第21話

 王子様が来るらしい。

 あの像の処分は巨大組織じゃないと無理なんだって。

 溶かしてインゴットにすればよかった。


「残念。許可されてません。文化財は勝手に壊せないんですぅーッだ!」


 だってさ。

 AIの禁則多過ぎ問題。

 それで処分なんかを話し合って、可能なら引き渡すんだって。

 で、その場に俺がいるといろいろまずいとのことだ。

 なんだろうね?


「うん、惑星を滅ぼすレベルの戦闘力かな?」


 メスガキ型AIのチクチク言葉が今日も炸裂する。


「そんでさあ、今日何して遊ぶ?」


 肩書きこそ共和国大統領だけど、国が滅んだら実質ノージョブ。

 シャルロットにお小遣いもらったので軍資金はある。


「ヒモ状態だよね」


 金提供したじゃん。

 銅貨たくさんと銀の塊と金貨は一枚。金貨はサンプル。

 お店で使うのは銅貨だけ。

 銀決済もできるけど銀の塊で重量払いだから大きな額の支払いだけだって。


「銀は加工が難しいの。金はほとんどの惑星で少量しかないし。海から取り出せれば別だけど、そこまでの科学力はなさそう」


「ふーん。結構精度にばらつきがあるよな?」


「地方で勝手に鋳造したのが含まれてるんじゃないかなあ。出宇宙前はよくあったみたいだし」


「へー、データ通貨以前はたいへんだったんだなあ……」


「要するにお兄ちゃん、ここで重要な事は……人工衛星でいくらでも作れる」


「なん……だと……!?」


「もちろん作りすぎると国が滅ぶけど、少しくらいなら作ってもわからないよ。お兄ちゃんが無駄遣いしたって問題ない程度かな」


「プロテクトは?」


 いや、絶対あるだろ。

 出宇宙時代初期だって暗号化くらいはされてたし。


「ないよ」


「……お、おう」


 プロテクトないの!?

 どうやって盗難を防いでたんだ?

 ハッキングされたら一発で全部持ってかれるじゃん!


「物理的に存在してるから必要ないんだって。ちゃんと持ってて盗まれなければ問題ない」


「なんてことだ……」


 というわけで無駄遣いしようと思ったら、全てのお店お休み。

 というか外出禁止。

 王子様来てるから。


「セレナ……正直言うとさ……エッチなお店あるかなって……お前にわからないように探るつもりだったんだ」


 へへッ! 鼻を人差し指でごしごし。


「やめろ童貞。それは貴様の人生プレイスキルじゃ無理だ……死ぬぞ」


 なので今日は森の中のログハウスにお泊まり。

 なお大気圏突入時にクレーターになった所はすでに補修完了。

 培養したクローン木を植林してある。

 万が一環境保護団体が生き残ってても大丈夫だ。

 地球型の惑星は壊しても直すが楽でよかった。

 暇を持て余した俺たちは地下を拡張。

 空輸された発電施設とサーバーをログハウスの地下に設置。

 おまけにドローンの生産工場キットを設置する。

 全自動プリンターでドローンをサクサク作ってくれる。

 で、その間、俺は居眠り。

 家も食い物もあるし。

 ああ、20歳になってれば、20歳になってさえいれば朝から酒飲んで寝てたのに!!!

 はい、タブレット端末からスロットマシーンちゃりんちゃりん。


「ほら、エナドリ飲んでアニメでも見てて! そこにお兄ちゃんの好きな鬱文学詰め合わせもあるから! あたしはご飯用意するから!」


 AIが指示してドローンが全自動で調理。

 ある意味、義理の妹の手料理。

 なのになぜだろう? この虚無感は……。

 ははッ! どうして目から水が……。


 と、全力で茶番を演じているとけたたましく警報器が鳴った。


「はわわッ!」


 完全にオフモードでダメになっていた俺は飛び起きる。

 戦のにおいじゃーッ!!!


「お兄ちゃん! 人が襲われてる!!!」


 もうね、暇だったのよ。

 次の瞬間には、バイクにライドオン!!!

 ぎゅおおおおんッ!!!

 と発進してた。


「ヒャッハー!!!」


「お兄ちゃんが暇すぎて壊れたーッ!!!」


 だって暇なんだもん。

 森を抜け、土煙を上げながら街道を走る。

 すると例の如くゴブリンが人を襲っていた。

 騎士とゴブリンの攻防。

 今度はシャルロットのときよりは善戦してた。

 騎士の質がいいのだろう。

 いつものようにバイクで一匹跳ね飛ばす。

 ゴブリンどもと目が合った。


「ああああああああああッ! 悪魔だ!!! 悪魔が来た!!!」


「なんだって!!! あのオーガを一方的に殺したやつか!!! うわあああああああんッ!」


「ひいいいいいいいいッ!!! もう終わりだああああああああッ!!!」


「勝てるはずねええええええええッ!!!」


「おがあちゃああああああああああんッ!!!」


 あれ?

 ゴブリンどもが何もしてないのに勝手にパニックを起こした。


「き、聞いてねえ! お、俺は逃げるぞ!!!」


 一匹逃げたので後ろからライフルで頭ズドン。


「うぎゃああああああああああああああああああッ! 殺される! 俺たちここで死ぬんだあああああッ!!!」


 別のゴブリンがそう叫ぶと、今度は一斉に別々の方向に逃げる。

 可能な限り射殺。

 コケて動けなくなってるのとか、切り株の尖ったところに勝手に刺さって死んだりとか、味方に踏み潰されたりとか、もう本当に地獄絵図。

 俺が悪いことしてるみたいなのほんとやめてくれない?


「やったね、お兄ちゃん! ゴブリン殺しすぎて悪評広まってるよ!!!」


「悪評が広がるってなにその社会性! なんで人型労働生物が社会形成してるんよ!」


「本当は無理なはずなんだよね。一時の協力はできるけど社会形成したら必ず全滅するようになってるんだわ。すべての人型労働生物はユニバース25実験モデルで絶滅確認してるはず……」


 もうね。暇つぶしにもならない。

 それにしてもこの惑星は謎だらけだな。

 すると騎士の中から俺と同じくらいの年の男子がやって来た。

 すんげえ美少年。

 中性的な男の子だ。


「おかげで助かりました。どこぞの御家中の方でしょうか? 私はクラウザー・シュトロハイムです」


「アルファート男爵家食客のマコトです」


 なんかラスボス感あふれる名前だな。おい。

 と思ったらセレナがぶちかました。


「あんれー? この子、貴族だよ。銀河帝国の。ナノマシンが精製した認識タグが脳内にあるし」


 はい?

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