第18話
正直に告白しよう。
サーシャのあの目。
恋愛感情ゼロで興味ない男を見る目。
いやそもそも恋愛感情自体がサーシャ内になくて、損得だけで男を見る目。
もの凄い勢いで俺を探りまくるあの目。
明らかにヤバいやつなんだけど。うん、どう考えてもヤバいやつなんだけど……。
……新しい扉を開けそうになった。
「変態! 変態! 変態! 変態!」
違うんや!
でもなんかあの目で見られるとゾワワってするのがなんか気持ちいいんや!
恋愛感情一つもないけど、なんか新しい扉開けそうなんやーッ!!!
「ド変態!!!」
「らめ、ちがうのー!!! 本能が痛気持ちいいってささやいてるの!!!」
「うっわ変態……という冗談は置いといて、大事な思春期に他人と接触せずに閉じ込めていた影響が出てるみたい。歪みまくったヤバい性癖が発露する前にAIのカウンセリングと投薬確定な」
「やーめーてー!!!」
「そもそもいいとこのお嬢さんがヤバイやつなわけねえだろ!!! つかお兄ちゃん、シャルロットちゃんはどうなんよ?」
「んー、友だち?」
「あ、男友だちにカテゴライズされたか。じゃあゴードン団長は?」
「兄貴!!!」
「んー……人間関係のカウンセリング追加な。幼稚園生レベルから人間関係やり直そう、ね」
なぜだ!
しゃべればしゃべるほどドツボにはまる。
「じゃあエリック伯爵は?」
「組長!!!」
「お薬追加しとくね。糧食に強制添加しとくから」
なぜだー!!!
あまりにも理不尽。
「誰だよ! 制御できないキリングマシーンを取り返しがつかなくなる寸前まで放っておいたやつ……あー、厚生労働大臣が責任者か。ああん? なんだ死亡確定かよ。死刑にしてやろうと思ったのに」
AIが物騒な台詞をつぶやいてる……。
「もうね! ちゃんとしなさい!!!」
はーい。
でもとりあえずこれからどうするよ?
「とりあえずシャルロットちゃんとこ帰れば? ゴードン団長も送らないと」
「そうだな。サーシャは……とりあえず保留だな」
「そうね。とりあえずお兄ちゃんは距離取りなさい! 混ぜるな危険!!!」
というわけでシャルロットのところに戻るのであった。
物資置いてけば文句出ないだろ。たぶん。うん。
■
私はサーシャ。バルガス伯爵家当主エリックの三女だ。
名家の三女。
貴族学院の文官コース在籍中。
成績もトップだ。
だというのに婚約者がいない。
私はモテない。
何度も見合いをしたのだが、
「その目が怖い」
と断られてしまう。
なぜだろうか?
しかも「私との会話は心が吸い取られる」とか「すぐ言質取りに来る。見たら逃げろ!」などの悪い噂が流れている。
交渉ごとでもあるまいし。そんなことするわけが……したかもしれない。
だが貴族とはそういうもの。
少なくとも私の周りでは。
そんな私に婚約者候補が現われた。
しかも私は第二夫人だという。
相手は貴族かどうかすらもわからないというのに。
父がそれをよしとする。
つまりそれだけの男だ。
バルガス家が絶対に手に入れなければならないということだ。
詳しく説明されてないがそれだけはわかる。
念のため情報収集する。
とりあえず我が家の危機を経験した騎士数名を呼び出す。
「……なんと言っていいか……単純な戦闘力ベースで例えると化物です」
「錬金術師で戦士で魔法使いです」
「これは秘密なのですが……どうやら
……呼び出した全員の意見がバラバラだ。
本当に同一人物だろうか?
父に聞いても「想像の上を行く男だ。楽しみにしていろ」としか教えてくれない。
おそらく……いままでのやらかしから接触は最小限にするつもりだ。
信用がない。
そして会う機会は数時間後に訪れた。
なんでも隣の男爵領の騎士団長が倒れてそれを救ったらしい。
しかも確実に死ぬ病だという。
面白い。
ただの医者や騎士であれば手の平で転がそう。
そう思っていた。
しかし……実際会ってみると面白い人物だった。
貴族階級? いや軍人?
服の仕立てのよさ。それよりもちゃんと手入れをしている。
士官候補生では完全にはできない水準だ。
立ち姿もどことなく軍人のような。
背筋が伸びていて立ち姿が美しい。
顔は地味だ。だが均整の取れた体格は……そそる。
年齢は私と同じくらい。
私はその姿を眺めていた。
「マコト様。ささ、召し上がってください」
そう言うと焼き菓子を口に入れる。微妙な顔。
ほう、我が家の菓子よりも上等なものを食べ慣れているのか。
つまり美食が許される社会階級出身。
父と同じゴツゴツした軍人の手も好感だ。
その後、少し会話すると彼の人となりがわかった。
偉ぶってない。
自慢話をしない。
楽しい。
だけどここは戦場、仕掛けてみる。
「なんでもマコト様は精霊様と交信できるとか。なにかこの世を変えてしまうようなお話かしら?」
「サーシャ、隠してもしかたないので言いますが、私はこの地の精霊と交信できるわけじゃありません」
「と、言いますと?」
「故郷からついてきた精霊とだけ交信できるんです」
するとマコト様はあっさり認めてしまった。
なるほど、初手で精霊魔法を使えることの言質を取られた自覚があったので、それを公開情報にしたのか。
さすが武人。
なんの勝負かわからぬうちから体勢を整えてきた。
彼は……ゲームが上手なタイプだ。
私の周りにはいないタイプの男性だ。
気に入った。
しかもあの目……私の本質を見抜いている。
しかもそれを楽しんでいる。
……ゾクゾクした。
本能が自分より上位の存在だと警告を発していた。
まるでドラゴンを前にしたいけにえのように。
面白い。
マコト様が帰った後、メイドに言いつける。
「気に入りました。お父様に縁談を進めてもらうように言ってください」
これから退屈しなくなりそうだ。
ああ……なんて罪深い。
こんなに楽しい人生が待っているなんて。
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