ダイサクセン



 七月二十四日。

 ホッカイドウトマコマイの船着き場。

 そこには数十名の貞操管理者が、昨晩センダイ港を発ったフェリーの到着を今か今かと待ち構えていた。

 数年振りに男性維持禁止法を破った指名手配童貞が出現してから、もう三日が経過している。

 それにも関わらずいまだ逃亡を続ける童貞の身柄を確保できていないのは、SeIReのプライドからしても由々しき事態であった。

 しかし昨晩SeIReの中でもける伝説であるR.M.1から逃走中の童貞、大塚セイジをセンダイで発見したのと報告があった。

 彼女の報告によると、ホッカイドウトマコマイ行きのフェリーに乗り込んだらしい。

 上層部経由で大塚セイジの童貞奪取に割り当てられた貞操管理者全員に伝えられた情報によれば、大塚セイジは他に金髪の女性とピンクの髪をした少女と行動を共にしているとのことだ。

 ただしもはや逃亡劇もここまであろう。

 たしかに大塚セイジはこれまで相手にしてきた歴代の童貞の中でも三本の指の入る手強さであった。

 だがさすがに数十名の貞操管理者を一度に相手して逃げ切れるとは到底思えない。


 ——ブオオオーーーン。


 ふいに快晴の空に高らかに鳴り響く汽笛。

 見てみれば遥々ホンシュウからやって来たのであろうフェリーが、見る見るうちに大きさを増していた。

 汽笛を鳴らしてから数分後、トマコマイの港にフェリーは無事到着し、ぞくぞくと客が降りてくる。

 その様子に若干離れた場所から数十名の貞操管理者が目を光らせて、件の童貞が現れる瞬間を待ち構えていた。


 ——来た。


 やがて一番最後になったところで大塚セイジとその一行と見られる三人組が姿を現した。

 つば付きのキャップを深く被った黒髪の少年、バカンス気分なのか麦わら帽子を被ったやけに胸の大きな金髪の女性、前の二人に比べて小柄なピンク髪の少女だ。

 間違いなく黒髪のキャップの少年が大塚セイジであろう。

 待機していた貞操管理者たちが一斉に動き出す。

 全国選りすぐりのフィジカルエリートである彼女たちの脚力は、並みの一般男性では勝負にならない。

 一直線に向かってくる貞操管理者たちに大塚セイジも気づいたのか、慌てたように踵を返しフェリーの中へ戻っていった。

 一方シャツがはち切れそうなほど胸の大きい金髪の女性とピンク頭の少女は、道路の方へ逃げていった。


 二手に分かれた捕獲対象。

 しかしどちらを優先するのかは明白だ。


 ほとんどの貞操管理者たちがそのまま大塚セイジを追って、フェリーの中に駆け込んでいった。

 ゴーストシップのように誰もいないデッキ内部を走り抜けていく大塚セイジ。

 ただしその華奢な背中はすでに、貞操管理者たちに捕捉されている。

 さすがSeIReの童貞史に名を残すレベルの男というべきか、意外な走力を見せ、カモメが宙を舞う屋外ラウンジを一周し、再びデッキ内部に戻るなど、中々捕まらない。

 しかし、それも悪あがきにしか過ぎない。

 貞操管理者の女たちもやみくもに追いかけるだけではなく、三手ほどに分かれて逃走ルートを巧妙に潰している。

 段々と速度を落としている大塚セイジとは違い、元々の素質に加え鍛えられた彼女たちの走るスピードは走り出した当初と全く変化してない。

 みるみるうちに縮まっていく距離。

 一番大塚セイジに近づいている貞操管理者の女が手を伸ばす。

 そしてついに、その手が届く。

 細骨の腕を掴み、そのまま抱き付くような形で地面に説き伏せる。

 三日間もの間SeIReをあざわらうかのように逃げ続けた世紀の大童貞を、とうとう捕まえたのだ。

 達成感に包まれながら、貞操管理者の女は大塚セイジの深く被られたキャップをはぎ取る——、



「残念、だったな」



 ——が帽子をはぎ取り、諦観に沈んでいるはずの大塚セイジの顔は、むしろ満ち足りたような微笑みを携えていた。


「名付けてアメフラシ大作戦。知ってたか? アメフラシは雌雄同体なんだ。“あたし”の勝ちだよ」


 満足そうに口角を上げるその顔は、少年というよりは中性的な少女然としたもの。

 まさか。

 貞操管理者の女は慣れた手つきで大塚セイジの上着を全て脱がす。

 すると出てきたのはくびれのある白い肌と、胸元に何重にもまかれたサラシ。

 苛立たし気にサラシを取ると、ブロン! と推定Bカップの、形が良くサーモンピンクの乳輪をした乳房が飛びだしてきた。


 ヤられた。


 やっとの思いで捕まえた黒い髪の少年は大塚セイジではなく、そもそも少年ですらなかった。


「……ちょっ……あっ……んンっ……なにすんだよぉ……やぁンっ……や、やめろって……アァンっ!」


 められたことに気づいた貞操管理者の女は、ぶつけようのない憤りを目の前の大塚セイジの振りをした女にぶつけることにする。


「んんっ……ま、まじでむりンっ! ……はぁ……はぁ……頼むからやめてぇイヤンッ!」


 おそらくこの黒髪はフェリーの中で染色したのだろう。

 逆に本物の大塚セイジは髪を脱色した。

 先に情報が洩れ、先回りされているであろうことを逆に利用されたのだ。

 なんと姑息な童貞であろう。


「あっ、あっ、アアンっ! ……ちょっ、ちょっとほんとに一瞬だけタンマ! このままだとあたしまじでイ……ハアアアンっっ! ……ハァ……ハァ……やばい、ほんとにやばいからアアアンッッ!!!」


 乳首をコリコリと摘まんだり離したり、時折り乳房と脇下の境界線にあるスペンス乳腺を刺激しながら、貞操管理者の女は丁寧に愛撫してやる。

 中々感度の良い女だ。

 こんなに感じやすい女もあまりいない。

 腹いせに胸を弄り回していた女の周りには、気づけば他の貞操管理者も集まって来ていて、特に何も言わずとも状況を把握して、さらに空気を呼んでこの偽大塚セイジの愛撫に続々と加わっていった。


「はぁ……はぁ……はぁ!? な、なんで、他の奴らまでンンっ! ……だ、だめ、まじでそこはダメだからアアアンッ! ちょ、本気でヤバい、本当にイっちゃいそうだからも勘弁してええああンっ!」


 一人が乳首の先端をちろちろと絶妙な舌さばきで舐めれば、もう一人が首筋を絵具を塗るように舐め回す。

 さらにもう一人乳首周辺の房をほぐすように指圧すれば、甘ったるい吐息が加速度的に浅くなった。


 SeIReに逆らうとどうなるか。

 同性に乳弄りだけでイかされるのがどんな感覚なのか教えてやろう。


 貞操管理者の女はとどめとばかりに、乳のGスポットとも呼ばれるスペンス乳腺を強烈に擦り上げた。



「あっ、あっ、もうむり、もうムリ、アッ、ああああああああんんんんんンンンっイっちゃううううウウウンンンッッッッッ!!!!!!」



 ビクゥゥゥン! ビクゥゥゥン! 絶叫と共にと臍の下辺りを激しく痙攣させると、そのままその黒髪の女は失神してしまう。

 しかし大塚セイジがこの窮地を乗り切った代償は小さくない。

 金髪の少年といったら、これまで以上に目立ってしまう。

 距離的にもこの付近にいることはたしかだ。


 今日中には捕まえられる。


 き果てた女のピン立ちした乳首を最後に指で軽く弾くと、すっと貞操管理者は立ち上がって再び大塚セイジを追うためにその場を後にするのだった。




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