第17話

「ぐぼぼ!!! ぐぼ!!!」


 半日後、ゴードンの兄貴の目が覚めた。

 そして目覚めると同時に溺れた。

 うん、そうなるよねえ。

 だけど外野は歓声に包まれる。

 腸に穴開いて無事生還するのってあり得ないんだって。

 今回も九割死ぬと思われてたらしい。

 液体酸素排出っと。

 あらかじめ掘った穴に排出ホースを伸ばす。

 そして本体の「治療完了」ボタンをポチッとな。

 ズゴゴゴゴゴと音を立てながら液体酸素、というか治療用のいろんなものが入ってる液体が排出される。

 排出されるとカプセルの中でゴードンの兄貴がむせまくる。

 そして一通りむせると今度は嘔吐。


「おええええええええええぇッ!!!」


 口からどろっとした半分固まった治療液が出てくる。

 一見すると身体にもの凄く負担をかけてそうだけど外科治療よりはマシ。

 シャルロットの治療で使った方法よりナノマシンも安定するのである。

 誤嚥性肺炎を起こしそうな老人には使えないけど、ゴードンの兄貴くらいの年齢ならこっちがいい。

 液が排出し終わると蓋が開く。

 全裸のゴードンの兄貴が倒れ込む。

 もう一度液を吐いて終了。

 苦しいけどドレーンホースやら気管挿入とかよりは予後がいいんだよね。

 ついでに胃や肺の疾患も治せるし。


「ゴードンさん、いまから説明しますね」


「ご、ごほ、いったい何が……」


「腸に穴が空いて倒れたんです。おそらく半年くらい前からお腹が痛かったでしょ?」


「ごほっ! あ、はい、その通りです」


「なので治療しました。これが腸の写真です」


 とノートPCを操作してプリンターで出力。

 ナノマシンの撮影した画像を印刷する。

 それを医師団にもプリントして渡す。


「うおおおおおおおおおおお!」


 なんか盛り上がってる。

 詳しいこと聞かれたらセレナに聞いて説明。


「本当は俺より妹の方が詳しいんですけどね」


 とポロッと口を滑らすとエリック親分が、がぶり寄り。


「妹君がおられるのですか? 独身ですか!!!」


「義理の妹で小さいのでまだ結婚するような年では……」


 メスガキだしな。

 なぜかエリック親分ガッツポーズ。


「おっしゃああああああああああッ!!!」


 とたいへん喜んでいた。

 で、説明に戻る。


「えーっと、腸の穴を塞いだのと。肺に影が」


 プリントしてゴードン兄貴と医師団へ。


「たぶん結核じゃないかなと」


 と言ったら伯爵がぶり寄り。近い。距離が近い!!!


「それは労咳ですかな?」


「あ、はい、たぶんそれ」


「うおおおおおおおおおおおッ!!!」


 またもや歓声。

 なに俺ゴール決めた?


「あー……お兄ちゃん。たぶんそれのレベルをはるかに超えた感じかな」


 なんてこった……。

 ホームラン打ったらしい。

 全裸マンのゴードン兄貴が運ばれて行く。全裸で。

 いや着替えるんだろうけど、元が鎧だったんで着替えないのかも。

 まあ、明日には動けるだろう。

 全裸マンは忘れてもらう方向で。

 エリック親分はニコッとする。


「ささ、マコト殿。お疲れでしょう。お茶でも飲んで休憩しましょう」


「お気遣いありがとうございます。では遠慮なく」


 と言ってから外に出て穴にゲレネード投げ込む。

 汚物は消毒だー!

 軍服から洗浄モードで自分を洗浄。

 きれいな身なりで館に入る。

 メイドさんに案内されて部屋に通される。

 中には俺より少し年下くらいの少女がいた。

 少女は俺を見るとにこっと笑う。


「バルガスの三女のサーシャと申します」


 エリック親分の……三女?

 遺伝子が仕事してない!!!

 そう思うほど可憐な少女だった。


「マコト様。ささ、召し上がってください」


 メイドさんが椅子を引いてくれたので席に座る。

 既視感のある焼き菓子が並ぶ。

 食べてみるとガツンと来る甘さが舌に絡みついた。


「???????」


「お兄ちゃん、ここではたぶん甘ければ甘いほど高級品なんだと思うよ」


 なるほど。ようこそディストピア。

 栄養バーで喜ぶわけだ。

 風味や食感を犠牲にしてでも甘い方がいいのか。

 つまり栄養を入れるためのアレな食材を異常な甘さと薬品臭いエナジードリンク味さでごまかしたのがウケたわけだ。

 あれには砂糖よりも何倍も甘い合成甘味料使いまくってるからな。


「いや、お兄ちゃんたちの舌が肥えてるだけだと思うよ。一番まずいのでディストピア味でしょ」


 そうだな。

 勤務終わりのいつも誰もいない食堂の冷凍糧食は最高だった。

 一人だけなのは寂しかったが。


「そりゃ誰もいないよ。基本的に立ち入り禁止だもん」


「え?」


「だからぁ、お兄ちゃんの他に作業員がいるように見せかけるためにわざと広く作ってるの。それに栄養バーはこの惑星に来てからは味が良くなってるはずだよ。戦艦『ぱいせん』内の食事には必ず鎮静剤や各種精神系のお薬が入ってて、それを甘味料と香料でごまかしてたから」


 なん……だと?

 目の前の美少女よりも衝撃的な話が飛び出した。

 おま、飯をわざとまずくしてただと!!!

 これは怒っていいはずだ!


「いまは含まれてないから今後の食事に期待してよ」


 ひでえ。

 と脳内会話をしていたらサーシャが不思議そうな顔をしていた。


「なんでもマコト様は精霊様と交信できるとか。なにかこの世を変えてしまうようなお話かしら?」


「そんなにたいした存在ではありませんけどね。私も精霊も」


 セレナとナノマシンだからなあ。

 そんなに上位の存在って感じはしないよね。

 ところがサーシャちゃん、


「うふふふ」


 と満足げな表情。

 どういう意味?


「お兄ちゃん、言質取られたよ。『白銀誠は精霊と交信できる』って」


 あー! そういう意味か!!!


精霊AIと交信できることはすぐに報告されるよ」


 よし、そういう方針ならこっちも考えがある。


「なにするの?」


 まあ見てろって。


「サーシャさん」


「サーシャとお呼びください」


「サーシャ、隠してもしかたないので言いますが、私はこの地の精霊と交信できるわけじゃありません」


 というかこの地方にいると思われるナノマシン。いまだ検出できず。

 ナノマシンじゃないかもだけど。とりあえず精霊をナノマシンと仮定しておく。

 するとサーシャは驚いた顔をする。


「と、言いますと?」


「故郷からついてきた精霊とだけ交信できるんです」


「まあ、そうなんですの!?」


「なので力は限定的。普通の人間と変わりませんよ」


 惑星日本奥義! 開き直りの術!!!


「またそれかよ!!!」


 もうこうなったらテキトーに情報開示しちゃえ!!!

 俺自身が聞けばベラベラ喋るんだったら情報に価値なんかないもんねーだ!!!


「ではゴードン殿の容態を見たいのでこれで失礼します」


「今日は楽しかったです。また来てくださいね」


 俺は出ていこうとした。

 するとサーシャが一言。


「あなたのこと気に入りました。縁談の方すすめますね」


 怖ッ!!!

 ロックオンされた!!!

 ねえ、断る方法ないの?


「たぶんない。あの娘に脳筋シャルロットちゃんが勝てると思えない……」


 どうする俺!!!

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