一章 遊郭

第一話 胃にもたれるぐらい重い独白的な出会い的な

 「ありがとうござりんした。」


 固めた笑顔で会釈する。


 溜まっていた性欲を発散し、満足した客が帰っていった。


 もう何日目か、何度目か分からない。


 あっちの世界が戦争で負けてから、私の景色から色がなくなった。


 そして私は自分形成する大部分の物を捨てた。


 人権も、尊厳も、貞操も、プライドも、感情も、捨てて捨てられ、生き続けていられている。

 

 しかし、私なんてまだマシな方だ。


 あの世界共同規模の戦争に意味も意義も分からず駆り出された男たちは、戦死し、その死に意味も意義も見出されていない。


 本当に散々な話だ。


 だが、生きていればなんとかなる、私は未だにそんな淡すぎる希望にすがっている節があるようだ。


 本当に哀れな話だ。


 こんな私を救い出してくれるような人が現れないだろうか。おとぎ話のように。


 だが、白馬の王子なんていうのは誰の前にでも現れてくれるような存在ではない。


 そんなにありふれる存在ならば、こうして語り継がれるまでにはならない、ただの日常になるからだ。


 「お客様はお帰りになったのか?」


 不意に背中に聞き慣れた声が刺さった。


 振り向くと案の定、小太りの男が立っていた。


 「はい。先程行為が終了し、お帰りになりました。」


 固めていた表情を無くし、応答する。


 「そうか。ふん、相変わらず不愛想な奴だな。お前なんかの何がそんなにいいのやら。まぁ、金になるのなら使いつぶすまでだがな。時間的にあと一人くらいは余裕だろ?ぼーっとしてないで表に出て客を引け。」


 言われるがまま、外に向けて足を動かす。


 今更怒りの感情なんて湧いては来ない。


 夢を願う自分に現実を言い聞かせ、黙らせ、押し殺してきた結果だろう。


 前の自分だったら、どのくらい感情が湧き上がったのだろう。


 どれくらい激昂できただろう。


 今の私にはもう、前を向く力はない。


 決して手の届かない天から細い糸が垂らされるのを待つことしかできないのだ。       


 上から吊り上げられるのを待つことしかできないのだ。


 表に出ると、街並みは相変わらず盛っている。


 そんな中を、いつものように歩き出す。


 前の見えない道の中、自分が何処へ進んでいるのかも分らぬまま、身売りを続けていく。


 いつか一筋の希望にばったり巡りあうことを信じて。


 語り継がれ続けている美談はだいたい、颯爽と駆け付けた王子様やヒーローが、姫やらヒロインやらを善意で救い出すような話だ。


 しかし、救い出される姫やらヒロインやらの席に普通の人間が座ることはできない。


 ましてやこんな、生き続けるために手段を選ばなかった薄汚れた遊女なんかに、興味は示されない。


 ましてやこんな、感情を殺し、生きるとこに手を抜いているような奴なんかに、同情なんて湧かないだろう。


 ましてやこんな、これ以上の変化に怯えて現状に甘んじるような、変わろうとすることのできないような女なんかに、さし伸ばされる手なんてあるわけ























「いてっ。悪かったな、大丈夫か?てか、前見て歩かないと危ないぞ?」


 

 

 どこか気だるげだが、確かに芯の通った瞳が私を捉えた。


























「ってかお前、なんか顔死んでない?......ぁあ、分かったぞ、そりゃあれだ、いわゆる生r...」


 だが、一言も二言も多かった。



 


 


 


 


 


 


 


 


 

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