第十二話 倫理よ、このスピードについてこれるかな
渾身の右ストレートの音が周辺に響く少し前、拳の着地点たる一成は団子屋で団子も食べずに倒した少女の服の中から色々物色していた。
「...こ、これは!?」
「な、なんかあったんですかい?」
仕事をほっぽり出して後を追ってきた客引きの男は何かを見つけた反応を示した一成に尋ねる。
「いやな...、下着の中漁ってたらこれが出てきたんだ。」
「アンタ、本当に容赦ねぇな...。」
一成の本格的なセクハラ行為に客引きの男はあきれ果てる。しかし一成は、そんな様子をフルでシカトし、少女から取り出した紙を見て状況を整理する。
「メモ書きか何かか?こんなはしたないところに入れてたんだ。よほど大事なもんなんだろな。」
「...そうですか、それにはなんて書いてあるんですかい?」
二つ折りにされた紙を開き、二人は内容を確認すると、そこには六つの人名が一列に並び、隣には二桁の数字が三つずつ書いてある。よく見ると人名の左隣にはアルファベットが書いてある。
「...なんですかい?これは...?」
皆目見当のつかないと言わんばかりに客引きの男は顔を歪める。
「ンー、上からA査礼、D史道、C楚良、F椎菜、E区亡、E鬼姫陽...。ねえ。」
「何かを表す表記ですかね?だとするとこの一番上の査礼ってのが一番高い...、要注意人物とかなんじゃないですかね?だとして隣のそれぞれ三つずつ書かれてる二桁は...?駄目です、こういうの俺はてんでダメで...。...ちっとは頭の出来がよけりゃもっとまともに生きてこられたんですけどね...。こんなんだから俺は顎で使われるだけのしょうもない人間に...、いや、すんません。こんなしみったれた話してもしょうがねぇですよね...。あーあ、もっとうまく生きられたらなぁ。...どうしたんですかいそんなに黙りこくったりして...、あ、もしかして俺の生い立ちとかぁ、気になります?いいですよ...、そんなに人にペラペラと話すようなモンでもねえんですけどねぇ...、あれは俺がまだようsy」
「黙れ」
「っあ、はいすいません。」
どこの誰かも分からないような客引きの男が回想に入ろうとしていたので黙らせる。
「...そんで、分かったんですかい?この暗号。」
「ンー、それぞれにある名前の隣の三つの二桁の数字の内の最初の数字と名前の左隣のアルファベットを女性のカップ数と見立てると全て一致することに何か関係が...?」
「...、」
一瞬の静寂が流れ、客引きが遅れて反応を見せる。
「...ってえぇ!?確かに!?ってかそうなん!?っていうかなんでカップ数なんて知ってんの!?キモい!!キモ過ぎる!?」
「うるっせぇな。耳元で大声出すなよな。ったく、んでおそらく一番上のAの査礼?とかいうのは多分コイツだな。見ればわかるAカップだコイツは。自分の情報を一番上に書くのは自然だしな。」
「失礼すぎる!?」
一成はキモがる客引きの声を無視し、見据えた見解をツラツラと話していく。
「...そうですかい。ってことは他の名前はこの子の同業者…?しかしなんでこんなメモを...?」
「わざわざ動きにくい着物着てまで仕事してるのとかを見るに、胸に対するコンプレックスが人一倍凄いんだろ。貧乳に着物は似合うっていうし。まぁこんなツルペタじゃあな。それによく見ると他の奴のアルファベットや左端の二桁の数字が何度も消された痕跡が残ってる。自分のが育たない中で、仲間の方はすくすくと成長を遂げていたんだろうなぁ可哀そうに...。」
「こんなことをしてるだなんて本人が絶対に人には知られたくないようなプライバシーをこんなに赤裸々に暴いといて可哀そうなんて言葉が出るのは流石っすね...。でも、こんな情報、何の役に立つんですか?」
客引きの男は呆れながら質問する。確かにこの少女とその同業者達のスリーサイズを知ったところでなんのプラスにもならない。名前と同業者の存在と数を知れたのは長い目で見れば大きいかもしれないが、今すぐに役に立ちそうな情報ではないだろう。
「そうだな...、これだけじゃ進歩っちゃ進歩だがまだ遠い。同業者がいて、コイツが一人ってことは遠隔での連携の際に使うモンがとかあるんじゃねぇの?それを見つけりゃ新しい情報に直行できるんじゃねえかな。何か他に役立つモンは...、」
そう言いながら何かを思いついた一成は倒れている少女に目を向ける。
「...上の方の下着を漁って、ついやり切った気持ちになっていたが...。まだ、見てないところが、あったな...。」
意味深に少女のある部分をみつめる一成に、客引きは察してしまう。
「...なぁアンちゃん。俺はまともに考えられる脳がねぇダメな奴だよ。こんなんだから今までたくさん損してきたよ。...でもよアンちゃん、ダメな奴ってのはよぉ、アンタも同じことだよな?ダメな奴には同じダメな奴の考えることなんてのは嫌でも分かっちまうモンなのさ。...アンちゃん、それに手を染めちまったらアンタは、本当に救いようのない駄目な奴になっちまう。悪いことは言わねぇ。ここで踏みとどまっておくんだ...。」
再びこの場を静寂が支配する。しかし今度の静寂は先程の静寂とは物が違い、下手をしたら押しつぶされてしまうような、ひどく重たいものだった。
そんな重たい静寂を破ったのは、他でもない一成だった。
「...それでも...、俺には守らなけりゃならねぇもんがあるんだよ。」
「...アンタをそこまで突き動かすものは何なんだよ...?」
そして答える。
「...野次馬根性...、いや、野次馬魂だ。」
「...タダの性欲だろ...。」
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