第37話 千堂香織の章 その12

─水曜日

起きたら、まだ顔が熱かった。


 あの告白から二日が経った。

 昨日は沙絵ちゃんに会長からの告白について相談してしまうなんて事をしてしまった。あの時の私はどうかしていた。あの時の私の顔の表情がなくなるまでどうにかしたい。そんな事を思うくらい、本当に私はどうかしていた。


 そして、月曜日のあの時は会長がやる気だったので、昨日は何かあるんじゃないかと思っていたけど、特に何もなかった。何もなかったのは良いことのはずなのに、少し残念に思っている私がいて、その事が嫌だった。


「顔、赤いわよ。風邪なんじゃないの?」


 ご飯を飲み込んでいる時、母がそんな事を言ってきた。母親みたいに。


「そんな事は…ないよ。私は大丈夫」


 私はまるで、母に言うというより、自分に言い聞かせるみたいにそう言った。


「そう? 無理しなくても良いのよ?」


 母が心配そうな顔をする。女優として活躍できそうな演技だ。止めてほしい。本当は絶対にそんな事思ってないくせに。勉強しろって思ってるくせに。なんだか笑えそうだ。


「大丈夫。行ってきます」


 気持ち悪くなってきたので、素早く準備をして学校に向かった。


 ◇◇◇


 学校に着いて教室に向かうと、会長が教室の扉の前にいた。私を…待ってるのかな? なんとなく嫌な予感がして隠れようとしたけど、会長がこちらに気づいたらしく、近づいてきてしまったのでだめだった。


「やあ、千堂さん。今日も早いね」


 会長がニコニコしながら話しかけてくる。これが好きな人を前にした時の会長の顔かあ。やっぱり綺麗な顔をしているし、他の人が見たら大喜びしそうな笑顔だ。私もこの笑顔が私に向けられているのでなければ、そう思っていただろうし、素直に応援していたと思う。こんな顔してる会長見たくなかった。


「おはようございます。会長」


「つれないなあ。仮とはいえ、恋人相手なのに」


「なんだか、今でも信じられないです。会長と私が付き合ってるなんて」


 少し嫌みな感じで仮の部分を強調してみた。


「私は嬉しいよ。確かに今は仮だが、絶対に本交際までこぎ着けて見せるさ」


 会長がなんだかキラキラして見えて、目に良くない気がする。


「はぁ…。それで何か御用ですか、会長」


「ふーん…」


 私の態度が冷たかったからか、会長が拗ねた子供みたいな態度をとりだす。いや、みたいなはいらなくて、本当に拗ねた子供だ。


「何ですか、頬っぺた膨らませて。子供じゃないんですから」


「前から気になってはいたのだけどね、その『会長』って呼び方止めないかい? 折角付き合ったのだから、名前か、せめて名字くらいでは呼んでほしい」


「嫌です」


「どうしてだい!?」


 会長が信じられないとでも言いたげな反応をする。


「会長と仲が良いだけで周りの人から睨まれるらしいので、邪推されるようなことは減らしたいです」


「そ、そんな…」


 四つん這いになってまで悔しがることかな。無いとは思うけど万が一、誰かに見られたりしたら嫌なので止めて欲しい。


「…まあいいか。今日はそれが目的でここまできたわけじゃないんだから」


「そういえば、何の用ですか?」


「今日の放課後、初デートをしよう!」


 頭が痛くなってきた。


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