第11話

 朝。


「ブルドーザーがないと不便だなー」


 ゴブリンの片付け。


「皆殺しとは……こっちはどん引きだよ!」


「結局5分か。本当に俺、惑星日本の日本人じゃなくなったんだな……」


「このキリングマシーン! おめえだけだよ! 5分で皆殺しにできるのおめえだけだからな!!!」


 セレナと不毛な会話をしてると足音が聞こえてくる。

 複数人。

 ドローンを飛ばして確認するとゴードンの兄貴だった。

 占領された街にやって来るようだ。

 俺は門を開けて跳ね橋をかけるまでモタモタモタモタ。

 しゃーないやん!

 誰も跳ね橋なんて手動で操作したことないだろ!


「セレナね、お兄ちゃん……エンジニア向いてないと思う」


 核心を突くな!!!

 外に出るとシャルロットが乗った椅子が御神輿状態。

 ああ、うん、はい。

 見なかったことにして笑顔。


「取り返しましたよHAHAHA!」


 審議中。

 さんざんもめてシャルロットが発言。


「マコト殿、ゴブリンはどうなった?」


「そこに」


 ゴブリンの体は地上ドローンで穴掘って放り込んどいた。

 それで戦果の報告は必要なので台を置いて首だけ並べといた。細かい作法は戦地につき省略。

 さらし首。惑星日本に先祖代々受け継がれる伝統だ。

 現地政府機関への反乱なので惑星日本の刑法を適用すれば獄門が相当だろう。

 ここは共和国が接収したのでこの措置は当然と言えるだろう。


「ゴブリンジェネラルまで……」


「ああ、デカいだけでたいしたことありませんでしたね」


「……ええ!?」


「なにか?」


「あ、いや、うん……」


 だがシャルロットたちを見ると明らかにどん引きしてる。

 なぜだ!!!


「うっわー……さすがお兄ちゃん、さすがに引くわー。有罪判決しか出ないので有名な惑星日本の刑法とかありえないわー……」


 セレナうっさい。


「あ、うん。はい……主計官! マコト殿の手柄だ! ちゃんと数えて報酬を計算しろ!」


 シャルロットが命令した。

 ゴードンの兄貴と比べてだいぶ痩せ型の男性たちが獄門台へ慌ただしく走っていく。

 計算が終わったら焼却。

 本当は首はしばらく晒すんだけど衛生的に中止。

 体を放り込んだ穴に首を投げこんで焼却用のグレネードを放り込む。

 エネルギーグレネードの炎で灰になるまで高温で焼く。

 ゴードンの兄貴がそれを見て目を剥いて鼻水を垂らしていた。


「死体を放置すると虫や病気の原因になりますので」


 このように説明したのにこの様子よ。

 そんな驚くことじゃねえだろと。

 次は生活基盤の復興。

 家の再建なんかは地上ドローンの得意分野。

 昨晩からサクサク進めてある程度終わってる。

 案内すると今度はシャルロットが青い顔して鼻水たらしている。


「わ、我々は……どうやって借りを返せばいいのだ……」


 そんな大げさな。


「あ、あのね。お兄ちゃん。衛星偵察でわかったことがあるの……」


 なんだよセレナ。別にドローン建築って驚くことじゃないじゃん。


「あのね……この惑星……たぶん初期文明だよ……」


「あん?」


 初期文明惑星。

 簡単に言うと共和国や帝国に自力で連絡できないくらいの文明レベルの惑星だ。

 管理を怠った植民地惑星でナノマシン技術が失われることはある。

 だが星間移動技術や星間通信までが失われるのは珍しい。

 ナノマシン技術がなかったら人口は半分以下になるだろう。

 この時点で大問題だ。

 しばらくニュースは管理問題一色になることだろう。

 ヘタすると政府の偉い人が切腹する騒ぎになる。

 それゆえ物語の舞台になったりすることは多い。

 学園にテロリストがやって来て戦うのの次くらいに人気があるだろう。

 誰もがそういう妄想を経験したに違いない。

 実際は初等学校の社会科教科書に載るレベルの事件だ。

 俺の記憶でも初期文明惑星が発見されたなんて話は聞いたことがない。

 少なくとも千年以上記録にないはずだ。

 ……なんかおかしいなとは思ってたんだわ。

 正直、お菓子程度でみんな喜びすぎだろとは思ってた。

 ディストピア味の栄養バーを美味しいなんておかしいと思ったんだ!!!

 あれ……? でもちょっと待って。ゴブリンがエネルギー兵器使ってたじゃん!


「お兄ちゃん……それが問題なのよ。あのとき、ゴブリン杖しか持ってなかったんよ」


「……ええ……まさか魔法なんて……あははははは!!!」


「どうしたマコト殿? 魔法など珍しくないぞ」


 おっと思いっきり口に出してしまったようだ。

 シャルロットが残った左手を目の前に出す。


「ファイア」


 すると指から小さな炎が上がる。

 なんてこった……。


「マコト殿も先ほどから光魔法を使っているようだが。もしかして違うのか?」


「ええ、まあ、ここらのとは違う技術とだけ」


 おっと危なかった!!!

 不信感を持たせてしまうところだった。

 セレナ! 大至急魔法の調査!

 手段は問わない!


「ういーっす!」


 俺はキリッとした顔で話をする。ごまかすためだ!!!


「次に我々は別の都市に行ったゴブリンを倒さなければなりません(キリッ!)」


 なお【ゴブリン】はこちらの単語帳に登録。現地の言葉に変換されている。便利だねー。


「マコト殿らしい崇高な考えだ……だが、もう、我らにはマコト殿に報酬を用意することができないのだ……」

 俺は苦笑する。


「報酬目当てではありません。我らには【一度戦った勢力は徹底的に追い込み二度と刃向かう気が起きないように殲滅する】という掟があるのです」


「そんなの惑星日本の日本人だけだよ!!!」


 うっさいセレナ。

 この教えを守らないとカレー食べた後に毒ガスなのだ。

 わかるな?

 喜んでおかわりした後に毒ガスだぞ!

 うじたくんが31%嘔吐ガスでカレーを喉につまらせてお亡くなりに……。


「惑星日本の話は闇しかねえな、おい!」


 セレナを放っておいて、胸を叩いてドヤ顔するとゴードンの兄貴が震えていた。

 シャルロットも真顔で固まっている。

 やだこの空気。

 あれだ! なにかやらかして職員室呼ばれるヤツ!

 なぜか耳にゴゴゴゴゴゴゴゴと聞こえもしない音が聞こえていた。


「ま、安心してください。明日には敵対勢力は消滅していることでしょう」


「惑星日本の日本人の脳筋ぶりが止まることを知らない」


 うっさいセレナ!

 舐められる前に皆殺し。

 これが鎌倉時代からの日本人のジャスティスなのだ!

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