第3話

 義母との遭遇で気持ちがささくれたまま神殿に到着する。

 白いローブを汚さないように馬車からおりると、祈りのために神殿に訪れていた人々がわっと集まってくる。


「ミュリエルちゃん! 結婚したんだってね! おめでとう!」

「これお祝いだよ!」


 みんな祝福を口にしながら、花や食べ物を押し付けてくる。さっきまでのささくれた気持ちはあっという間になくなってしまった。


「みんなありがとう」


 いつの間にかカゴまで用意され、その中に花や食べ物が山盛りになる。神殿の中に入ってもそれは続き、神官達も集まってきてカゴを運んでくれたり、祝ってくれたりする。


 もみくちゃ状態からやっと解放され、仕事にとりかかる。


「ミュリエル様。神殿長がお呼びです」

「え? では今すぐに向かいます」


 祈りのために移動していると、神官が走って来た。意外に思いながら神官に先導されて部屋へ向かう。


「聞いた? 聖女様結婚したんだって~」

「婚約者の公爵家のご令息とだよね? いいなぁ、玉の輿」

「もともと聖女様って伯爵家のご令嬢でしょ? 玉の輿だけど伯爵家から公爵家に嫁入りってないことはないでしょ。そりゃあ珍しいけどさ」


 途中で女性たちの会話が聞こえる。立ち止まると先導していた神官が困ったような顔をした。


「ちょっと聞くだけよ」

「あのような下働きの娘たちのお喋りを聞かなくても……」


 壁に隠れながら人差し指を口に当てて神官に静かにするよう合図をする。壁の向こうでは神殿の下働きの女の子たちが、掃除の手を止めずにおしゃべりに興じている。


「私、お祝いに頑張って刺繍したハンカチ持ってきちゃった! ミュリエル様受け取ってくれるかなぁ?」

「たくさんお祝いもらってるみたいだから、あんたの刺繍したハンカチなんて相手にされないわよ」

「えー、そんなぁ」

「そんな意地悪言ってないで。ミュリエル様なら受け取ってくれるよ」


 きゃあきゃあと迷惑になりそうな声量だが、浮かれた様子が伝わってくる。その様子に思わずミュリエルは笑みを浮かべて立ち去ろうとした。


「何で他人の結婚にそんな浮かれてんの。大して治癒魔法も使わないのにセージョ様、セージョ様ってバッカみたい」


 浮かれた空気に水を差す、冷たい声が壁の向こうから発せられる。ミュリエルもさすがに歩み去ろうとした足を止めた。

 あの声は下働きのノンナだろうか。あれだけ賑やかだった少女達が一瞬シンと静まる。


「聖女様なのは本当のことでしょ。治癒魔法が使えるんだから。それに私達にも良くしてくれるんだからそういう人の結婚を喜ぶのは当たり前だよ」

「あの人がやってるのは人気取りの偽善でしょ? いっつもニコニコヘラヘラしてるんだから」

「ノンナ、自分が結婚できてないからって僻むのは良くないよ」

「そうだよ! そんな悪口言ってたら不幸になっちゃうよ! すっごく困った時に治癒魔法は必要なんだよ!」

「はぁ? あんた達がセージョ様って崇めるのがおかしいでしょ! それに私だってもうすぐ結婚するんだから僻んでるわけないでしょうが!」


 下働きの一人、ノンナの発言によって少女達は言い争いを始めてしまった。まぁいつものことだ。私はなぜかノンナに毛嫌いされている。

 神官が注意しようと出て行くのを止めて、ミュリエルは壁の向こうに声をかけた。

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