第35話 金子透の章 その13
そんな感じで、とりあえず話したかったことは話せたので自分の席に座った。
二時間目の授業が体育だったから、まさか…、今日も…? いやいや、まさか! なんて思って受けていたら案の定、彼女が、久美ちゃんが倒れたらしい。
まただよ…、なんて思ったし、やっぱり橋本さんに声をかけられた。なので、またノートをしっかりとって、放課後に保健室に向かった。
「いやー、今日も悪いねぇ」
相変わらず、反省していない声で彼女がそんな事を行ってくる。いつもの事だけど、絶対に悪いと思ってないんだろうなって思った。さすがに少しイラッとした。
「まーた、倒れたって聞いた」
「うん。こう、バタンって感じで」
「いやいや、そんな軽く言って良いことじゃないから! はい!」
怒り気味な声を出して、荷物と今日の分のノートを渡す。
「まあまあ、そんなに怒んないでよ」
「怒るよ! 毎回毎回、急に倒れたとかならまだしも、体育に参加して倒れてるんだからさ」
「だって、行けると思ったんだもん」
「そう言って、毎回倒れてるじゃん」
橋本さんの心配そうな顔が脳裏に浮かんでくる。ただでさえ、体育のたびに倒れる幼なじみがいるというのに、特に仲が良いわけでもない男子と喋らなければいけない彼女の事を思うと、かわいそうになってくる。
「なんか、今日の透くんいつもより厳しめだね」
「そう思うなら、少しは直してよ。全然反省してる風じゃないし」
せめてふりでいいから、もう少し申し訳なさそうな態度をとって欲しい。そんなつもりで言ったけど、さすがにちょっと意地悪だったかもしれない。
「うーん。治ったら良いんだけどね~。難しいかも?」
どうして、少し悲しそうに言うのか。また、僕をからかっているのだろうか。
「いやいや、直せるでしょ! はぁ。とりあえず、早くノート写しちゃってよ」
「はーい」
少し呆れたけど、いつものことだと諦めた。
「そういえば、なんか良いことでもあったの?」
「えっ!? な、なんで?」
急にそんな事を聞かれ、明らかに動揺しているのがばれてしまう声が出てしまった。
「いやー、なんか嬉しそうにしてるなーって」
「な、何でもないよ!」
「え~? 本当かな~?」
「本当だって!」
彼女が意地悪な顔で聞いてくる。絶対に分かっていながら、わざと聞いてくるのが彼女らしい嫌らしさだ。
それはそれとして、僕はどうしてこんなに否定しているのか。そもそも、そんな顔をしてたのだろうか。思い当たるのは、お姉さんのことだけど…、これからは気を付けよう。…なんか、前にも言った気がするなぁ? 気のせいか。
「ふ~ん? まあ、楽しそうなら何よりだけどさ~?」
「本当に何もないってば!」
「何も言ってないんだけどな~?…まあ、透くんは隠し事苦手みたいだから、あまり人前で気を抜かない方が良いと思うよ」
「そんな事言われてもなー。どうしようもないよ」
父さんのところに行った時にもそんな事を言われた気がする。
「まあ、そこが透くんの良いところだしね。はい、ありがと!」
彼女がノートを書き終わったらしく、笑顔でこちらにノートを渡してくる。
「ん。じゃあ、帰るよ。今日も迎え?」
「そうだよ~。だから、大丈夫!」
「そっか。じゃあね」
「ばいばーい」
保健室を出て教室に戻る。すぐに帰ろうと思ってたけど、なんだか疲れたので椅子に座った。雨の音が聞こえてくる。止むこともなく、響いてくる。
今はこんなにも雨が降っているのに、あの日、あの時にはなぜ止んでしまったのか、今さらというか、そもそも考えるだけ無駄なことを考えてしまう。なんだか女々しいとか、だらしないとか言われそうだ。スパッと考えを変えられないというよりは、ことあるごとに考え直してしまうのかもしれない。僕の良くないところだ。とりあえず帰ろう。
荷物を持って、家に帰った。明日も会えると良いなと思いながら、その日は眠りに落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます