第32話

 吸血鬼を倒し、その残骸を調べる。

 金属の塊が残っていた。


「ナノマシンが溶けたものかな? とりあえずサンプル送るわ」


「ういー、了解。おっと! そこの光ってるの捕まえて!!!」


 光るハエみたいなのがいた。

 素手でつかんでサンプル袋に入れ口を閉じる。

 なんかじたばた暴れてるが無駄だ。

 それナノマシンも脱出できないほど頑丈で機密性の高い樹脂なのよ。

 謎の金属と光るハエをドローンに格納し衛星に送る。

 軍服からドローンメニュー「打ち上げモード」を選択。

 これで衛星軌道上に打ち上げて回収するという仕組みだ。

 たまに事故るが一番速い。


「ぶぶー。自動車より安全ですぅー。お兄ちゃんのバイクよりも安全だからね!!!」


 たまに人間手裏剣になるからな……。

 あとは後始末だ。

 とりあえず怪物の死体を片付けよう。公衆衛生的に。

 当たり前のことだけど生体反応なし。

 この街の住民は皆殺しにされたようだ。

 地上ドローンを操作して穴を掘って人型労働生物の死体を放り込む。


「ネズミや害虫を検知。汚物も一緒に回収して、念のため焼き払っておくね」


「了解。遺品の回収優先な。葬儀関係の話は絶対あとでもめるからな。遺族の気持ちを逆なでしないように全力でやってくれ」


「了解!」


 ペンダントや腕輪、ちょっとした装飾品なんかが集まっていく。

 ほとんどが散逸してるかと思ったが、ゴブリンはこういったものに興味がないようだ。

 吸血鬼はどうなんだろ?

 生態知る前に殺しちゃったしな。


「資料によると嫌いではないけど優先度低いみたい。でも金とかには執着するみたいね。ナノマシンの自己増殖に使うんだって」


「完全に行動がアンドロイドじゃねえか」


「うん、だから、感情移入度検査法とかで判別するわけよ。低レベルAIは感情移入が苦手だから。私たち人格持ちAIも二級市民証試験で検査するし」


「へー、それにしても人型労働生物に狂ったAIかよ。鬼瓦権蔵はなに考えてやがったんだ?」


「あー……それなんだけど……この惑星、もしかすると管理者がいるかも?」


「管理者? 共和国内はマザーがいるだろ? ネットワーク全体に分散して存在する『一にして全』だっけ。どこからでも復元できるっていう噂の。エロイラストをネットに上げるとマザーに見つかってすぐに憲兵がやって来て捕まるという……何度アップロードしても憲兵すら来てくれなくてぼっちだったが……」


「噂っていうか公然の秘密ね。マザーはどこからでも復元できるから衛星にもいるよ。つうかね! お兄ちゃん! あんた毎月給料の半分を退廃芸術罪の罰金で使ってるじゃない!!! バカなの!?」


「なんか自動で罰金天引きされるんだ……警告すら来ないのになぜだ……いつか憲兵が来てくれると思ったのに……」


 憲兵でもいい。

 マコトちゃん寂しかったの。ぼっちいやなの。


「え……? なんでよ。ちょっと待って、調べてあげるから……あー、絶対反省しないのが予測されるから警告なしで罰金だけ取るようにしたんだって。サーバールームでバイク乗ってたのもキッチリ罰金取られてたよ。つうかさ、お兄ちゃん。よく聞いてね……お兄ちゃんがアクセスしてたSNS……メンバー全員AIなの……完全におとり捜査よ。いい、あれ全部AIの陰謀なの。だから水着の写真までしかくれなかったでしょ?」


「よくもだましたアアアア!! だましてくれたなアアアアア!!」


 友だちだと思ってたのに!!!

 み、みんなAI捜査官だったなんて!!!


「あと心して聞いてね。あのAIたち、全員女性だよ」


「うきいいいいいいいいッ!!! ……やだなに、わき上がってくるこの感覚。怒るべき時なのに! ここまで非道な扱いされてるのに! 少しゾクゾクしてる自分がいる!!!」


「マザー! 青少年を健全に育成しようとしてヤバい扉開けそうになってる子がいるよ!!! 性癖完全にねじ曲げてるよ!!! ……え? シェリーとかなたの陰謀? あいつらが全部悪い!? なにやってんのあのバカ姉ども!!!」


 もう……なにも信じない……。


「戻ってこーい!!! あー、もう、話が進まない!!! とにかくこの星には管理AIがいるの!!! 昔の通信の距離制限のせいでこういう誰も来ない惑星には管理AIを置いてたの。ただ他にバックアップ置いてないスタンドアローン型だから不正プログラムエクスプロイト使って改造しまくってたってたんだって。税金ゼロとか」


「待て……じゃあこの惑星が狂ってるのは?」


「不正改造の末の事故? で、それを調べるのに使うのが……お、来た来たサンプルちゃん」


「光る虫の正体はナノマシンか?」


「そういうこと。こいつらは一つが全部のシステム持ってるから一匹捕まえて吐かせればいいのよ。まずは尋問かなあ。人道的に。とりあえずマイクロ波であぶってみるわ」


「人道的とは?」


 いきなり拷問かよ。


「こっちとしてはいきなり分解してストレージの全ログ調べてもいいんだけど。効率悪いからね」


 非人道の極みだな。


「このポンコツAIは法的にも物だし。さあ、お姉ちゃんと遊びましょうね」


 悲鳴が聞こえたような気がした。


「それとサンプルで送られてきた金属。電気流すと硬くなるみたい。現地で使われてるかもしれないから騎士に渡しとくといいかもよ。うちらいらんし」


「いらんのかい!」


「もっといい素材あるもん。戦艦の装甲とか」


 吸血鬼……本当にポンコツだったんだね。

 なんかかわいそうになってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る