第36話

 夜までにシャルロットたちにライフルの使い方を教えた。

 難しくはない。

 レーザーサイトも照準補正もついてるし。

 ただアイアンサイトの方が速い。むしろ照準器なしで勘で撃った方が速くて正確だ。


「だから言ってんだろ。おめえだけだっての!」


 訓練期間も短かったので射撃精度を求めるのは難しいだろう。

 フレンドリーファイアの防止機能はしっかりついてる。

 味方タグがついてる人間相手に引き金を引いてもエネルギー弾は発射されない。

 パニック起こして同士討ちってのはないわけだ。

 なおタグはナノマシンのため……一服盛った。

 食べ物に混ぜて全員服薬済みだ。

 シャルロットとゴードンの兄貴は体中ナノマシンだらけなんだけどね。

 手足取れても数分以内ならくっつくしいいんじゃないかなあと。

 敵はナノマシン型アンドロイド。

 ただしAIの欠陥で自分が人間を超えた存在だと勘違いしてる。

 ろくなことしねえな昔の人類。


「いまの人類も絶滅戦争したばっかりじゃん……」


 人類滅んだ方がよくね?


「どうやっても滅びない変態がいるから無理じゃないかなあ」


 やだなにこのチクチク言葉。

 うちの子が悪い言葉ばかり憶えていく……。

 闇に隠れ一人潜伏。

 双眼鏡のナイトビジョンモードで敵を確認。

 フレアを焚く。しゅるるるる。たーまーやー!

 ぼんっと赤く周囲が光る。

 これを合図にパルスライフルの一斉射撃が始まる。

 ついでに空中ドローンを飛ばし、サーチライトをオン。

 主導権を握ったところで俺は敵の群れの真ん中に降り立つ。


「あ、ほれ!」


 ゴブリンの鎧をつかんで、飛んできたエネルギー弾めがけてぶん投げる。


「ぎゃあああああああああああああッ!」


 あ、ほい!

 もう一匹もぶん投げ。

 またもや悲鳴。

 射撃補正があってもいきなり実戦で当てるのは難しい。

 でも実戦で当てる経験が大切だ。

 つまり当たらなそうなエネルギー弾があったらそっちに放り投げることでこの問題が解決できるわけだ!


「……ごめんお兄ちゃん。心の底からなに言ってるかわからない。っていうか、それ人間の動き?」


「日本では新兵が来ると宇宙海賊相手にこうやるって小さいころ朝のニュースで見たこぞ!」


「それ絶対惑星日本だけだからね!!!」


 ぽい! ぼーん!

 そしてゴブリンを羽交い締めにしてエネルギー弾受け止め!

 頭をつかんでひねって着弾!!!

 みんな! 当たってるよ!!! ちゃんと当たってるよ!!!


「ひ、ひでえ、戦闘ってこんなにひでえもんだっけ?」


 争いはなにも生まない。

 ラブ&ピース。いえー!


「お兄ちゃんは愛や平和から生まれ出てない件」


 ひどい!!!

 もう一匹と頭をつかんでエネルギー弾を受け止め。

 すると別のゴブリンと目が合った。

 あれ? 見えちゃってる?

 ウインクばちこん!


「みぎゃあああああああああああああああッ!!!」


 いままで聞いたことないタイプの悲鳴が響いた。


「悪魔がいたぞおおおおおおおおおおおおッ!!!」


 なんかすげえ恐れられてる。


「うーん、やりすぎて伝説の悪魔認定されてるみたいね」


「ひぎゃあああああああ! おかあちゃああああああああん!!!」


「もうおわりだああああああああああ!!!」


「ひいいいいいいいいッ!!! 助けてー!!!」


 気づいた先から涙とかアレとか体液まき散らしながら逃げる逃げる。

 仕方ないのでレーザーブレード、居合斬り&斬撃飛ばしで抹殺。

 一列になぎ倒すと、とうとう全体に恐怖が伝わる。


「やっほー!」


 めっちゃゴブリンが俺を見てる。

 ためしに手を振ってみる。


「みぎゃあああああああああああああああッ!!!」


 我先にと逃げるゴブリンども。

 パニックが全体に広がる。

 するとゴブリンの中にマントを羽織った男が見えた。


「ええい! この下等生物ども!!! 我が行く!!!」


 ばさーっとマントを風になびかせる。

 サーチライトに移ったその姿は、髪を逆立てた変な髪型にわざとらしい白塗り化粧をしたおっさんだった。

 まるで大昔のドラキュラ映画のような。

 どうしよう。差別はいけないんだけど……普通にきもい。

 なんだろうか遠い過去に犯した過ち、中二病と呼ばれる思春期特有の奇行を彷彿とさせる……。

 ……鬱、破滅、滅亡。エターナルダークネス。

 みんなが笑ってる。指さして笑ってる……。


「あ、あ、あ、あ、大丈夫! お兄ちゃん! あれは生命体じゃないから!!! ただの狂ったアンドロイドだから!!! だからこんなときに発作おこすのやめてー!」


 あ、うん、そうだね。

 壊してもいいよね!

 照準も見ずに勘でパルスライフル発射。

 ヘッドショット!


「ガガガガガ……」


 頭を失った吸血鬼はそのままオリハルコンになった。


「きゅ、吸血鬼が倒されたー!!! こんな化け物だなんて聞いてねえよ!!!」


 ゴブリンが泣き言を叫びながら逃げる。

 仕方ないので後ろから追っていって、ゴブリンを味方の射撃に放り投げていく。

 たしか連邦持続可能な戦争目標100万個の中に「人型労働生物を見かけたらぶち殺します」と「エネルギー弾の無駄遣いはしません」があったはずだ。


「ねえよ」


 セレナはそう言うが、みんなだんだん上手になってきている。

 みんなちゃんと十字砲火ができるようになってきてる。

 いいよー! いいよー! できてるよー!!!

 半分くらいが逃げるか死ぬかしたところでマントの集団が現われた。

 日本の民族的伝統音楽「V系」の集団だ。


「……美学」


「戦闘中に小ネタで笑わそうとするのやめろ」


「くっくっく……やつは我らの中でも最弱ぐああああッ!!!」


 容赦なくEMPグレネード。

 数体を戦闘不能にする。


「気を付けろ! やつは我らが闇の一族の弱点を知っている! 散開しろ!」


 と散らばる。

 そして闇の中から俺に近づいてくるものがいた。


「死ねえええええええ!」


 V系集団の一人が俺に斬りかかる。

 もうね、一度に斬りかからない時点で負けてるっての。

 俺はライフルをしまい男の顔に拳を放った。


「はッ! バカめ! 素手で我らを倒せるわけが……」


 と思うじゃん。

 拳はパンッと音を立て男の顔にめり込む。


「は?」


 そうつぶやきながら男の顔が四散した。

 ものすごーく簡単な理屈だ。

 ナノマシンは常に同じ状態ではない。

 人間形態では結合し固まった状態、霧の状態では散開してるだけだ。

 そして霧になると判断をして、ナノマシンの一つの中にあるプロセッサがネットワーク全体に指令を出す。

 中央はないから全てが脳で全てが体だ。

 要するにタイムラグがある。

 特に余裕こいてる場合は特に。

 つまりナノマシンが動く前にぶん殴ればいい。

 さらに慌てて霧になってももう遅い。

 有能な仲間をパーティ追放した連中よりも。

 同じスピードでさらにぶん殴りまくる。

 殴る殴る殴る。パパパパンッっと小気味いい音がする。

 ナノマシンが散開しようとも拳から放たれる衝撃波で片っ端からぶち壊す。

 100回ほど殴ると変化があった。


「は、はびゅ……」


 吸血鬼の体がオリハルコンの粉に変わっていく。

 体のほとんどを壊されネットワークが維持できなくなったのだ。

 吸血鬼の体が崩れた。

 中央の存在しない分散型のコンピューターなんだから集合点ノードを減らせばいい。

 知ってさえいればごく当たり前のことだろう。


「お兄ちゃんの場合、手段が異常なんだって!!!」


 おだまり!

 結果が良ければ許されるのよ!!!

 俺はぼきりぼきりと指を鳴らす。


「さーて、お前らには聞きたいことがある。吸血鬼の製造工場はどこだ?」


 まあ当たり前の結論である。

 吸血鬼なんて人間ベースの延命処理アンドロイドの失敗作。

 そのくせ自分がアンドロイドだってことを知らないかの振る舞う。

 もし本当に知らなかったら?

 つまり連中は自分がアンドロイドだってことを知らない。

 工場があって最近そこで製造されたからだ。

 そしてその場所は……噂になってるダンジョンだよねえ。

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