第9話

 バイクのサイドカーモードにシャルロットを乗せて発進。

 今回は道がないのでタイヤではなく無限軌道とか履帯とかクローラーって言われてる例のヤツ。戦車のアレ。

 普通のバイクより遅いけど、道なき道を安定して走行できる。

 進んでいくとテントから多少距離のある場所で停車した。

 いきなり攻撃されたら嫌だなっと。

 俺はバイクから降りて押していく。

 クローラーのサポートで重さは感じない。

 しばらくするとテントが見えてくる。


「動くな!」


 ここでホールドアップ。

 弓を持った男たちに囲まれる。

 身だしなみを整える余裕がないのか無精髭が目立つ。

 みんな疲れた表情だ。

 俺がバイクのハンドルをつかんだまま大人しくしてると、シャルロットが声を上げた。


「やめろゴードン!!! わたしだ!」


 ゴードンって呼ばれたムキムキのケツアゴがやって来た。

 マツゲとモミアゲの自己主張が強い。

 腕毛もモジャモジャ。

 そっと我が腕を見る。つるん。

 我が惑星日本において筋肉や体毛は美しいとされる。

 心の中でゴードンの兄貴と呼ぼうと思う。


「ひ、姫様!!! そ、その腕は! おいたわしや……」


「マコト卿、アルファート男爵家騎士団副長のゴードン・アルフォートだ。わたしの外戚にあたる。ゴードン、わたしを助けてくれたマコト・シロガネ卿だ」


「なるほど。立ち姿だけで恐ろしいほどの使い手とわかりますな」


「しかも魔道士でもある。それもわたしが見たことも聞いたこともないほどのな」


 やたら俺の実力を過剰に盛る発言だらけだが、惑星日本の日本人では底辺レベル。

 それが現実だ。

 黄昏れているとピロンと頭の中で音が鳴った。

 同時にセレナの声が脳内に響く。


「お兄ちゃん、支援物資投下するよ」


 ドローンでコンテナが運ばれてきた。

 タイミング良すぎる。

 完全に狙ったな。

 するとゴードンたち大騒ぎ。


「な、なんだ! 空から落ちてきた!!!」


「仲間から支援物資が来ました。どうぞ受け取ってください」


 中を見るとテントに医薬品、食料が大量に入っていた。


「どうぞ」


「かたじけない。おい、運ぶぞ」


 ケツアゴと愉快な仲間たちが物資を運ぶ。

 俺も手伝う。

 シャルロットは現場監督だ。

 生き残りの人数やら、状態なんかを聞いている。

 テントでは女性や子どももいる。

 おそらく鎖かたびらを着ているのが軍人だろう。

 そのあとは大忙し。

 手当てしたり、食料配ったり、テント張ったり。

 すっかり夜に。

 シャルロットを折りたたみ式のラウンジベッドに移して夕飯。

 今回は缶詰があるので鍋で湯煎。

 大量に作る予定だけど、まずはゴードンの兄貴が毒味。

 まずは飴や菓子を出してゴードン兄貴に食わせる。


「……なんといううまさだ!」


 まー、美味しいよねえ。

 科学的統計学的に労働者が反乱を起こさないように調整されてる味だから。

 シャルロットも小動物のように熱心に甘味を食べている。

 無言……あまりにも無言!!!

  するとシャルロットがつぶやいた。


「マコト殿……これは?」


「チョコレートパイにチョコサンドビスケットにコアラのやつと黒い稲妻のやつに……」


「マコト殿の国ではこんな美味しいものを食べているのか!!!」


「え、ええー……兵士の食べ物ですけど……」


 相手は男爵の娘。もっと舌噛みそうな名前のお菓子にすればよかったか!

 いまどき貴族制とか、植民地惑星でも珍しいよな。

 個人所有の惑星かも。

 なんて余計なこと考えているとシャルロットが声を絞り出した。


「凄まじいほど国力のある国家なのだな……」


 ゴードンの兄貴も滝のように汗を流している。

 あ、あたし、なんかしちゃいましたかー!!!


「お兄ちゃん……もしかしてディストピア飯で充分だったんじゃ……」


 それか!

 なんかお通夜状態になってしまったので俺は愛想笑いしてごまかした。

 そして飴玉を出して、お菓子と一緒に他の人たちに配っていく。

 特に子どもはもっと食えーって感じで。

 ほれほれガキども! 頭悪そうな色のグミじゃ!!!


「うわーい!」


 と無理矢理明るい顔をしてくれるのが実につらい。

 家なくした後だもんね……。

 おっし決めたぞ!


「お兄ちゃんなに考えてるのよ?」


 ふふふん、後のお楽しみ。


「お兄ちゃんが次に何をやらかすか嫌な予感しかしねえし……」


 お菓子タイムが終わり、焚火を囲みながらあらためて話を聞く。

 鍋でぐつぐつ缶詰を湯煎しながら。


「重ね重ねお礼のしようもなく……」


 ゴードンの兄貴が青い顔で礼を言ってきた。

 声ちっさ……。


「たまたま出会った人が困っていて、助けるだけの力を持っていた。ただそれだけです。特に下心があるわけではありません。お気になさらずに」


 そう言うとさらにゴードンの兄貴の顔が青くなる。


「お兄ちゃん、普通の人は善意でここまでしてくれないから。それ【今回は貸しだからなオラオラ! あとでケツの毛まで抜くぜぇヒャッハー!!!】って言ってるのと同じ」


 人間って難しいな。

 現地人と仲良くしたいだけなのに。


「それで……ゴードン、これからどうする? わたしは動けるようになり次第、王都に援軍を頼みに行くつもりだ」


「伝令は出しましたが……生きているかどうか……」


「避難はどうなった?」


「女子ども老人が多く……なかなか進軍できませんでした」


 シャルロットは「そうか」と小さくつぶやいた。

 うーん……お通夜状態。

 実際たくさん死んだみたいだからお通夜なんだろうけど。

 お、重い。空気が重い。

 俺は助けを求める視線をその辺で遊んでるガキどもに送る。

 さっきお菓子あげただろ! 助けてくれ!!!

 ……露骨に目をそらされた。


「やーい! 裏切られてやんの! ざーこざーこ! 雑魚お兄ちゃん!!!」


 ぐぬぬぬぬ!

 ガキどもまで空気読みやがって!

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