第25話
私、シャルロットはマコト殿の婚約者だ。……たぶん。
その自信が揺らぎ始めている。
陛下が鼻血を流していた。
財務大臣以下、主だった国務大臣も鼻血を流す。
なぜならそこに金の山があるから。
ところで私は男爵なのになぜこの場にいるのだろうか?
陛下は鼻血をふくとエリック殿に詰め寄った。
「これ……本物?」
まさに愚問だ。
だがその言葉を口にする気持ちはわかる。
「我々が確認した限りでは本物です。比重は金と同じ、削った断片を塩水と酢に漬けましたが、溶けることはありませんでした」
「我々でも同じような検証しかできぬ。代々、王家に貢献しているバルガス家を信じよう」
すると頭の禿げた男。軍務卿が発言する。
筋骨隆々で
予定通り騎士学校を卒業したなら上司になっていた方だ。
「恐れながら陛下。これだけの金塊があれば全土での怪物による国難を乗り切ることができるかと。なにとぞ軍への提供をお願いいたします」
「ああ、予算の増強を約束しよう。ただし復興にも予算を割かねばならぬ。無駄にせぬことを肝に命じよ」
「はは!」
もう国の金として使い道が決まってしまった。
マコト殿がどう思うかを考えると胸が痛い。
いや……もしかすると……あの程度の金どうでもいいのかもしれない。
自分たちとは人間の大きさが違いすぎる。
もしや本当に神の使わした救世主なのではとすら思える。
そしてもう一度、なぜ私はここにいるのだろうか?
エリック殿に全部押しつけるつもりだったのに!!!
「ところで……だ……これ、どうする?」
陛下が心の底から困ったという声を出した。
うん、私も陛下と同感だ。
「これ」とはリヴァイアサンと英雄像のことだ。
総金製。
王家の歴史ある宝が霞むほどの逸品だ。
壊すことを決断できるものなど存在しない。
さらには金箔を張り巡らせた芸術作品までも。
扱いに困ることこの上なしだろう。
「ここはマコト殿のもたらしたものと正しい情報を公開しては? マコト殿を救国の英雄にして難局を乗り切るのはいかがでしょう?」
内務卿が発言した。
賢そうで神経質そうな壮年の男性だ。
マコト殿がエルダーにして救国の英雄になってしまう。
男爵家の私と一気に釣り合わなくなってしまった。
どうして私はここにいるのだろうか?
私に身を引けと言われるのではないだろうかと内心怯えていた。
内務卿が続けた。
「ですので、シャルロット嬢。貴女に手綱を握って欲しい」
はい?
「え?」
思わず声を上げると内務卿がほほ笑む。
「いいですか、シャルロット嬢。貴女に国の存亡がかかっています」
「いやでもバルガス家のサーシャ殿が……」
すると両手で肩をガシッとつかまれる。
え!? なに!?
「いいですか。あの、きょうじん、ごほん、変わり者に手綱を握らせてはなりません。あの令嬢は自分が面白いと思ったらためらわずに国を滅亡に追い込みます! あなたしか!!! なたしかいないのです!!!」
「内務卿。我が娘なのだが……」
「バルガス殿……騎士学校の時点で危険人物はリストアップされております。わかりますね。危険事物リストのトップはサーシャ殿ですぞ!!!」
「えー……そんなはずは……」
「政治の授業で『国を滅ぼす方法』なんてレポート書いてくる学生ですよ! わかります!?」
「た、たしかに少し変わり者ですが……」
「バルガス卿の信頼があるからこそ野放しにされていただけですからね! シャルロット殿!!! たしかにあなたは正義漢で暴走しがちですが、ちゃんと周りが見えておりしかも成績優秀者! 第一夫人としての活躍期待してますからね! 面白いか面白くないかしか尺度のない、あの寿命のある悪魔をどうか封じてください!!!」
「あの……内務卿……人の娘を悪魔呼ばわりは……さすがに言い過ぎかと」
「だまらっしゃい!!! あきらかに親の教育の失敗でしょうが! シャルロット嬢、そんなに固くならないで。ちゃんと優秀な諜報部隊を貴女につけます。ええ、貴女は今日から国の特命を受けた伯爵になるのです!!!」
いきなり伯爵になった!
なにがあった私の人生!
しかも軍務卿まで高速でうなずいてる。
「非常に残念なことにバルガス家も侯爵になってもらいます。おたくの娘に監視つけますからね!!!」
「なぜかうれしくない!!!」
エリック殿が吠えた。
たしかにサーシャ殿の話は聞いたことがある。
曰く、単に怖いだとか、悪の帝王だとか、絶対悪がいるから身分を問わず団結していじめがなくなったとか。
話を盛りすぎだろうとは思ってたが……まさか真実?
いやまさか……。
それなら婚約破棄させれば……。
あ、そうか。
パワーバランス的に変人バルガス家とお荷物アルフォート家ならまかせられるのか……。
良くも悪くも中央の権力争いとは遠く、二家とも婚姻政策に失敗している家だ。
主に性格面の問題で。
ちょうどいい相手なのだ。
「というわけでこれからよろしくお願いします。できれば未来永劫のおつきあいを。はっはっはっはっは!」
とんでもないことになってきたぞ。
ただの恋愛のはずだったのだが……。
王が深くため息をついた。
そして一言。
「そなたには申し訳なく思っている。最大限の支援をさせてもらう、伯爵」
あ、陛下は私側だ。
普通の人間だ。
それだけはよくわかった。
ところで……サーシャを抑えるなんて私にできるのだろうか?
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