第33話 小此木沙絵の章 その11

「えっとね、その…友達の話なんだけどね…」


「うん」


香織ちゃんはなんだか恥ずかしそうにも、怒っているようにも見えた。

この言い方は…、きっと香織ちゃんの話だ!私も前に友達の相談を聞いてもらうっていう体でやったけど、そんな分かりやすい顔で言っちゃダメだよ! 私みたいに完璧にやらないと! なんて、もちろん言わないけどね。


「その友達には好きな人がいて、でも勇気が出なくてずっと告白出来ないままでいたのね」


「うんうん!」


香織ちゃんの好きな人かー。どんな人なんだろう?


「それである日突然、さっきの人とは別の知り合いの先輩から付き合って欲しいって言われたんだって」


「えー! それって三角関係ってこと!?」


「…まあ、そうなるのかな?」


おお! 香織ちゃんの周りがそんな青春チックなことになっているなんて! ちょっと羨ましい…。


「それでね、その先輩に好きな人がいるから付き合えないって言ったんだって。そしたら、その人なんて言ったと思う?」


「うーん。『諦められない!』とか?」


私の貧しい想像力だとこれくらいしか浮かばなかった。わざわざ質問にしてくる位だし、もっとすごいことを言ったんだろうけど…、全く分かんないや。


「それがね、『一ヶ月で良いからお試しで付き合って下さい。それでも好きになってもらえないなら諦めるから』って言われたんだって。どう思う?」


「どう思うって言われても…」


香織ちゃんは真剣な顔をしている。

なんて答えるべきなんだろう。引かずにそんな事言えるんだから、よっぽど香織ちゃんのことが好きなんだろうけど…。


確かに香織ちゃんは可愛い。眼鏡を取ったときの顔が凄く綺麗だ。いつもの真面目な雰囲気がどこかにいってしまうくらいに。それに、私より胸もあるし…。


…そもそも、本当に香織ちゃんの話なのかな。こんなに真剣な顔をしているし、本当に友達の話なんじゃないのかな? だとすると、私すごく失礼なことをしてたのでは? …真面目に考えないと。いや、香織ちゃんの話を真面目に聞いていてなかった訳じゃないけど、ちょっと芸能人のゴシップ記事を読んでる気になっていた。私、最低だ。本人達はすごく真剣なのに…。


「えっとね、断られても引かないなら、よっぽど自分に、その提案に自信がある人なんだと思うし、すごくその子のことが好きなんじゃないかな。きっと、悪い人じゃないと思うし! だから、そんなに邪険に扱うのは良くないんじゃないかなって…」


「そう、かな…」


「た、多分だけどね、本当にその子のことが好きなだけで、その子のことを困らせたいなんて思ってないはずなんだ。その子は好きな人がいるってことも伝えてる訳だし、それを分かった上での行動なのかなー、なんて」


「…そうかな」


「きっとそうだよ!」


「そうだよね。そんなひどい事、しないよね!」


「そ、そうだよ。大丈夫だよ!」


「ありがとう、沙絵ちゃん! やっぱり大好き!」


「わ、私もだよ!? どういたしまして!」


香織ちゃんはすっきりとまではいかないけど、明るい顔に戻った。良かったー。少しは役にたてたはずだ。

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