第33話

 片付けが終わったころ騎士団がやってきた。

 手を振ると隊長と思われるおっさんにマジギレされる。


「あんた王族だろが! 何一人で突っ込んでるんだよ!!!」


 王族って言ってもあとからテキトーに認定されただけだからなあ。

 帝国貴族の身分証だってハッキングだし。


「まあまあ、気にしない気にしない。アルフォート男爵家に問い合わせてくれれば仕方ないよねえですむし……」


「もう問い合わせました」


 おう。


「もう問い合わせましたとも! こちらに来ていただくことになりましたので」


 おおう?


「半日遅れできますので! 絶対に余計なことしないでくださいね!!! お願いですから!!!」


 涙声。

 でも遅いんだよなあ。

 もう吸血鬼倒しちゃったもん。


「あー、それなんだけど……えっとアレ」


 例の謎の金属を指さす。


「こ、これは金……いや違う! オリハルコン!!!」


「吸血鬼倒したらこれになった」


 ぶしゅッ!!!

 隊長が鼻血を出した。

 うーん、この惑星、塩分過多の食事してるから血圧上がりやすいんだよねえ……。


「お兄ちゃん、そういう問題じゃねえと思うのよ。うちらの常識でも狂った戦闘用アンドロイド、しかもナノマシンの集合体になにもさせないで勝利するのおかしいもん。どうやっても生身じゃ無理」


 えー、口ばかりで弱かったじゃん。

 すると隊長さんが俺をつかむ。


「あ、あんたなにやってるんですか!!! きゅ、吸血鬼って言ったら10万の兵で討伐隊を組んだけど、三分の一が戦死したって伝説の!!! しかもオリハルコンってそのとき吸血鬼の一体を討伐したときに落としたと言われる国宝の!!! 一年に一度新年に披露される……近衛騎士の私でも遠くから見たことしか……。いやそうじゃなくて!!! 吸血鬼に勝利したぁッ!?」


「うん。弱かったよ」


 そっかー。

 あんな雑魚から取れる素材ならレアリティの低い素材だね。

 捨てた方がよかったかなあ。


「よ、弱……え? ああ、はい……ええっと……マコト様の暴走を止められるお方が半日後に到着します。それまで絶対に動かないでくださいね!!! お願いだから!!!」


「了解」


 シャルロットが来るのかな?

 またもやデートイベントの予感!!!

『ぱいせん』でエンジニアやってたときより運気が上向いてる。


「うーん、シャルロットちゃんでお兄ちゃん止められるかなあ。無理なんじゃないかなあ」


 ひどい言われようである。

 しかたなく半日ほど待つ。

 本当はテントの設営したかったけど、近衛騎士たちに止められた。

 瓦礫の片付けにドローンも使うのもダメだって。

 しかたなく害獣と害虫の駆除だけにしとく。

 暇すぎる! やることねえ!

 近衛騎士たちに随行していた作業員がテントを建てる。

 その間、俺は近衛騎士が用意した偉そうな椅子に座る。

 帝王ごっこでもしたい気分になるが、たぶんやったら冗談ではすまされないので自重。

 かといってなにをするでもなく作業を見てるだけ。

 あまりにも暇すぎて居眠り。

 するとガンガンと銅鑼が鳴った。

 俺はよだれをふいて横に控えてた騎士に聞いた。


「誰か来た?」


 殺気を感じないので仲間だろう。

 すると見たことある馬車がやって来る。

 ほぼ更地でスマン。

 馬車から降りてきたのは予想どおりシャルロットとゴードンの兄貴。

 シャルロットはてへへっと手を振る。俺も振り返す。

 そしてゴードンの兄貴……相変わらず自己主張の激しい見事なケツアゴだぜ。

 でもそれだけじゃなかった。

 もう一台馬車が来る。

 男爵家のより豪華な馬車。

 サスペンションだろうか本体を鎖で吊してある。


「お兄ちゃん、コーチってやつみたいね」


 へぇー。よくできてるわー。

 エンジニア的に興味津々。

 シャルロットちゃんが持ってないってことは超高級品ってことだな。

 中にいるのは誰だろう?

 エリック親分かな?


「来ちゃった」


 騎士が扉を開けるとそこにはサーシャがいた。

 ぞくり。

 ら、らめ。あたいおかしく……。


「落ち着け童貞」


 うす。

 シャルロットちゃんは自分から降りたけど、サーシャは待っている。

 なので俺は馬車の前に手を取ってエスコート。

 シャルロットちゃん……「その手があったか!」って悔しがるのやめて。

 馬車から優雅に降りるとサーシャはほほ笑む。


「あら、それは?」


 重すぎるので放置されていたオリハルコンだね。


「吸血鬼を倒したら死骸が金属になったんです」


 するとにやあっと笑った。

 ただすぐに扇子で顔を隠したので喜んでる目元しかいまは見えない。


「マコト様。吸血鬼を討伐したと?」


「はい、倒しましたよ」


 するとシャルロットちゃん大慌て。


「きゅ、吸血鬼!!! 本当か!? それならすぐに王都に連絡して……」


「シャルロット様。まだその機ではありません」


 サーシャは扇子を口元から外し笑顔のままシャルロットを止めた。


「マコト様。周辺の他の都市にも吸血鬼がいると思われます。倒すことは可能でございましょうか?」


「もちろん。なんの問題もない」


「ふふふふふ。シャルロット様。お聞きになった? マコト様を信じて他の都市を開放していただきましょう」


「さ、サーシャ……なにを考えている?」


「我々はゆくゆくはシロガネ家に入るもの。ならばシロガネ家の利益が最大になるようにする義務があるのでは?」


「いやだが! 相手は吸血鬼だぞ!!!」


「ふふふふ。おかしなことを。私のマコト様が吸血鬼如きに負けるはずありませんわ」


「いやいやいやいや、その理屈はおかしい!」


「シャルロット、大丈夫だよ。なにも問題ない」


 なんだかよくわからんがここは流されておこう。

 後方腕組み状態で。

 ふと横を見る。

 近衛隊長が震えていた。


「こ、これは……だ、だめなやつだ。混ぜてはならない人物を呼んでしまった……」


 まあ大丈夫だよ。

 吸血鬼と戦うだけだし。

 なあ、セレナ。


「普通は無理だと思うよ。でもサーシャちゃんの考えもわかるんだよね。武闘派の面をアピールして新参者であってもなめられないようにしたいって」


 そうなのかな?

 ただ面白そうな方を提示しただけだと思うけど。


「え? 本当に?」


 うん。

 そう顔に書いてあるじゃん。


「……とんでもないのが来た」

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