第八話 面倒事と面倒事が交差する時、本当にめんどくさい
騒がしかった本通りを抜けた右京は、持ち家に通ずる路地を通っていた。
ようやく気持ちを切り替えられたというのに、この
それに、散茶の位の遊女をねらった連続殺人なんて、標的にがっつり自分も入ってしまっている。
何か手を打たなければ。
あの感じだと、役人は犯人の尻尾もつかめていない様子だ。
あてにはできないだろう。
そうなると、人脈を広げて、守ってもらう他ない。
どのみち他力本願な方法でしか、身を守る術がない。
あの青年は...、私から10万たかったやつだ。期待できそうもない。
あの青年の言葉で変わることができたわけが、あの青年に何かできるとは思えない。
というか、あの青年は全体的に胡散臭すぎるのだ。口ぶりから察するに二年前の戦争にはどういう形かは不明だが確実に参加していたのだ。
戦争に参加するためにこっちの世界に来た者はみな、終戦後帰る手段を無くした。
戦争のために潜ってきた二つの世界を繋ぐゲートを閉ざされたからだ。
現在は不均等な貿易のため、用いられてはいるが人間の出入りは基本的には禁止されている。
大金をはたけば通ることができるのだが、異邦人がこの世界で生きるのは至難であり、ゲートを潜るのにかける金銭の余裕などないのだ。
終戦して二年。
果たして彼はどのように生き延びてきたのだろうか。
考えれば考えるほど謎が深まっていく。
つまりどういうことかというと、10万は痛い。
マジでふざけんなよあの野郎。
そうこう考えている内に持ち家の前に着く。
今日は色々あった。早く身体を休めたい。
そう思いドアに手をかけた瞬間に、人の気配を後方に感じ取る。見なくてもわかる、嫌な気配だ。
知り合いであることを祈りながら恐る恐る振り返ると、そこにいたのは、自分より一回りも二回りも大きな男だった。
全身黒ずくめで、腰には刀を備えている。険しい表情の仮面をして顔が見えないようになっているが、仮面越しに見える瞳孔は開いており、今にも襲い掛からんとしそうなのが伝わってくる。
これは不味い。完全に斬られるやつだ。
まさか、まともな情報を得てから直近で被害に遭うとは思いもしなかった。
「......す...。」
聞き取れなかったが、ぼそぼそと何かを呟いている。
す...?...いや...絶対『殺す』の『す』の部分だろこれ...。
本当に不味い。ここで逃げなきゃ殺される。
そう思いすぐに背を向けその場から逃げ出す。家急いで家に入って立てこもり助けを待つのも考えたが、あの手の輩はそんなことお構いなしに強引にこじ開けるなりぶっ壊すなりしてくるだろう。
そんなことをされては、私の住んでいる木造のぼろ屋などいともたやすく見る影をなくし、突破されるだろう。
となれば逃げるしかない。
不幸にもここ周辺は人目がないため、人目がつく本通りまで行くしかない。
が、そんな策もはかなく散る。
逃げ出して十秒も経たないうちに捕まり、地面におもいきり叩きつけられる。
叩きつけられた衝撃から身動きどころか、息すらできなくなる。
そして鞘から数多の浪女達を斬りつけてきたであろう刀身をむき出す。
そして刀を振り上げた。
...終わった。結局私の人生は、使いつぶされるだけ使いつぶされ、壁のシミすらも残せぬまま終了する。
人生の終わる瞬間に私の脳裏をよぎるのは、あの青年の顔だった。
なんでアイツの顔が...?...あぁ...そういえば10万もの大金を貸したんだった。
はぁ。10万ももらったんならせめてその大金に見合うような働きを示してほしかったものだわ。
そして目を閉じる瞬間
一つの影が落ちてくる
その影は私を拘束していた男に一直線に向かっていき、音にも勝る瞬速で男の首を飛ばした。
視界がぼんやりしている。
...ぼやけた輪郭を凝視し、ある結論にたどり着く。
「...いっ...せ......い...?」
「...フッ、ビンゴだ。」
張りつめていた緊張から解放された右京の意識がフェードアウトする。
安堵の海につかり、波乱の海に溺れていくのであった。
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