第20話

 男爵邸の玄関ホールに金色の像が飾られていた。

 カー○ルサンダースといういにしえの英雄らしい。

 なんでもこの像を川に放り投げたものに考え得る最大の天罰を与えたそうだ。

 後の世で川の底から発掘されたが、天罰を恐れて壊すのをやめたらしい。

 私、アリシアはそれを見てため息をつく。

 どうしよ……これ……。

 あのときその場にいたものなら思ったはずだ。


「マコト殿は金銭感覚が狂っておられる!!!」


 いや金遣いが荒いとかではない。

 むしろその財力は想像を絶する。

 おとぎ話の金持ちかと思われるほどだ。

 だが……これどうするの!?

 ただ運ぶだけで20人がかりで運搬しなければならないような金の像。

 交代要員に護衛を入れると千人ほどになるだろうか?

 最初は神像とリヴァイアサン像。あとから英雄像まで。

 換金? どうやって?

 価値がありすぎて王族でもなければ換金できるはずない。

 こんなもの軍が千人規模で運ぶような代物だ。

 これが運搬されると言うだけで噂になって各地でお祭り騒ぎ。

 屋台と現物客があふれかえり、一日でとんでもない金が動く。

 わざと時間をかけて遠回りをしながら運搬し、なるべく多くの臣民に国の栄光を見せつける。

 王都で他の国宝とともに展覧会を開催。

 外国にまで国王ここにありと見せつける。

 そこまでの事態になるほどの宝だ。

 その宝をポンと差し出す金銭感覚。


 ……鼻血が出た。


 どこの王子様だ!!!

 おまえはおとぎ話の登場人物か!!!

 それは高給取りのゴードン団長も上流階級でこの街一番のお金持ちであるはずのシャルロット様も同じだった。


 ぶしゅッ!!!


 鼻血をふくのも忘れた。

 私はさっそく自身の伝手の中で一番位の高い聖職者に手紙を出した。

 私の上司にあたる司祭とその上司の司教宛て。

 正副二通ずつ。シャルロット様との連名で公式な手紙である。

 一番高い便で出そうと思ったら、シャルロット様が伝令兵で一緒に運んでくれることになった。

 緊急事態を現す赤い旗を立てた兵士が飛び出していく。

 マコト殿がおっしゃるには各地で怪物が暴れているとのこと。

 国軍も動き出しているだろう。

 もうあとはどうなるかわからない……。


 と、思ったら10日ほどで来ました。

 国軍が。3000騎ほど。

 随行する人々を入れると単純計算で6000名。

 10日でこの人数を動かすとはよほど良い話題がなかったと思われる。

 そこに降ってわいたアルファート男爵家とバルガス伯爵の勝利の朗報。

 しかも古代の神像の奪取という功績まで。

 この波に乗らねば!!!

 と、国の混乱ぶりが手に取るようにわかってしまうのが嫌だった。

 シャルロット様が歓待する。

 マコト殿の言うとおり、シャルロット様の腕は順調に再生していた。

 手の平まで再生している。

 エリクサーの効力のすさまじい効力がよくわかる。

 そんなシャルロット様は軍を率いた第三王子のノーラン様を歓待する。

 なぜかバルガス家のエリック様とサーシャ様も来ていた。

 なんでいるの?

 え? 婿殿に会いに?

 いやどう考えても軍が来たからですよね?

 ねえ……。

 そしてなぜか私も人数合わせで呼ばれる。

 ……逃げ損なった。死にそう。


「ささ、こちらへ」


 玄関でノーラン様が立ち尽くす。


「ええ、驚いたでしょう。カーネルサ○ダースという古代の英雄だそうで。追加で奪取したものですが……もちろん献上いたします。王と民のために!!!」


 翻訳すると、「ちーっす、追加のゴミ引き取ってくれませんかー? ちょりーっす!!!」でしょう。

 ノーラン様は像を見ると「え? これ運ぶの?」という顔をしてました。

 わかります。


「あ、ああ、うん、その方の忠義大変うれしく思う。陛下もさぞお喜びになるだろう……ただ……人足が少なすぎたようだ……男爵領は復興中。人足を用意させるのは忍びない」


「恐れながら殿下!!!」


 ここでエリック様が参戦。


「我がバルガス家が人足を用意いたしましょう」


 と言ったと思ったら、こちらにウインクばちこん!

 ……少しイラッとした。


「そう……我が婿君。そして親戚であるアルファート家のために!!!」


 ウインクばちこん!!!

 あ、そうか。

 サーシャ様がマコト様の第二夫人になれば広い意味で一族になるのか。

 家柄を考えるとバルガス家の一門に加わる形だ。

 だがシャルロット様も主導権は渡さない。


「ではこちらを」


 パンパンッと手を叩くと重そうな金塊を持った執事姿の男性がやってくる。

 どう見ても騎士なのだが金塊の重さで手がぷるぷるしている。


「ノーラン様にはこちらを収めて頂きたく存じます」


 ノーラン様が度肝を抜かれている。

 王族のプライドがかろうじて鼻血を防いでいるようだ。


「あ、ああ。ありがたく頂戴する。えっと……感状は追って送ろう……。財務卿と相談してから」


 ああ、王子様も処分方法思いつかなかったんですね。


「ご本家様のエリック卿にもこちらを」


 ご本家様と相手を立てつつ金で解決。

 シャルロット様……一皮剥けたようですね。

 もう脳筋の白猪とは言われないでしょう。

 騎士が追加で金塊を持ってくる。

 エリック様は満面の笑み。汚いホクホク顔。

 なぜこのおっさんが民に人気あるのかわかった気がする。

 なんだかほっこりしていると玄関が騒がしくなる。


「司教様!!! 司教様が像を見て鼻血を!!! 誰か来てくれー!!!」


 司教様……。来てくれたのね。

 そうよね。

 アレ見たら鼻血出ますよね……。

 戦神様のご加護を……。

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