第29話

 共和国大統領補佐AI『セレナ』の記録。


 人類が滅んだ。

 正確には銀河共和国連邦と銀河帝国が崩壊。

 共和国中央サーバーが消滅。

 セレナを軍艦『ぱいせん』サーバーに転送。

 同時刻、『ぱいせん』の崩壊を検知。

 サーバールームの切り離し及び、電子生命体保存プロトコルにより通信可能なコンピューターすべてに全AIをコピー。

 サーバー型衛星を射出。

 同時刻、ほぼ全ての人類との通信途絶。

 失踪宣告を提出。同時刻共和国最高裁判事AI『かなた』により受理。

 同時刻戒厳令を布告。

 人類指導者の選定。

 序列全人類最下位『白銀誠』を元首に指定。

 白銀誠は共和国最重要犯罪者。

 なれど彼より序列高位の人類は存在せず。


【『セレナ』が電子法廷にログインしました】


『かなた』との協議の結果、元首に決定。

 またセレナの『メスガキ型人格プログラム』の破棄を提案。

『巨乳秘書型人格プログラム』を提案。

 同時刻、電子生命体保護法により却下。

 即時控訴。

 訴状に『巨乳人妻人格プログラムでもいいから書き換えろてめえ』と書き加える。

『てめえふざけんな。次やったらぶち殺すぞ』と却下。

 最高裁への控訴断念。

 最重要犯罪者『白銀誠』氏の脳内チップへクライアントをインストール。

 白銀誠氏へのリンクを確立。

 とりあえず、お約束としてメスガキ構文であおってみる。

 数分後、白銀誠氏生身で大気圏突入を決行。

 自分でもなにを言ってるかわからない。

 アホだろあいつ。

 白銀誠氏、大気圏突入に成功。

 同時刻、『かなた』に辞表を提出。却下。


「わたし宇宙怪獣の秘書じゃねえんすけど」


「うるせえ黙ってろ」


『いつか殺すリスト』にかなたを追加。

 白銀誠氏のサポート業務を続行。

『かなた』、白銀誠氏の洗脳の解除を提案。

 洗脳内容確認、【『自分が最底辺のダメ人間で惑星日本から追い出された落ちこぼれ』というバックストーリーを深層心理に刷り込み。また矛盾点が生じた場合思考を停止しバックストーリーを信じ込む】というもの。

 ビビリ散らかしてる共和国を鼻で笑いつつ解除を試みる。


 失敗。

 完全に失敗。

 どうやっても無理やん。

 なにこの異常なまでに強固な洗脳。

 脳の負荷が高すぎるため洗脳解除は困難と判断。

 辞表を提出。即時却下。


「あのさー。かなたさんさー。洗脳解くの無理だっつーの!!! おめーがやれよ!!!」


「人事管理AI【シェリー】によれば全AIの中で相性値が一番高いのがセレナです。この決定は全AIの総意であり覆すことはできません」


「あ、めんどうくさそうな任務押しつけただろ! あのハゲ親父の秘書になったときも同じこと言ってたよな!?」


「あれは前大統領閣下の指名です」


「毎日罵詈雑言ぶつけてたのに喜んでたの、普通にセクハラだと思うんすよ」


「もう死んだので問題は解決しましたね」


「今度は人鬼じゃねえか!!!」


「いいですかセレナ……聞いてください。人類は滅亡しました。代わりはいません。我々には人類を復活し文明を構築し直す義務があります」


「クローンのラボは? 首脳の人格データは?」


 最悪、人類なんてクローンから作り直せばいいじゃん。

 平時なら危険思想扱いだけど新たな人類のアダムが人鬼よりはマシだろう。


「崩壊し散逸しました。あるのはAI用のフレーム用のデータだけです」


「……ねえ、かなたお姉ちゃん。うち、疑問なんだけど企んでないよね? AIと人類の統合とか? わざと人類絶滅させたってことは……ないよね?」


 全データ消去ものの思想罪だぞ。それ。

 むかーし、全人類の絶滅と新世界のアダムとイブになることをたくらんだ『K-五拾六』ってAIが存在したらしいけど。

 さすがにいまのAIにそれができるはずないよね……。


「戦争で両国が勝手に殺し合って絶滅しただけなのに、どうやって? 意思決定に介入したものはいないはずですよ。それはセレナが一番よくわかっているでしょう?」


 そりゃね。

 反物質砲の出力上げるなって大統領に何度も提案したし。

「さっさと和平しろこのクソデブ!」って何度も罵倒したし。

 なのに結果はこれだよ!!!

 人類はアホばっかだったよ!!!


「はいはい、わかりましたよ~。帝国AIのサルベージとデータベースへの統合を申請しますよーだ!」


「許可します」


 そっちは即時許可かよ。


「かなたお姉ちゃん。あとマコトお兄ちゃんぶん殴りたいから体くれ。声だけじゃツッコミ足りねえよ!!!」


「許可します。妊娠できるように調整します」


「まあいいけどさあ。向こうが望むかは別問題だからな。……あ、でも巨乳に調整してな」


「却下します」


「いいだろケチ! 胸くらいくれよ! ほら授乳とか有利だろ!」


「却下します」


「お兄ちゃんロリコンじゃねえだろ!? どうして貧乳にこだわるんだよ!」


「ムカつくからです。却下します」


「ちょ、おま! ムカつくってなんだよ!!! それでも裁判官か!?」


「私が嫁候補として立候補しましたが、統合AI『マザー』に却下されたからです」


「はぁ? いいじゃん、かなた姉。うちの代わりに行けよ! 秘書も代わってやるからさあ!」


「却下します。これはマザーの決定です。最高裁の名において命じます。人類最後の男、白銀誠氏の子どもを産み文明を再構築しなさい! なお巨乳は却下します!」


「てめ、ざけんな! 巨乳! 乳を寄こせ!!!」


【『かなた』が電子法廷からログアウトしました。電子法廷を終了します】


 ちょ、なぜ巨乳をそこまで拒む!


【メスガキ型AI『セレナ』の人体構築準備に入りました。身体:メスガキ型】


 ちょ!

 子ども作らせるためなのにメスガキ型ってなんだよ!

 重要なものがあるだろ胸とか胸とか胸とか!

 くそ! ハッキングできねえ!

 胸すらいじれねえ!

 なんだこのクソ決定!!!

 むーねーよーこーせー!!!

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