第14話

 街の中に入ると金髪をおさげにした少女が走って来るのが見えた。

 詰め襟の厚手の服の胸の部分に銀河帝国標準語で『神』と書かれている。

 銀河帝国語を知らなければアイコンや紋章と思われるだろう。


「お兄ちゃん、あの服! 帝国のソードチャーチ教会だよ!」


 なにそれ?

 聞いたことない。


「宇宙歴前に大流行した教会だよ! 『争いは刀でしか終結おわれない』って教義の!」


「へぇー。惑星日本は共和国領だから歴史の授業で習わなかったな」


「サムライ、ニンジャ、スモウレスラーを崇拝し、討ち入りと決闘で白黒つける超危険思想だからね」


「へー、それがなんでこの惑星に……? ってここ帝国領!? 知らん間に敵地にいたの俺ら!?」


「反物質砲でめちゃくちゃになっちゃったから、もう座標は意味ないけど未支配領域のはずだよ」


「誰の支配も受けてない領域になぜか存在する人型労働生物に魔法に帝国の変な宗教か……カオスだな」


「もー! わけわかんないよ!!!」


 久しぶりに真面目な会話をしてたら少女がこっちにたどり着いた。


「ゴードン団長! ご無事でしたか!!!」


「おう! アリシア生きてたか!!! マコト殿、彼女はアリシア。戦神神殿派教会の神官です」


「ソードチャーチ教会の?」


「ソードチャーチ?」


「いえ間違えました」


 少なくともこの地方ではソードチャーチ教会とは名乗ってないらしい。


「こちらはマコト卿。我らをお救いくださった騎士の方だ」


「アリシア嬢、マコト・シロガネです。物資もお持ちいたしました」


 歯をキラン。


「やめろ童貞。うぜえ」


 AIの当たりが強い。


「アリシアです。男爵領の避難民とここに落ち延びましたところ襲撃されました。なんとか生き延びました。ありがとうございます」


「マコト殿。彼女は男爵領でも屈指の結界術の使い手です。男爵領でも奮闘してくれましたが……なんというか……その男爵領は伯爵領と比べて防衛力が……」


 うん、こっちの街の方が大きいもんね。

 予算は決まってるからどうしようもない。


「ゴードン団長、シャルロット様は?」


「シャルロット様は……その……負傷されて……」


「そんな……」


「治療はこちらのマコト殿が担われている。マコト殿は優秀な錬金術師でもある」


 なんか勘違いしてるがまあいいや。


「そうですか……では団長、伯爵閣下に謁見をお願いします」


「承知した。マコト殿、ご一緒していただきたい」


 そう言うとゴードンの兄貴が俺の肩をつかんだ。

「絶対離すものか! おまえも道連れじゃ!!!」という気迫が伝わってくる。


「りょ、了解です」


 馬車に乗せられ領主の館へ。

 他の連中は祝勝会の準備だ。

 もちろんドローンで物資は運んだ。

 ガキども! お菓子もあるぜ!!!

 領主の館は二階建て。

 横が広いタイプの屋敷だった。

 役所も兼ねているから広いとのことだ。

 中に入るとガチムチ親父がいた。

 服の上からわかる厚い胸板にカイゼル髭。

 ゴードンの兄貴と同じ惑星日本にいそうなおっさんだ。


「お兄ちゃん、筋肉へ優しいのなんなの?」


 筋肉はあらゆる次元においてジャスティスなんだよ。

 筋肉・努力・友情・勝利・ガトリングって言うだろ。


「エリック・バルガス伯爵だ。このたびの助力感謝する」


「マコト・シロガネです。アルファート男爵家の食客です」


「たまたまそなたのような騎士がいてくれたおかげで命拾いしたのだろうな。我らは運が良かったようだ。ゴードン殿、アルファート殿は?」


「はッ! 男爵閣下、男爵夫人ともに行方不明! シャルロット様負傷につきご訪問を遠慮させていただきました」


「それは……お悔やみ申し上げる。シャルロット殿の容態は?」


「はッ! 命はとりとめ、意識もハッキリしております!」


「その様な事態の中のご助力、痛み入る。同じ敵との戦で我らは義兄妹の絆を結んだ。この恩は必ず返すと伝えてくれ」


「はッ! 必ずお伝えいたします!」


 エリックの親分がこっちを向く。


「マコト卿。我が娘にマコト殿と年が近いものがいる。婚約などいかがだろうか?」


 え?


「リアルぼっちの童貞にモテ期が来た!!!」


 やめろAI! それは俺に効く!!!


「伯爵閣下! 実はマコト卿はシャルロット様と婚約しておりまして!」


 え? なにそれ聞いてない。

 だけどゴードンの兄貴が死にそうな顔で俺を見ている。

 ええい! わかったよ!!!


「ソ、ソウデスヨ……」


「ふむ『いま初めて聞いた』という顔をしているが……。いや、男爵殿の訃報の折に失礼つかまつった。忘れていただきたい」


「うーん、口ではそう言ってるけど『この様子ならいくらでも挽回可能だな。いまは時間を与えて後日パクッと食べてしまおう』って顔してるよ。すっげーニヤニヤしてるよ! どうするお兄ちゃん!?」


 いきなりすぎてコメントできねえよ。

 素性もわからんやつ欲しがるか? 普通さあ。


「しかたないよー。だって人鬼の性能見せつけちゃったし。軍事部門がある組織なら欲しがるはずだよ。隣の領地ならなおさらね。手を取るんでも敵対するんでも決定的なカードだし。シャルロットちゃんの婿に入っても愛人送り込んで親戚になろうとすると思うよ」


 なんてこった!

 なんだこの想定外のモテ期は!!!

 童貞、生まれて初めての危機!!!

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