第15話

 祝勝会が始まった。

 俺は一人で焚火の側で水をちびちび。

 周囲に溶け込んで誰も声をかけない。

 惑星日本奥義! ぼっちの術!!!

 こっちはこれからの方針会議なのだ。場所は俺の脳内。

 伯爵領の人々が食料を持ち寄り勝利を祝う。

 こっちはこれからの方針会議。場所は俺の脳内。


「セレナ、衛星の物資残量は?」


「お兄ちゃん、ほぼ無傷のエビ養殖場、食用昆虫生産施設と大豆プランターを確保。野菜も種の保管所を発見したから水耕栽培施設を製造中。謎肉の生産量は体重65キロの成人男性換算で一日あたり一万人くらい。むしろ投下用のコンテナ生産の方が間に合わないかな。それと塩と水の生産は工業用を優先して一日あたり100人に調整してるよ。都市奪還したし、自分と数人分の一週間分くらいをストックする感じで生産量落とした方がいいかも」


「それで頼む」


 このAI、大統領補佐クラスのせいか優秀である。

 兵站の管理から生産、配給まで一元管理だ。

 この優秀なAIにメスガキ人格インストールして喜んでいたお偉いさんって、こう言ってはなんだが……かなり頭悪くないか?

 そもそも、このクラスのAIがいて滅んだ共和国って、もしかして……俺よりバカなのか……。


「はい、そこ世界の真実に気づかない!!!」


 怒られた。


「それにしてもさー、セレナ。昆虫食施設いらなくね? 現地で調達すりゃいいじゃん」


 あの栄養バーの原料知ってるから美味しく感じないってもあると思う。


「こういうのは常時稼動してないといざってときに使えなくなるの! それに街から推測した現地の科学力は宇宙進出前レベルだと思う。いつ飢饉が来るかわからないよ。寄生虫だって怖いし。ナノマシンだけで対処するとこの惑星の固有種だと検出遅れて最悪手術で取り出すことになるし」


 正論パンチに反論できん!!!

 しばらく栄養バー生活だな。

 ところで衛星の規模を越えてないか?


「いまは駆逐艦レベルかな。とりあえずデブリを片っ端から取り込んでるから数ヶ月後には戦艦『ぱいせん』と同等の施設になる予定。とりあえず地上から望遠鏡で観測されないように光学迷彩つけてる。魔術で感知される可能性を考慮して電磁波とかのステルスもつけてるよ」


「衛星との通信は?」


「傍受の前兆なし。回線はド安定。衛星通信使いたい放題ね。使う相手いないけど。とりあえず電子書籍のライブラリは使えるよ」


「じゃあ人間失格と蝿の王と1984年と屋根裏部屋の花たち送って」


「お兄ちゃん、古典の鬱作品でデッキ組むのやめろ」


 一人勤務が長かったせいか読書だけはやめられん。

 古典はいままで読んでなかったからいい機会だ。

 時間だけは無限だからな。


「はいはい、適当なコメディー詰め合わせ送っとくわ」


 ひどい!

 といつものようにAIとやり合ってるとゴードンの兄貴がやってくる。

 完全に顔色がヤバい。


「その……マコト殿。少しお話があるのですが……いいですかな?」


「あ、はい。どうしました?」


「そのシャルロット様のことですが……まことに申し上げにくいのですが、マコト殿に求婚されたものと思っておりまして」


「はい?」


 ごめん意味がわからなかった。

 さっきの話のようだが、シャルロットが俺に求婚された?

 どういうこと?


「そのシャルロット様はいまや財産もなく、あるのはこれから復興が必要な荒廃した街だけ。そんなシャルロット様を救ったということは、シャルロット様が欲しいという意味であると……」


 超理論がやって来た。


「単純に人材としてお兄ちゃんが欲しいってのもあると思うよ。単純な戦力に物資供給能力はわかってるし。それに無償で手伝ってくれるってことは、いつでも手を引くってことでもあるから繋ぎ止めたいって思うのは当然だろうし」


 なるほど。

 俺が好きすぎて暴走したわけじゃないのか。

 どう思うセレナ?


「そっちはわかんない。こっちはAIやぞお兄ちゃん!!!」


 AIの苦手分野か。

 うーん、こういうときはちゃんと聞く方がいいかな。


「こちらとしてはそこまで考えてませんでしたけど。ゴードンさんはどう思います?」


「シャルロット様もマコト殿を利用してやろうとかという意思があるわけではないと断言できます。ただ……その……絶望的な状態から助けられたことでかなり過剰に夢見てると言いますか……その……のぼせ上がってると言いますか……」


 歯切れが悪い。

 顔色がさらに悪くなって息が切れている。

 大丈夫か?


「ゴードンさんはどうしたらいいと思います? 円満な解決方法は?」


「……正直に言いますが、とりあえず婚約して時間稼ぎをした方がいいかと。こちらとしてはマコト殿の拠点も提供できますし。もちろん物資の援助をアテにしてるのは認めます。それに嫌でしたらマコト殿から破談すればいいかと。シャルロット様から破談の申し入れの可能性もあるでしょうが……恩知らずなことはしないでしょう。もしそうであればこのゴードンが体を張ってもお止めします」


 まー、物資の供給はべつにいいよね。


「お兄ちゃん、物資の供給は問題ないよ。できればもっと有力者に近づきたいけど、いまは断る必要はないかなあ。シャルロットちゃんの治療もあるし。それにお兄ちゃんの奇行に耐えられるとは思えない……すぐに破談になると思うよ」


 やめろ。

 童貞が「俺ちょっとモテちゃったかも!」っていうドリームを壊すな。


「それじゃあ、とりあえずその方向でお願いします。シャルロットの治療もありますし」


「そうですか!!! それはよかった!!!」


 と言った瞬間、ゴードンの体がぐらっと傾いていく。

 おれを俺は受け止める。


「ゴードン殿が倒れた! 誰か来てくれ!!!」


 ゴードンの兄貴ごめんね。

 なんかストレスかけすぎたみたい。

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