第16話

 広場に仮設テント設置。

 簡易作業台を組み立ててゴードンの兄貴を寝かせる。

 衛生兵の資格持ってないけど特例措置で免除。

 消化器官の疾患だと思われるので口からナノマシン投与は断念。

 痛覚遮断のナノマシンを血管から注射。神経を麻痺させる。

 ついでにセレナにリアルタムで心電図やら脳波やらを送る。

 技術を披露していいか迷うがセレナから「いいよー」と許可が下りたので、治療用のマシンを衛星から投下する。

 それでもなるべく技術を隠蔽する方針である。

 怪我とかのわかりやすいのじゃなくて、消化器官の癌とか難しい疾患の可能性もある。

 念には念を入れようと思う。

 ドローンに手伝ってもらいながら組み立て。

 電源も広場に設置。

 小型の核融合炉なので本当は設置許可が必要だが緊急時にてスキップ。

 兄貴を全裸にしてナノマシン治療器に入れる。

 鎧の脱がせ方がわからんかったので、男爵領一同で脱がせる。

 カテーテルやらは自動。

 カプセル内が液体酸素に浸されていく。

 ごほっとゴードンの兄貴がむせる。

 一瞬だけ苦しいんだよね。あれ。

 咳はすぐに止まって呼吸が元に戻る。

 なお反対意見は出なかった。

 こんな感じで倒れるとまず死ぬらしい。

 治療できるだけマシみたいだ。

 それにシャルロットの治療をしたので男爵領一同には信頼されてるようだ。


「お兄ちゃん! 十二指腸潰瘍だよ。少なくとも半年以上前から患ってて、ストレスの限界超えて穴あいちゃったみたい。とりあえず穴ふさいでダメな組織を除去するね。現地民に変なことをしてると思われないように湿布でも貼っておいて」


 救急キットから湿布を出す。


【荒れたお肌に! アロエシート! サイバーパンク風ディストピア温泉の香り (化粧料)】


 ヨシッ!!!

 ナノマシンの貼り薬投入口に袋ごと入れると自動でゴードン兄貴のお腹にペタ。

 ふうッ!

 これでゴードン兄貴の肌荒れを防いだぜ……。

 つうかカプセル内は液体酸素で満たされてるのに意味あるのか?


「ないよ」


 なかった!

 ついでにノートPCを起動して仕事してるふり。

 来た伯爵領の医者にセンサーの数値を見せて「この数値は……」なんて適当な解説。

 ほとんどセレナの言葉をそのまま伝える。

 カプセルの中の液体酸素は子宮内の液体に近いと適当な説明。

 実際は抗生物質やら汚染物を除去するナノマシンやらいろいろなんだけどね。

 治療に関しては、疲れとストレスで腸に穴が空いたので精霊魔法で中から穴を塞いだと説明。

 すると医師団からどよめきがおこる。

 というか見学の医師がめっちゃ増えてない?

 なんかおかしくね?

 知らん間にアリシアとエリックの親分が後方腕組み勢に入ってるし。


「マコト殿。私のことは気にせず続けてくれ」


 ひそひそ声がすんげえ聞こえてくる。


「説明理解できましたか?」


 一人の医者が隣の医者に耳打ちする。


「いや、だが……我らよりずっと進んだ錬金術であるのだけはわかる」


 大丈夫だ。

 俺も半分以上わからん。

 廃液除去の通知が入ったのでタンクを取る。

 焼却用のグレネードを持って広場の隅にあるゴミ捨て場へ。

 ドローンで掘った穴に廃液を捨ててグレネードを放り込む。


「ああ! もったいない!!!」


 分析するつもりだったか器を持った医師が叫んだ。

 いやだってこれゴードン兄貴の血と組織と老廃物に汚染物やぞ。

 焼却せんと病気の原因になるし。

 じゅわっと灰になる音がした。


「危険なので焼却しました。灰も埋めますので持っていかないでくださいね」


 とやや大げさに注意してテントに。

 タンクを入れてしばらく待つ。

 通知が来て処置が完了。


「完了しました。おそらく大丈夫でしょう」


 と偉そうに言うとアリシアが目を輝かせてやってくる。


「マコト殿凄いです! 腹に穴が空いたら必ず死ぬのに! 神殿でも為し得ない偉業ですよ! この道具マコト殿が作ったんですか!?」


 お、おう。

 よくわからんが……俺なんかやっちゃいました?


「お約束やめろ。とりあえず我が家の秘伝って答えておけば?」


「我が家の秘伝です(キリッ!)」


「秘伝を惜しげもなく披露したなんて! なんて徳の高い……」


 そう言ってアリシアが腰に差した二本の剣を抜いて自分の胸の前で×字にする。


「ソードチャーチ教会の祈りのポーズだよ。たしか意味は【身体は闘争を求める】だったかな」


 へー、なんか既視感のある武闘派っすね。


「これはご丁寧に」


 こちらも拳を握って腕を×字に。拳を腰の高さに戻して押忍。


「なんと、古式の返礼! もしや御身内に高位神官がおられるのですか!?」


「いえ、生まれ育った地方の風習で……」


 するとアリシアの目が丸くなる。


「もしや古代種エルダー……」


「ええい、皆のもの!!!」


 アリシアの言葉に割り込んでエリック親分が声を上げる。


「我が婿殿の起こした奇跡を見たか!!! さあ、マコト殿。着替えと湯浴みの用意をしております。ささ、こちらに」


 そのまま連行される俺。

 なに?

 なんで婿殿?

 なにがあったのー!!!

 アリシアごと領主の館に連れ込まれる。

 するとエリック親分が俺の前で膝をつく。

 アリシアも慌てて膝をついた。


「まさか、我が生の中で古代種様にお目にかかる機会があろうとは」


 なに言ってんの?

 否定しとこ。


「勘違いしてますって! 俺は古代種ってのじゃありませんって!」


 俺の声に今度はアリシアが答える。


「いいえ。マコト様のすべてが戦神神殿派教会の聖書に書かれた伝承と合致しております。どう考えても古代種様としか……」


 なんてこった!

 信仰対象はやめて!!!

 アホなことができなくなる!!!


「いやそんなたいしたものでは……つい先日故郷滅びましたし」


「な、なんと!!!」


「そんな……古代種が滅んだ……この世界の終わりってことでしょうか!?」


「いえ普通の戦争でしたんで」


 世界の終わりは終わりなんだけど、ものすごーくIQの低い終わり方だったよ。


「そりゃあたしも擁護できんわ」


 セレナもためいきである。

 偉そうにできんわ。

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