第六話 裏方屋

 遊郭全体を日の光が差し始めた頃、屯所での交渉を終え、アジトに戻った鬼姫陽ききようは先程の余裕とは一変こめかみに青筋を立てていた。


 「いやいや!!でも実際意味ないよね!!二度手間だよね!?」


 「おい...。」


 「そう思うんならお前だけどっちか片方だけやってりゃいいんじゃないの?」


 「ちょっ...、聞けって。」


 「そうですね。楚良そらはそうやって一生礼儀の欠いたサルとして周りから後ろ指刺され続ける人生を送ればいいのです。」


 「いや、だから...。」


 「ねぇちょっと...。このぷりんとかいうあっちの世界産のふるーつ...。前々から定評を聞いてはいたけど、まさかここまで私の味覚常識を超えてきやがるとは。」


 「......。」


 「鬼姫陽さん、今回の任務とはいったいどのような...」


 「だから聞けっつってんだろぉぉぉぉぉぉがぁぁぁぁっぁぁああああ!!」


 ガッシャァァァァァン!!という卓上にあった物全ての発する音が混じりあった騒音が部屋中に響き、全員がしゃべるのをやめ、その音を出した張本人の方に顔を向ける。


 ついに堪忍袋の緒の切れた鬼姫陽は6人で囲っていた円卓をひっくりがえしたのだ。


 「なんべん同じこと言わせんだっ!それでもテメェら玄人か!?上司が仕事持ってきたっつってんだから黙って聞くぐれぇの気構えになれねぇのか!!」


 綺麗な顔立ちからは想像できないくらいのとんでもない形相になっている。しかし肝心のキレさせた張本人達は、なんか怒ってるしそろそろ黙っとくか的な感じで全然反省の色を示さないでいる。


 この一見アットホームな裏方屋では日々このような協調性のないメンバーに対し鬼姫陽が雷を落としているのだが、表沙汰にはできないような修羅場を潜り抜けてきたメンバー達にしていみれば何ら大したことはないらしい。


 一通りキレ散らかして満足した鬼姫陽は平常に戻り仕事の説明を始めていく。


 「なるほどねぇ、要するに今回の任務はソイツを始末すればいいって訳ね。」


 この裏方屋において実質的なリーダーであり、優美な雰囲気を漂わす区亡くないが話を纏める。


 「そういうこと、まだ私の推測にすぎないが、のばなしにすると今後この遊郭がこっちの世界において頭一つ抜けた力を保持することになっちまうかもしれないからねぇ。その危惧が私達本命。」


 「なぁんだ簡単じゃん。二年も獄中生活を送っててついこの間脱獄したんでしょ?ならそもそも相当弱ってるし、余裕っしょ?」


 話が分かるや否や、余裕綽々に答えるのはこの裏方屋においてムードメーカー的な立ち位置にいるブロンドヘアの小人族の少女で、先程まで『いただきます』と『ごちそうさま』はどちらか片方でいいのではないか議論を勃発させていた楚良であった。


 「それにしてもあいつらも堕ちたなぁ。今まで頑なに悪事に手を染めてこなかった癖して、『スレイヤー』を前に流石に我が身が可愛くなっちまったか?」


 「そうですね。ですがようやく頭の固い連中が賢明な生き方を学んでくれたようで、こうなれば私達も少しは動きやすくなるのでは?」


 スポーティな風貌をする狗科いぬかの獣人の少女、史道しどうと上品なしゃべり方のわりになかなか棘のあるエルフの少女、査礼されいはここ周辺を取り締まる屯所の連中を蔑む。


 「今回は殺しが任務だ。.....それで、配役だが...。」


 「私にやらせろ。」


 血の気の多いメンバーの中、いの一番に声を上げたのは他の誰でもないこのグループの実質的なリーダーである区亡であった。


 「ほう...。お前自ら出張るか...。」


 「あぁ。他じゃ役不足だ。何しろ二年前の戦争を最前線で暴れていた奴だ。魔法とかいうあっちの世界じゃ理解不能なもんが飛び交う中、刀だけで生き残ったってんだからな。噂によりゃ、敵陣をあと一歩のところまで追い詰めやがったと。私が適正だ。」


 そして続けざまに他のメンバーを配役する。


 「今回テメェらは、私のサポートだ。しゃしゃり出てくるんじゃねぇぞ。この上物は私のだ。」


 反論の余地なく決まった。他のメンバーは口を出そうにも、こうなった区亡は何を言っても無駄だと悟り押し黙る。


 「...それじゃぁ配役が決まったことだし、さっそく行動に移るか。」













































「...あれ?みんな私のこと忘れてないですか?...まぁ不遇な扱いには慣れっこですけどねぇ...。」


 と、呟くのは、裏方屋の中でもひと際影の薄いヒューマン、椎菜しいなであった。


 


 


 

 

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