第35話

「お兄ちゃん、EMPグレネード特急便で送るよ!!!」


 特急便かよ!

 特急便ていうのは衛星から落とすミサイルである。

 最速だけど着地点は結構いいかげんだ。

 ひゅるるると音がした。

 ぼんっと音がして外が騒がしくなる。


「な、なんだ! 攻撃か!!!」


 近衛隊長さん大慌て。

 でもシャルロットたちは静かなものだった。


「マコト殿が慌ててないのだから安全だ」


 ネタバレが少しさびしい。

 俺が落下地点に行くとミサイルが地面に突き刺さっていた。

 脳内チップの認証をボックスを取りだしゴードンの兄貴に渡す。


「マコト様。これはいったい?」


「吸血鬼を倒す道具です。人間には効果ないので安心してください。あ、そこの騎士の人、手伝ってください!」


 と近くにいた騎士を呼び寄せる。

 完全にビビって腰が引けてた近衛騎士隊長もやってくる。


「使い方説明しますね。ここのピンを引っ張って投げる」


 と言って地面に落とす。


「すると間を置いて爆発します」


 ぼんッ!!!


「んほぉッ!!!」


 バツンと電子回路が焦げる音がする。

 手伝いで呼んだ騎士がダブルピースしながら倒れた。

 すぐに騎士の体がオリハルコンに変わる。


「と、このように吸血鬼が死んでオリハルコンに変化します」


 と、説明を終えると騎士団長とゴードンの兄貴、シャルロットとサーシャが話し合ってた。

 審議中。


「待て待て待て待て、まて!!! 近衛騎士に吸血鬼が紛れてるだと!!!」


 シャルロットが叫んだ。


「なんか俺に殺気飛ばしてるからあやしいなあと」


「まてーい! マコト殿は知っていた……と?」


「うん」


 ……審議中。

 今度はゴードンの兄貴。


「その……言いたいことはたくさんありますが、マコト様なのであきらめました。で、魔道具ですが……我々にも使えますか?」


「説明と同じ手順で使えますよ」


 なんかひどく不当な評価がされてるような気がする。

 俺がやれやれムーブをしてると今度は近衛騎士隊長がすがりついてくる。


「ほ、他に吸血鬼は紛れこんでいるんですか!!! ねえ教えてください! 俺はまだ死にたくない!!!」


「えっとそいつとそいつとそいつ」


 指さすと騎士団長がEMPグレネードを持って走っていく。

 そのままピンを抜き。


「うおおおおおおおおおッ!!! 王国に栄光をおおおおおおおぉッ!!!」


 とグレネード持ったまま突っ込んでいった。

 吸血鬼どもが泣きながら逃げていく。

 いやそうやって使うんじゃなくて。


「ふりーだあああああああああむッ!!!」


「やめろおおおおおおおおおおッ!!!」


 ぼんッ!!!


「んほぉッ!!!」


 三匹いっぺんにオリハルコンに。

 もちろん近衛隊長は無事。


「ふ、ふはははは!!! 吸血鬼に、吸血鬼に勝ったぞ!!! このマシューが!!! 吸血鬼を倒したぞー!!!」


 それを見てシャルロットは額を押さえた。


「そ、その、マコト殿……見なかったことにしてあげてくれ……」


「ああ、うん。そうね」


 わかる。

 俺もやることなさすぎて惰性でギターの練習してたけど、はじめて曲がまともに弾けたときああなったもん。 テンション上がっちゃうよね。


「それで……近衛騎士に吸血鬼が紛れてる件なのだが……」


「人間のフリしてたんじゃない? 理論上自由に姿変えられるし」


 ナノマシンの集合体だからプログラム次第で男にも女にも姿を変えられるわけで。

 具体的にどうやって生活してるかはわからんけど、人間社会に紛れようと思えばできるよね。

 んー?

 待てよ、情報漏れまくってると考えると。


「あ、ここ攻め込まれるかも」


 ギギギギギギギ……と隊長のマシューがこちらを向く。

 その顔はすっかり青ざめていた。


「いやああああああああああああッ!!! 死ぬ!!! 今度こそ死ぬぅーッ!!!」


 セレナどうする?


「電磁シールド送るね。ただ電磁シールドはビーム兵器専用だから吸血鬼が侵入できないだけだからね!」


「あ、いま妹が侵入防止の道具送るって。ただ矢とか槍は通しちゃうから気を付けてね」


「びぎゃあああああああッ! 死ぬ! 今度こそ死ぬうううううううッ!!!」


 ここまで醜態さらすのは珍しい。

 日本人には中々いないタイプだ。

 もう一度ミサイルで送られてきた電磁シールドを設置する。

 よかった。オリハルコンに変わった人はいなかった。


「来るなら夜じゃないかなあ」


 とつぶやくともう一度悲鳴が聞こえる。

 そんな中、サーシャがやってくる。

 もう、それはいい笑顔だった。


「わたくし、いま、人生で一番楽しいですわ。ああ、愛しい人。わたくしたち人間の上位存在ぶっているあの下等生物の断末魔の声を聞かせてくれるのでしょう♪」


 怖い怖い怖い。吸血鬼よりも怖い。


「ま、いくら来ても問題ないよ。あははははは」


 やだ怖い。婚約者の方が怖い。

 怖いので用意に移る。つまりその場から逃げた。

 軍服のメニューからライフルをパルスモードに切り替える。

 パルスライフルは共和国宇宙海兵隊の標準装備だ。

 これ自体にEMPの効果があるのでアンドロイドの回路に直接ダメージを与えられる。

 最新型だと対策されてるから効果が少ないけどね。

 ゴブリンやオークにも効果あるし。

 炭化してなにも残らなくなるけど。

 セカンダリはEMPグレネード。

 レーザーブレードも装備。

 巻き込むのでファイナルジャスティススラッシュは使用禁止っと。

 バッテリー切れたら素手だね。

 敵の数わかんないし。


「え? お兄ちゃん、ナノマシン型のアンドロイド素手で倒せるの? 嘘でしょ?」


 相手がこちらを認識できないスピードで全身を破壊すればできるよ。

 要するに完膚なきものまでボコボコにすればいい。


「お兄ちゃん、移動始まったよ! 数は300! ほとんどが人型労働生物。このままだと夜に到着するよ!」

 300ってなめてんのか。

 と少しヘソを曲げているとシャルロットがやってくる。


「私も戦う!」


 ゴードンの兄貴もいる。


「は、反対しても無駄だぞ! わたしはマコト殿の婚約者だからな!!!」


「りょうかい」


 面白い。ニコッと笑ってオーダーを出す。

 セレナ、人数分のライフルくれ。


「はいよー。携帯用のシールドも送るね」


 よーし、お兄ちゃんがんばっちゃうぞー!

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