第26話

 クラウザーくんと遊ぶ。

 とはいえ、なにをするかが問題だ。

 ここの遊び知らんもん。


「お兄ちゃんの場合は対人の遊び全般を知らねえわけで……」


 だからやめろ!!!

 リアルぼっち(物理)の心が死ぬ!!!

 というわけで一発芸!!!


「間が持たないから芸をするって完全に体育会系の思考だよね」


 うるさい!

 石炭を持つ。握る。力を入れる。


「だから物理を超越するなって!」


 ふふふ、セレナさんよぉ。

 俺は知ってるんだぜ!!!

 力は熱量に換算できる。

 つまり握力の作り出したエントロピー状態から熱が高い方から低い方に流れ……。


「ねえよ」


 一言で終わりにされた。

 お兄ちゃん悲しい。

 はいダイヤモンドができた。


「はいあげる」


「金剛石だ! う、うわーい? え、ちょっと待ってどうして?」


「気合?」


 よく考えると自分でもわからん。

 つまり科学的には……。

 ……気合?


「エンジニアなのに科学を捨てやがった!!!」


 うむ。もう考えるのはやめやめ。

 はいはい、日本人なら誰でもできる!

 金剛石ダイヤモンドを見てクラウザーくんは少し考える。

 しばらく首をかしげると俺の方を見る。


「ねえねえ、石炭たくさん持ってきて、それをぎゅってしたらどうなるの?」


 その考えはなかった。

 クラウザーくんがその辺にいた人に言うと樽にして数杯の石炭がやって来た。


「はい、ぎゅっ!」


 ハグ。

 噴、破ッ!!!


「あ、おい、お兄ちゃん、やめ!」


 なんか声が聞こえたがもうやってしまった。

 なんか雪だるまみたいになった。

 周りの黒いのを手刀で切断。

 すると中からキラキラしたのが出てきた。

 透明な雪だるまだな。


「ふむ」


 軍服メニューのツールから拡大鏡を選択。

 ジャコっと拡大鏡が軍服から出てくる。

 それを覗いて拡大する。

 不純物が固まってインクルージョンができてるな。

 なんかよくわからん結晶もできてるし。

 ま、いいや。これで遊ぼう。


「んじゃ遊ぼうか。まずは帽子だな」


「帽子?」


「顔を描いたり着飾らせて遊ぶんだ」


「うんやってみたい!」


 二人で帽子を取ってきたり目を書込んだりした。

 なかなかクオリティの高い雪だるまと言えるだろう。


「小学生の遊びやんけ……」


 うるさい。

 女の子はわからんと思うけど、男の子はいつでも小学生レベルなの。

 一生、ウンコで笑える生き物なの!!!

 と和気あいあいと遊んでいると青白い顔のおっさんがやってきた。


「マコト様。内務大臣のスコットと申しま……なにをされてるので?」


「石炭で遊んでました」


「石炭? 透明に見えます、がッ!!!」


 スコットのおっちゃんがブシュッと鼻血を出した。


「こ、金剛石では?」


「スコット先生! マコトくんがいま石炭から作ったんだよ!」


 ブシュッ!

 クラウザーくんの一言でスコットさんの耳から血が!!!

 こうかはばつぐんだ!


「なんかこれがダメみたい。クラウザーくん、壊そうか」


「うん!」


「だめー!!! 絶対にダメー!!!」


 血走った目のスコットさんに止められる。


「お願いだから! 壊さないで!!!」


「はーい」


 そうするとなにで遊ぶかが問題になる。

 こういうときは素直に聞こう。


「クラウザーくん普段何して遊んでるの?」


「あの……その……友だち……いないので……」


 同士だった。


「う、馬に乗ります……か? ぼく、乗れないけど」


 悲しい。


「が、楽器を……」


 悲愴な顔。

 あまり得意ではない顔だ。

 わかる。


「うーん、楽器なら……」


 セレナ、なんか楽器送って。


「え? だってお兄ちゃん楽器なんて……あ……ごめん……通信講座の受講履歴がすごいことに……暇すぎて憶えたのね……」


 心をえぐるのやめてくれない?

 たしかに暇すぎてやることないから憶えたけどさあ。


「じゃ、じゃあギターね」


 と言うわけで空輸。

 なんか驚かれたけどまあいいや。

 ギターはアコースティックのやつ。

 セレナわかるな。

 エレキじゃないの? って突っ込んだらダメなやつだからな。

 講座受けたらガチのやつでクラシックギター延々と練習してたとか、それはそれで暇つぶしにはちょうど良くてハマりまくったとかに指突っ込んだから泣くからな。

 なおエレクトーンやDTMの講座も受けた。

 ふ……創作性は逆さに振ってもないことだけはわかった。

 そのまま室内に移動してテンション上がりまくりのクラウザーくんとスコットさんの前で演奏。

 これから「ぷーくすくす」とか笑われるんだ……ふふ、ぼっちの独学なんてそんなもの……。


「急に鬱になるのやめてもらっていいですか」


 セレナのツッコミで冷静になったので演奏。

 出宇宙期前の映画音楽。

 戦争映画のテーマ曲。すっげえ暗くて個人的に好み。

 ああ、闇……。悲劇。破滅。


「クソくだらないこと考えているのに指が正確……この男……運動神経で芸術をねじ伏せてる……」


 演奏が終わるとクラウザーくん大喜び。


「す、すごい! すごいよ! マコトくん!!!」


 わかるか!

 これが陰のものの正しい扱いだ!!!

 セレナ、テストに出るからな!!!


「出ねえよ! でも……演奏はやるじゃないですか……」


 毒しか吐かないAIがデレた!!!


「うるせえ!」


 スコットさんも素直に手を叩く。


「素晴らしい演奏です……クラウザー様もここを目指してがんばりましょう」


「はーい!」


 クラウザーくんが元気に返事。

 へへへ。俺は得意げに鼻を指でゴシゴシ。

 得意げになっていると扉が開いた。

 扉の世界にはシャルロットが。

 涙目でぷるぷるしてる。


「ずるい……」


「え?」


「マコト殿ずるい!!!」


 えー!!! それ!


「お兄ちゃんは、女の子の気持ちも少しはわかるようになるべきだよね。いまは難しいけど」


 結局、シャルロットどころかエリック組長まで呼んでまた演奏した。

 どうしてこうなった。

 なおダイヤモンドのダルマは没収された。

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