第4話 回復士の魔法と魔王の装飾品


 ひとしきり笑いあった後、魔王さんは思い出したように話しかけてきた。


「そういえば貴様。魂を他のものに移すなど、とんでもない魔法が使えるのだな。我でもそのような魔法を使うことはできんぞ」

「あー、うん。回復魔法は私のとりえだからね」

「だとしても、という気がするが……」

「そういえば、あの勇者たちにも全自動回復の魔法をかけてたんだけどね、理解してもらえなかったよ」

「な、なんだそれは?」

「うん、と……。簡単に言うと、死ななくなる魔法? 斬られても焼かれてもその魔法がかかってるとすぐに復活できるの」


 それを聞いた魔王さんはぬいぐるみの口をあんぐりと開けている。

 ぬいぐるみの外見でそう見えるのかもしれないけど、表情豊かな魔王さんだと思った。


「なん、だと……? そんな反則的な魔法がかかっているなら、あの勇者はあんな騙し討ちなどしなくても我に勝てていただろうに」

「信用されてなかったからね、私。それに『その魔法にかかっていれば死にません』って言われても、じゃあ死んでいいかっていう風には思わないんじゃない?」

「……なるほど。それも道理だ」


 言って、魔王さんはくっくっと笑う。


 あ、そういえば勇者たちにかけた全自動回復の魔法の解除を忘れていた。

 まあ、別にいいかと思い直し、私はそのことをきれいさっぱり忘れ去る。


「しかし、くくく。命を司る魔法か……。反則的すぎるぞ、その力」

「ええー、そうかなぁ? 攻撃を受けたら痛いのには変わりないし、私自身も防御力が高い戦士とかの方が良かったんだけどなぁ。痛いの嫌だし」

「そういうものか?」

「そういうものだよ」


 そもそも私は戦うとか、進んでやりたいとは思わない。


 だからある意味、勇者が追放してくれてせいせいしたくらいだ。

 おまけに魔王さんも救えたことだし、今回の旅も無駄ではなかったと、そう思うことにした。


「ふふ。こうして見ると、魔王さんも可愛い」

「あ、おい待てヤメロ。耳を触るな。というかこの人形、耳が取れかかってるではないか……!」

「大丈夫大丈夫。後で縫ってあげるから。私、裁縫も得意なんだよ」

「そ、そういう問題では……。ぬぉおおおお!」


 魔王さんの抗議も激しかったので、とりあえずモフモフを楽しむのはその辺にしておいた。


「そうだ、魔王さん。あなたの着けてた腕輪とか冠とか、良かったの?」

「ん? ああ。そういえば勇者が持っていったのだったな。我にとっては別に執着するほどのものでもない」

「そうなんだ」

「しかし……」


 私の言葉を聞いて、魔王さんは何やら考え込んでいるようだった。


「魔王さん?」

「ああ、いや。何でもない」


 そう言って、魔王さんは一言付け足した。


「あの装飾品は人間が装備すると身を焦がす呪いを振り撒くのだがな。まあ、そんなことはどうでも良いだろう――」

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