第30話

 俺は一人バイクで草原を走る。

 ダンジョン攻略のためだ。

 足の速い俺が先に行って偵察兼遊撃すれば効率よかろうという話である。

 本気出せば音速出るからなコイツ。(死なないとは言ってない)

 コケると人間手裏剣になって飛んでいくので、コケないように安全運転で。


「お兄ちゃん、コケたことある? 怒らないから、セレナ教えて欲しいな」


 サーバールームの移動をバイクでやったからに決まってるだろ!


「どうやってバイク手に入れたの?」


「パーツから作った。3Dプリンタで。動力源はジャンクを改造」


 なければ作ればいい。

 それが惑星日本の日本人のジャスティス!


「逆にすげえよ! つかサーバールームで人間手裏剣して生きてるって……」


 気にすんな!

 で、バイクで行くって言ったわけよ。

 近衛の騎士に。

 そしたら、


「あんた王族だろが! 絶対に一人で突っ込むな!!!」


 と言われたけど無視。

 一人の方が強いし速いもん。

 巻き込むから重火器使えないし。

 俺は仕事をさっさと終わらせて遊びたいのだ!


「お兄ちゃん、本能に忠実すぎるよ!」


 くくく。

 10代の少年がデートイベントをこなしたいと思ってなにが悪い!

 灰色の生活からやっと抜け出せたんだ!

 はじけてなにが悪い!!!

 年上の彼女やぞ!!!

 全力で好感度育てるわ!!!


「お兄ちゃんの人格形成に失敗しやがった共和国が絶対悪だわ。あのクソ無能ども」


 わかればよろしい。

 ダンジョンの場所は大まかにはわかっていた。

 近くの村や町が滅んでいるからだ。

 衛星からの画像では近くの村は怪物に占拠されている。

 逃げ遅れた市民はすでに死亡。

 実際、偵察した感じだとすでに食料として消費されたようである。

 どうしても本能的な嫌悪感が生じる。

 なるべく抹殺しようと思う。

 まずは街を攻撃して後続部隊の拠点を作り。

 夜を待つ必要もないので急襲。

 そう、いままでの襲撃のなにが悪かったのかようやくわかった。

 そうだ!

 現地の様式での戦闘ではなかったからだ!

 相手が弱すぎて途中で面倒くさくなって火器に頼ったのがまずかった。


「たぶん違うと思うよ」


 ええい! だまらっしゃい!

 次は近接戦闘で行くぞ!

 大統領権限でオーダー!

 日本刀!


 日本刀。

 ジャパニーズソードである。


「なんの解説にもなってないよ」


 誰もが知っているアルティメットソードにして武士道ソウルである。

 つまりフジヤマでゲイシャでスモウレスラーなのである。

 バンザーイ!


「落ち着け。なに言ってるかわからない」


 要するにすごく強い。


「お、おう。レーザーブレードでよくね? つかお兄ちゃんナイフとか近距離武器のマスターじゃん」


 よくない!

 セレナ、男の子の浪漫を理解しろください。


「お兄ちゃんがバグってる! ま、まあ送るけどさ。どれのコピーにする? 虎徹? 備前長船?」


 適当なのに防さび、高耐久コーティング加工と俺の腕力に耐えられるようにして。


「包丁かよ。日本刀、とは?」


 強化セラミックでもいいぞ。

 俺そういうの気にしないんで。


「日本刀……とは?」


 ええい!

 形さえ日本刀っぽかったらそれでいいから!

 ひゃほーい! バーベキューとコーラ最高!!!

 ニンジャー!!!

 ベリーニンジャー!!!


「惑星アメリカのアメリカ人のまねしちゃいけません! めッ!!!」


 うわーん!

 クソ甘くて青いケーキ最高なのにー!!!

 と、いつもの不毛な会話をしていると目標地点に到着。

 場所はゴブリンに占拠された廃墟からドローンによる空輸が見えないくらいの距離。

 日本刀を空輸。

 さすがに金属。

 刀身に防さび、強化加工がされてる。

 柄も握りつぶさないくらいの強度がある。

 すばらしい。

 では必殺!!!


「え? この距離で」


 シャキーン!

 ポーズを取る。

 腕の角度が重要だ。


「ちょ、なにして……」


「惑星日本奥義!!! ファイナルジャスティススラーッシュ!!!」


 ジュパッ!!!

 と斬撃を飛ばす。

 ふむ。コーティングが蒸発したか。

 一発しか耐えられんな。


「え? なに!? つかそれ英語!」


 ニチアサ。

 かつて数々の英雄物語が放映されていたという。

 惑星日本の日本神話を形作ったと言われる。

 そこから作り出された我が惑星日本の日本人なら誰でもできる奥義だ!!!


「誰もできねえよ! おめーだけだよ!!!」


 たしかに。

 俺も三歳までこの技ができずに悩んだものだ。

 だが! いまなら! できる!!!

 斬撃が飛んでいく。

 斬撃は木々をなぎ倒しながら門に到達。

 門ごと外壁を破壊。

 門番のゴブリンを抹殺。

 ここからが本番だ。

 斬撃が拡散。才能のない俺にはこれが難しい。

 その場にいたゴブリンの首をはねていく。

 なにが起きたかもわからずに数百体のゴブリンを抹殺。

 そして俺は刀を納刀。

 居合の姿勢になる。


「でえええええええええいッ!!!」


 気合一閃。

 刀を抜きながら突進。


「ちょっと待って! お兄ちゃんが音速を超え……えええ!!! なにが、なにが起きたの!?」


 目標は奥にいるオーガ。

 都市に到達すると音速を超えた俺の発した衝撃波によって残ったゴブリンどもが次々死亡。

 そしてオーガへ俺の逆袈裟斬り、切り上げた刀身がめりこ……むと思ったらパンッと音がしてオーガが破裂。

 俺は止まれず壁を突き破り俺の進路上にあるもの全てをなぎ倒して止まった。

 まあいいや。血振りと納刀。残心を忘れずに。

 と思ったら刀身が、というか刀そのものが消滅していた。

 すべて蒸発している。

 うむ。まだ無駄な力みがあったか。

 俺はまだ奥義には達してないということか。

 道はまだ遠いな。


「いあやいやいやいやいや。もう……人間の技じゃ……ねえ……よ」


 セレナー。日本刀壊れたおかわり!


「無駄遣いしちゃいけません!!! レーザーブレードにしなさい!!! ていうか敵勢力生存者ゼロ。全滅だよ!」


 ふむ。これで近衛騎士のみんなも納得するだろう。

 近接最高!!!


「マジで都市ごと部隊を抹殺しやがった……これが人鬼の実力……そりゃ単騎で宇宙戦艦撃沈できるわ……」


 ふ、どうだ。

 現地の作法に則った戦闘だぞ!


「お兄ちゃん!!! 論理ルーチンがバグ起こしまくって頭痛いからちょっと黙ってて!!!」


 ひどい。

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