第8話
夕方まで資材の設置をする。
汚水浄化システムに太陽光発電に井戸にと。
汚水浄化システムはナノマシンとバクテリアの合わせ技。
セレナによるとこの惑星は持ち込んでも大丈夫とのことだ。
最後にネットワークアンテナを設置。
今まで脳内チップで通信をしていたが、衛星との通信時の処理と帯域に余裕ができる。
事務用の14インチ端末も設置。
拡張現実は便利だがこっちの方が作業効率は高い。
ポチポチと画面を見ながら次回の物資輸送の品を選定する。
シャルロット用の食事だ。
ディストピア飯じゃなくてフリーズドライや缶詰を要請。
さすがに他人様にディストピア飯を食わせるのは……なんだか恥ずかしい。
もうちょっといいもの出したくなる。
なお本物ではなく宇宙で培養した食材だ。
そこにタンパク質や各種栄養素を添加する。
さらに培養したフルーツ缶やケーキなどもオーダー。
チョコレートに飴にビスケット。
うん、これで恥ずかしくない。
「見栄っ張り……」
「セレナくん。外交はやり過ぎくらいがちょうどいいんだよ……」
「女の子目当ての見苦しい童貞ムーブ……」
「おっとそれ以上追い詰めるなよ。死ぬからな。童貞のガラスのような心が死ぬからな!!!」
テントを畳み片付ける。
ログハウスの地下倉庫に入れとこうっと。
この拠点さえあればドローンで後から運んでくればいいし。
次にいらなくなったシェルフを片付ける。
バラしてドローンの資材置き場に置く。
ドローンだらけでも結局は人の手による作業が必要なのである。
それが終わったら修行。
工兵の身分に甘んじて長いことやっていなかった。
人食い種族がいるこの世界では必ず必要になるはずだ。
俺はまずは準備運動を始める。
惑星日本の日本人なら誰でもできる運動だ。
最初は適当な崖から飛び降りて5点着地……。
「できねえよ!!!」
は? できるし。日本人なら誰でもできるし!
「人類の強度いきなり超えるなや!!!」
ちょ、おま、惑星日本はないつ何時暴走トラックが突っ込んでくるかわからない場所なんだぞ!
体を鍛えとかないと風呂屋で忍者とスモウレスラーが襲ってきたらどうすんだよ!
「ぜったいねえよバカ!!!」
もーまったく。
AIがうるさいからストレッチでもしよ。
「関節外してリーチを増やすのやめろよ」
それ基本だろ! なんでダメなの!
じゃあいいよ、もう!
自然岩叩いて削るから!
あ、黒鉛みっけ。
握ってダイヤモンドにして遊ぼうっと。
「……え? ちょ、なに言って」
にぎにぎ。
はいできた。ダイヤモンド。
「え……!? ええ!? できてる……ただ圧力加えただけで? え? 熱は? ねえ、物理法則どこ行ったの?」
「惑星日本ではこれができて幼稚園卒業が許される……まあその前に俺は追い出されたわけだが。同級生はさぞ立派なモノノフになったことだろう……」
日本人なら誰でもできる!
惑星日本では近隣住民が暇つぶしで作ったダイヤモンドがそこらじゅうに落ちているのだ。
「たぶんそんな変態お兄ちゃんだけだと思うよ」
メスガキAIから流れるようにチクチク言葉がやってくる。
「だめだこいつ。物理的になんとかしないと……」
物理? なにそれ怖い! ちょっと大人しくしてよ!
その後、無事に大きな岩石を見つけたので手刀や抜き手、足刀で削って遊んだのだ。
午後、アラームが鳴った。
「変態お兄ちゃん。シャルロットちゃんが起きたよ」
「うーっす」
結局あんまり運動できなかったな。太っちゃうじゃん。
事務方のようにブツブツ文句を言いながらログハウスに帰る。
シャルロットがまたぼうっとしていた。
これしかたないんだよね。
腕の再生で大量の栄養素を使ったせいで血糖値が下がってるんだわ。
それで頭がぼうっとする。
だから俺は普通食の栄養バーと水を渡す。
シャルロットは受け取るとむしゃむしゃ食べる。
しばらくすると血糖値が上昇したのか話し始める。
「淑女としてあるまじき姿を……見なかったことにしてくれ」
「怪我人なんだから気にしないで。そうだこれをあげる」
話をごまかそうと思い、さっき作ったダイヤモンドを渡す。
といっても不純物多いし、内部の傷やヒビもある。
なにせ人工ダイヤだ。筋肉製。
価値なんかない。
だけどダイヤを渡すとシャルロットの目が丸くなった。
呆けている。また血糖値下がったか?
「マコト卿……こ、これは?」
「作りました。差し上げます」
「つ、作った!? これを! そんなことが人に可能なのか!!!」
顔が引きつっていらっしゃる!
どん引きされた!
話題を変えねば!
「そうだ。森の中に数百人規模のキャンプを発見しました」
「それはまことか!」
「ええ、合流してもかまいませんか?」
「ああ! もちろんだ! い、いやわたしも行く!」
がぶり寄り。
「あ、はい。その方が話が早いかなと」
「では行こう!」
シャルロットはがばっと立ち上がる。
そのままぐらっとバランスを崩す。
危ない!
「シャルロット。まだ槍で刺されたところが完全に治ってない」
「あ、ああ。すまない。不注意だった」
お互い顔真っ赤。
シャルロットのこと年上だと思ってたけど、もしかして同年代?
雑談のときにでも聞いてみようか。
俺はいつもどおりお姫様抱っこでシャルロットを運んだ。
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