第二話 ぷれいでありんす

 気づいた時には、勝手に体が動いていた。






















 「っぶぼぁっっっっっっ!?」


 

 ......やっべ。


 気づいたら、体が動いてしまっていた...。


 っていうかぶん殴ってしまっていた。

 

 急激に体温が下がるのがわかり、急いで青年に駆け寄ろうとする


 「もっ 申し訳な......」


 いやちょっと待て...


 コイツ、今私になんて言った...?


 粗相を起こし、急激に冷めた腸かなにかが再び煮えくりかえる感覚を感じる。


 こっちがセンチメンタルに浸ってしくしくやってるときにこの野郎なんて言ってきやがった?


 非常な現実に打ちひしがれて感傷的になってんだからちょっとは空気読めよ。


 てか、マジでコイツ今なんて言った?

 

 私の耳が正しいのなら生r......殺す...。


 悶絶するデリカシーが欠片もない青年を馬鹿らしいやら恥ずかしいやらの感情で顔を真っ赤にし睨みつけていると、騒ぎを聞きつけた一人の中年が歩いてくる。


 「なにやら騒がしいが、何事だ?」


 上がりかけた体温がさらに体が冷えていくのは感じる。


 通りすがった青年をぶん殴ったなんてことがバれでもしたら、今まで積み上げてきたものどころか、職まで失いかねない。


 こんな水商売でも私を食いつないでいくためには必要不可欠であり、この職を失えば私は完全に終わってしまう。


 なんとしてでもこの局面を乗り切らなければならない。  


「......この青年はなぜ倒れているんだ?まさかお前がぶん殴っt」


 「いいえ、このお方が具合が悪いとおっしゃってい「聞いてくださいよ。この女今俺のことぶん殴っ「今度のお客様はこちらの方になりましてぇ~。それでは旦那、いきんしょう~」


 唸りながら再び口を開いた中年の言葉に今適当に考えた言い訳をかぶせると、それにかぶせて青年がチクろうとしてきたのでさらにまた今考えた適当な言い訳でかぶせてもみ消した


 私の発言に一貫性が無くなっている気がしたがそんなことはどうでもいい。


 「いやでも、旦那の右頬とんでもないことになって...」


 「ぷれいでありんす。」  


 その瞬間、その場にいたすべての人間が凍り付いたのを感じた。


 それもそうだ。間髪入れないどころか、言いだそうとしたことすら食い気味に遮って出たセリフがこれだ。


 上級者向けのことをやってますと宣言してしまった。


 ...マジでどうしよう。


 と、この場の打開策を考じていると、少しの間フリーズしていた中年が何テンポも遅れて驚きだす。


 「ぷ、ぷれい......!?......そうか...。ならこれ以上何も言わんが、いくら遊郭とはいえここは公共の場だ。少しは慎みを覚えろ。」


 と、言うとその場を立ち去っていく。というか逃げていった。ここにいれば自分もその一員だと思われてしまうと考えたのだろうか。


 ...完全に引かれてしまった。


 今後そういうぷれいをしてる奴っていう目で見られていくことが確定した。


 今までにない程の羞恥心がこみ上げてくる。


 しかし、クビになるよりかはまぁマシだろう。


 かなり危なかった。とはいえ、軽い騒ぎになり人だかりができてしまっておりこれ以上ここに留まり人目に晒されるのは得策ではないと、涙目になって右頬を抑えている青年を連れ、急いでこの場を立ち去った。

 


 


 


 

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