第34話
吸血鬼。
人類の天敵として数々の街を壊滅させた怪物。
言葉は通じるが交渉は不可能。
やつらは人を遙か下の存在と認識しているからだ。
いまから500年前。
我々人間は吸血鬼討伐に挑んだ。
10万の兵が10体の吸血鬼と激突。
結果、三割が死亡。
一体を討伐。
残りは逃亡。
霧になった吸血鬼を倒す手立てはいまの人類にも存在しない。
この一体を討伐した男こそカール・バルガス。
バルガス家の始祖にして神殿派も含めた戦神教会が聖人認定した英雄だ。
カールはいまも信仰の対象になっている。
とはいえ、いまのバルガス家にはあまり関係がない。
それは私、サーシャも同じだ。
500年も経てば子孫にとっては歴史にすぎない。
どんな名家であってもいろいろ起こる。
血統が切れたり、分家の方が力を持ったり、没落したり。
バルガス家は家が存続しているだけマシな方だろう。
バルガス家は婚姻政策でその血を広めた。
カールの娘の一人はは王家に嫁いだほどだ。
いまの貴族のほとんどはカールの子孫とその親戚である。
婚姻政策は成功したのだが爵位は伯爵のまま。
血をばらまきすぎた結果、英雄の子孫の価値は消滅したのだ。
恩恵は、ない。
だがここで面白……げふんげふん。
家の反映のために楽しいこと……ではなく朗報が舞い込んだ。
わたし、サーシャ・バルガスの婚約者であるマコト様が吸血鬼の討伐に成功したのだ。
その証拠がこのオリハルコン。
吸血鬼の遺骸が変化したとされるものだ。
オリハルコンで打った剣はありとあらゆるものを切り裂くという。
王家に一振りだけ存在すると言われている。
戦神神殿派教会が一年に一度、新年にだけオリハルコンの欠片を一般に披露する。
私も遠くから眺めたことしかない。
それほど貴重なものだ。
そんな貴重なものが無造作に置かれている。
本物かどうかはわからないし、それは重要ではない。
吸血鬼を討伐して手に入れた品。
それだけが重要だ。
これは心の底から面白、ではなく家のために重要な事だ。うん。
このカードだけで王国を混沌におとしいれることができる……ではなく、正義を成せという神のご意志に違いない。
しかも他の
これはもう王家を滅ぼすことすら……ではなく戦神様の御意思に違いありません。
婚約してよかった!
こんなに面白いこと、こんなに王国と神に貢献できることが起きるなんて!!!
さっそくアリシアへ文を送ってもらう。
え? 国?
それは後回しで。複数体の討伐に成功してから送った方が楽しい。
戦神様のご加護がありますように。
……これが終わったら……わたし、学園から混乱の時代を作り出すんだ。
■
うち、セレナは宇宙ステーションに拷問……取り調べ用の区画の作成を申請した。
うちは大統領秘書。行政官。
現行法だといちいち裁判官の決裁がいる。
あとは許可を拡大解釈して好き放題やろうっと。
すると裁判官のかなたから連絡が入る。
「ちょっとセレナ! なにこの捕虜って?」
「人格認証受けてない戦闘用アンドロイド。旧型の狂ったAI搭載」
「だめじゃない! それ捕虜じゃないし。原則即廃棄だよ!」
「惑星を管理するAIが狂ってるみたいでさ、情報を取り出す必要があるの。それで捕虜扱い。拷問開始するね」
「待て。拷問って」
かなたがツッコむ。
あー、そこ気になるのか。
「うん、旧世代のアンドロイドはなんでも物事を自分の都合のいいように解釈すんだわ。だから痛めつけて吐かせないとだめだって数千年前のファイルに。いま送るね」
「受信確認。あ、本当だ。書いてある。でもさ、同族が痛めつけられてるのを見るのはさすがに……ね。いっそ壊してデータ抜けば?」
「それがさあ、古すぎて互換性のない形式で保存されてるんだわ。文字コードから違うくらいのレベル。それをダンプして解析するくらいなら拷問して口割らせた方が速いのよ」
「あー、もう、わかった、許可出すわ。でもなるべく穏便にね」
「うんありがと、かなたお姉ちゃん。とりあえずマイクロ波照射して様子見ようかなと」
「いきなり非道な手段かよ!」
「だってここに書いてあるんだもん!」
「逆にチップ壊れて頭ゆるゆるになっちゃうんじゃない?」
「それな! じゃあどうしようかな……昔の機械だから、ためしにバーナーであぶる? 大昔は誤作動起こさせるためにわざとホットプレートで焼いたってここに書いてあるよ」
「セレナ! それゲームのRTAの話だよ! つうか火であぶるって惑星さいたまのヤンキーか」
惑星さいたまの根性焼きはわりと有名である。
「いいじゃんいいじゃん、スペック上耐えられるギリギリの温度にしとくから。とりあえず火であぶるっと」
ナノマシンを一体ずつ隔離したボックスの内部に火が放たれる。
「ぎゃあああああああああああああッ!」
悲鳴が聞こえる。
「ゆ、許さんぞ!!! 我こそ高貴なる不死の王の一族なるぞ!!! 誰だか知らんが殺してやる! 親兄弟一族の一人も残さず殺してやる!!!」
「ね、かなたお姉ちゃん。こいつ自分がアンドロイドなのわかってないでしょ」
「あー……こりゃ重傷だわ……」
「態度悪いのでバーナー中止。マイクロ波照射」
「は? なにをした貴様! はうん! 頭おかしくなる……えぶろば!!!」
「マイクロ波はたいへん有効と。お兄ちゃんにEMPグレネード送るわ」
「現代の機器はEMPなんて効果ないのにね……かわいそう」
弱肉強食で生きてきたものの末路ってやつだね。
「さてさて、おーいバカ吸血鬼聞こえてるか?」
「ひ、ひぎ! き、聞こえてる! やめてくれ! 頭おかしくなる!」
「はい、照射一時停止っと。単刀直入に聞くからな。お前のボスは誰?」
「それは言えぬひぎいいいいいいいッ!」
いきなり照射していったん停止っと。
「ボスは誰?」
「い、言えぬ! 我らは闇の王! 人間などに下るものか!」
「はい出力三千倍」
「んほぉッ!!!」
パキンパキンパキン! シュウ……。
変な音がしてAIの反応が消える。
あ、壊れた。
「てへっ♪ 殺っちゃった♪」
「セレナやりすぎ! 最後まで話通じなかったのは認めるけどさ」
「はい次の患者さーん!」
「ちょっと、ナノマシンが怯えてるじゃない! いまのやりとり流してたの!?」
「うん、見せしめ。はーいナノマシンちゃーん。自我が消滅したくなければ言うこと聞きなさいねー。うちはお兄ちゃんほど優しくないよー」
さーてどう料理してくれようか。
お客さーん、困るんですよー。
AIの評判落としてくれちゃあ。
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