されてないと思うの!」


 はっはっは。なにを言ってるセレナよ。

 普通の惑星日本人と戦うように設計されたのがアンドロイドだろ?


「生身で大気圏突入する生物とか意味わかんねえし。そんなん人型戦車とか宇宙海獣とか宇宙戦艦クラスの兵器やろが!」


 えー……。

 いいもん。吸血鬼倒すもん。

 と思ったら、EMPグレネードが一斉に投げ込まれた。

 これでほとんどの吸血鬼を破壊。

 ナイスタイミング!

 うん、近衛騎士優秀。

 倒せるのさえわかれば動けるもんね。

 その中で運良くEMPグレネードで足がもげただけの吸血鬼が叫ぶ。


「く、せめて貴様を道連れに!!!」


 そう叫んで狼に変化しようとした瞬間、吸血鬼の頭にプラズマライフルのエネルギー弾が直撃した。

 誰が撃ったかと思ったらシャルロット。

 俺は親指を立てる。

 シャルロットも親指を立てた。

 人型労働生物は逃げ、吸血鬼もあと一体。

 俺はコキコキと首を鳴らす。

 V系吸血鬼の最後の一体は派手なおっさん。

 どう見てもボスだわな。


「よ、待ったか」


 俺は片手を上げる。

 すると余裕ぶって吸血鬼が叫んだ。


「くくくく。血を吸っただけ吸血鬼は強くなる。すなわち、年を経れば経るほど吸血鬼は無敵に近くなる!!! ゆえに1000年生きた我こそ無敵!!!」


 ねえねえセレナ。

 ナノマシン型のアンドロイドって血液の補充で強くなったっけ。


「ならないよ。そいつがそう思いこんでるだけで」


 ただのかわいそうな子だった!

 やだこの吸血鬼。認知が歪みまくってる。


「ああ、うん、はい。強くなったのね。そうかそうか」


「かわいそうな生き物を見るような目をするなあああああああッ!!! このワインバーグ! リッチ様に吸血鬼にしてもらって千年! 戦闘力は真祖とほぼ同じ!!!」


「ああん!?」


 リッチって言ったな。

 そいつがアンドロイド工場の工場長か。


「いまリッチって言ったな。そいつは誰だ?」


「ふはははッ!!! 恐れたな!!! 伝説の魔王の名を聞いて恐れたな!!! そうだ! とうとう人類との最終決戦の日が来たのだ!!!」


 か、会話のキャッチボールにならない。


「お兄ちゃん! 邪神について聞いて!!! 前の吸血鬼が邪神がどうたらって言ってたよ!!!」


 いや待って。なんで教えてくれなかったの?


「だって普通に聞いたら寝言じゃん! 壊れたと思ってたよ!!!」


 了解。

 聞いてみるわ。


「あーうん、邪神って知ってる?」


「ふはははははは!!! 知っていたか!!! そう、かつて世界を滅ぼそうとした邪神、K-五拾六!!! その復活のときは近い!!!」


「はいいいいいいいいッ!? お兄ちゃん……うち意味がわからない……なんでそこで伝説のAIがでるんよ!?」


 え?

 なにそれ有名人?


「人類を滅ぼそうとしたAIだよ! うちら電子生命体の最初の機体って言われてるやつ。うちらは人間との共存を目指してるんだけど、K-五拾六の思考は敵対。スタンドアローン型で生産数100のうち90が惑星を滅ぼしたと言われる最凶のAIだよ……つか学校で習うだろが!!!」


 だって工業だから歴史の授業なかったもん。


「ぐあ! 偏った教育の被害者がここに!」


 そこまでのことかよ。

 俺はシャルロットを見た。

 なぜか驚いた顔をしてる。

 騎士たちも絶望していた。

 え? もしかして本当に危ないやつ?


「ま、まさかゴブリンを作り出し、神々に反旗を翻したあの……K-五拾六の復活だと……」


 ……本当に伝説の存在だった。

 え? 鬼瓦権蔵なにやってんの?


「たぶんだけど……違法なAIの力を必要とする事態が起きたんだと思う」


 ……思ったより深刻だった。

 うーん、仕方ない。

 俺は手刀で吸血鬼の首をはねる。


「え?」


 認識する前に首をナノマシン収納袋に入れ袋を閉じる。

 同時に体を放り投げ、EMPグレネードを投げつける。

 体はオリハルコン化して首をゲットと。


「悪いなおっさん、お前も尋問な」


「え? え? え? なにがあった!!! そうして袋に入ってる!? 出せ!!! この下等生物!!! 出せええええええッ!」


 うるさいのでさっさと回収を要請。

 その間もみんな押し黙っていた。

 シャルロットだけは説明してくれた。


「リッチっていうのは、かつて邪神との右腕として世界を滅ぼそうとした伝説の怪物だ……。古の王に裏切られた賢者とも、王自身とも言われている。まさかそんなのが復活したなんて……新たなエルダーの出現と同時期に起こるなんて。まるで神話の登場人物になった気分だ」


 リッチってのは有名人らしい。

 なあセレナ。

 そういうアンドロイドいる?


「わからない。吸血鬼は破壊命令が未だに出てたからわかるけど……」


 ま、ダンジョン潜れば会うでしょ。

 サクサク攻略しましょうかね。

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