第九話 野次馬根性

 目的を済ませ質屋から出た一成は、町中がなんだか騒がしいことに気が付く。


 「おい、そこのアンちゃん!ちょっと寄ってかねぇかい?遊女しなぞろいは保障するぜぇ。」


 どうやら客引きに声をかけられたようだ。見る目のない奴だ。


 このご時世男のヒューマンにそんな甲斐性があるとでも思ってんのか?


 「馬鹿かお前。こんな真昼間から盛ってる奴なんざそうそういねぇぞ。」


 そう言い返してやると、客引きは胸を張って意義を唱える。


 「そうかい?俺は美女を前にしちゃ、昼も夜も関係なく盛れるけどなぁ。うちの店には、そんな昼でも夜でも関係なくなっちまうような上物がそろってんぜアンちゃん。一発どうだい?」


 「ホントかお前!?俺が昼でも盛れるなんて言ったらお前、相当なモンじゃねぇとなんだぞ!?並大抵の凹凸じゃぁうんともすんとも言わねぇんだぞコイツは!!それぐらい面倒臭い奴なんだぞコイツは!!」


 と、息子の詳細を主張してやると、客引きは一瞬面倒くさそうな目で息子に目をやった後、客引きの姿勢に戻り交渉する。


 「えぇ。ちょっと値は弾みますが、絶対に満足していただけるかと。」


 「は?金取んのかよ。そりゃねえよ、あんまりだよ。」


 わかりやすくテンションが落ちていく。


 「いやタダなわけねぇだろ!!。つーかアンタ金払うつもりねぇのにあんなに要求してきたのかよ!?どんだけ図々しいんだよ!?」


 「つーかよ。そもそもこのご時世にヒューマンに客引きするか普通?職に飢えてるような奴しかいねぇんだろ?そんな奴らが女遊びにかまける余裕なんてねぇだろ?見る目ねぇなぁお前。」


 「...いや、でもそれ...。」


 そう言うと客引きは俺の腰に携えてある二本の刀を指さす。


 「それ、見るからに上物なんじゃねぇですかい?そりゃ俺だってタダのヒューマンを客引きの対象として見ることはありませんがねぇ、そんなもん持ってんなら、他の奴とはちげぇんじゃと思いましてね。」


 そして客引きはさらに言葉を続けていく。


 「この遊郭まちは、ここら一帯をおさめてらっしゃる『スレイヤー』様の趣味かなんかで、あっちの世界の日本という国の昔の姿を模倣してらっしゃるとか。その時代にいた侍とかいう人達はみんなアンタみたいに腰に剣をこしらえてたんだそうで。この遊郭の雰囲気を気に入る人々は、模造刀を常備するんですよ。この遊郭に合わせたファッションです。」


 なるほど。どうやらこの客引きは俺の刀から俺を富裕層だと判断したらしい。だが、俺がこんな格好で、高校の夏服でいることは完全にスルーされている。コイツにはコイツで必死なんだろう。


 「んなことよりよオッサン。昨日に比べてなんだか遊郭全体が騒がしくねぇか?いったい何があったんだ?」


 そう、俺ははなからこれを聞くためにわざわざ客引きに耳を貸してやったんだ。断じて昼間でも盛れるたちだからではない。決してだ。


 「あぁ、それなら多分『浪女狩ろうじょがり』ってやつがまた起こったらしいですぜ。ここ最近の遊郭はこの話題で持ちきりだ。なにやらあっちの世界から来た遊女達を狙った連続殺人なんだと。それもまぁまぁ高い位の連中ばかりを狙った殺人だ。こりゃぁなんか裏がありそうだよなぁ。」


 浪女狩りか。なにやらきな臭いことになってんなこの町も。


 「一番新しい殺人はどこで起こったんだ?」


 そう聞くと客引きの男は微かな記憶を頼りに一成の進行していた方向とは逆の方に指をさす。


 「この本通りをまっすぐ行けば着くはずだ。」


 「了解。ありがとな。」


 礼を言いその場を去ろうとすると客引きの男は一成を制止する。


 「いやアンちゃん。こりゃただ事じゃねぇ。悪いことは言わねぇから首は突っ込まねぇ方がいい。この手の事件がここまで野放しにされるなんてことこの町じゃ異例なんだ。ぜってぇ何か裏がある。わかんねぇけど俺の感そう言ってんだ。」


 男の制止を引きはがし去り際に吐き出す。


 「そんなもん犬にでも食わせておけばいいさ。いや...、今のところ首を突っ込む気はねぇんだ。ただ表に出せねぇようなことが起こるのなら、それで確実に大損こく奴が出てくる。ちょっとソイツの顔見てくるだけだ。気分がよけりゃ、ヒーローになっちまうかもな。」


 そういうと男は最後に一つと言わんばかりに聞いてくる。


 「...そんな顔も名前も知らねぇような奴を...。アンタの何がそうまでして突き動かしているんですかい?」


 そして答える


 「ただの野次馬根性...、いや、野次馬魂だ。」




















































「......いや。カッコつけてるとこわりぃけど、全然恰好ついてねぇぞ...。」


 


 


 


 

 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る