僕と大和撫子の願望

特有の心地よい気怠さに身を沈めながら、僕は行為の余韻を楽しんでいた。

ひまりも僕の腕に頭を乗せて笑みを浮かべたまま僕の顔を観察している。


「ご満足いただけましたか?」


媚びるようにそう問いかけられた。

そりゃ大満足だ。

でも素直に答えるのも癪で、僕はひまりを抱きしめることで返答の代わりにした。


「…………あ」


しばらく無言で抱き合っていると、突然ひまりが切羽詰まったような声を上げる。

何かあったかと確認すると目を見開き涙を流している。


「どうしたひまり?何で泣いてるの?」

「も、申し訳ありません。申し訳ありません……」

「何が悲しいのか僕に教えてくれ」

「わたくしは、ひまりは悪い子です……」

「そんなことないぞ。君は僕のかわいい自慢の『義妹』だ」

「いいえ、わたくしは悪い子なのです。

お兄様は嫌がってらっしゃるのに、わたくしは望んでしまうのです。

愛しいお兄様に傅きたいとしもべになりたいと、そう願ってしまうのです。

服従したい、支配されたい、所有物として扱われたい。そんな気持ちが捨てられないのです。」


さめざめと、泣いている。

もしかしたら。

もしかしたらこの子は生来のサガとしてそういう気質を持ってるのかもしれない。

隷属願望とでもいうのだろうか。


卵が先か鶏が先かという話になるが。

そうしたサガを持っているから前時代的な教育を戸惑わずに受け入れられたのだろう。

そして教育の結果その気質が開花してしまった。

考えてみれば家の教育について話す時も嫌がっている様子がなかった。

不本意な教育を無理やり受けさせられているような、そうした痛みを感じられなかった。


「マジかぁ……」


そういえば我が家に来てからも彼女は僕の言葉を一度も否定していない。

基本的に僕の意思を最優先させる兄至上主義とも言うべき態度だった。

それらの態度を僕は実家の教育の結果と判断していたし、もし行き過ぎているなら注意すべきかと考えていた。

先の土下座にしても正月坂の『作法』に従っているものと考えたから拒絶したのだ。


「ひまり……正月坂家でそう振る舞うように教わったからそうするべきと考えてるんじゃないのか?」


尋ねれば、少し考えて首を振る。


「じゃあひまり自身がそう望んでるのか?」

「わたくしは……わたくしがお兄様に服従することを望んでいます……」


少しばかり困ってしまう。

僕はこの少しだけ変わった気質を持つ少女をどう扱えばいいだろうか。

本音を言えばユキナと同じように扱って一緒に仲良く暮らしていきたい。

だが……彼女はひまりであってユキナではないのだ。

僕の考えでひまりの在り方を否定してしまうのは、なんだかすごくイヤだった。


「うむむ……」


彼女が望むのなら服従させてやればいいじゃないか。

支配して、恭しく奉仕する彼女を愛でればいいじゃないか。

行き過ぎないよう注意してればいいのだ。

一方的にならないよう与えられた分だけ『義妹』として大事にすればいいのだ。

そう考えだせば反論は一つも浮かんでこなくなった。


身体を起こして彼女のことも抱き起す。二人姿勢を正して向かい合う。


「ひまりが望んでいるなら僕は受け入れよう」

「お兄様……」

「でも三つだけ約束して欲しい」

「約束ですか?」

「そう、約束。時と場合を選ぶこと。ちゃんと嫌なことはイヤだっていうこと。それからたまには『義妹』として我儘いうこと」

「ええ、全てお約束しますお兄様」

「うん。じゃあ僕もひまりの願いを受け入れるよ」

「ありがとうございます、お兄様。この身も心もひまりの全てをお兄様に捧げます。愛しいお兄様に服従を」

「じゃあ今日からお前は僕だけのモノだ」


恭しく首を垂れる彼女の頭を撫でながらそう言えば、彼女は淫蕩な笑みを浮かべてブルりと腰を震わせた。

大和撫子な『義妹』は夜だけ僕のドスケベな奴隷になってしまった。


***


朝、目覚めるとひまりと目が合う。

ひまりはベッドに正座して僕の目覚めを待っていた。


「おはようございます」


スッと三つ指ついて頭を下げるひまり。

朝日に照らされる彼女の背中とお尻を見ていると朝から盛りそうになってしまう。

それはいささか問題なので、さっさと部屋から追い出すことにする。


「おはよう……朝の支度をすませておいで」

「はい。失礼しますね、お兄様」


チュッと僕に口づけた彼女はいつもの清楚な表情を浮かべ僕の部屋をあとにした。

ダルい体を起こして僕も身支度をする。

台所ではユキナとひまりが何か話し、二人で喜びを分かち合っていた。

実の姉妹のように仲睦まじい姿に笑みがこぼれる。


「おはよう、二人とも」

「おはよー、お兄ちゃん」

「おはようございます、お兄様」


朝食をすませて学校へ。

ユキナがいつものように僕の腕に絡みつく。

ひまりは僕らの半歩うしろに付き従う。


手を差し出せば、彼女は嬉しそうにはにかんで僕の手をそっと握った。

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