第31話 小此木沙絵の章 その9
やっぱり付き合ってるんじゃないかって、捨てたはずの考えがまた湧いてきてしまった。これは、また放課後に保健室まで行ってみるしかない。今度こそ、はっきりとした話を聞けたら…、聞けたら…? 納得も諦めもしないし、出来ないのに、聞きに行く必要があるのかな…。いや、弱気になっちゃダメだ! ちゃんと聞きに行かないと。
放課後、やっぱり彼は保健室に向かったので、後をついていった。彼が保健室に入っていくのを見届けて、扉の前で聞き耳をたてる。
「いやー、今日も悪いねぇ」
「まーた、倒れたって聞いた」
「うん。こう、バタンって感じで」
「いやいや、そんな軽く言って良いことじゃないから! はい!」
多分、荷物とノートを渡したのかな。大分怒ってる感じだったけど。
「まあまあ、そんなに怒んないでよ」
「怒るよ! 毎回毎回、急に倒れたとかならまだしも、体育に参加して倒れてるんだからさ」
「だって、行けると思ったんだもん」
「そう言って、毎回倒れてるじゃん」
「なんか、今日の透くんいつもより厳しめだね」
「そう思うなら、少しは直してよ。全然反省してる風じゃないし」
「うーん。治ったら良いんだけどね~。難しいかも?」
「いやいや、直せるでしょ! はぁ。とりあえず、早くノート写しちゃってよ」
「はーい」
シャーペンでノートに書く音が少し聞こえてくる。篠田さんって本当に低血圧なのかな? なんだか『治ったら』の部分が悲しそうに聞こえた。
「そういえば、なんか良いことでもあったの?」
「えっ!? な、なんで?」
彼の明らかに動揺している声が聞こえる。
「いやー、なんか嬉しそうにしてるなーって」
「な、何でもないよ!」
「え~? 本当かな~?」
「本当だって!」
篠田さんのいじわるな感じの声が聞こえる。
「ふ~ん? まあ、楽しそうなら何よりだけどさ~?」
「本当に何もないってば!」
「何も言ってないんだけどな~?…まあ、透くんは隠し事苦手みたいだから、あまり人前で気を抜かない方が良いと思うよ」
「そんな事言われてもなー。どうしようもないよ」
「まあ、そこが透くんの良いところだしね。はい、ありがと!」
彼にノートを返したらしい。ペンをしまう音が聞こえた。
「ん。じゃあ、帰るよ。今日も迎え?」
「そうだよ~。だから、大丈夫!」
「そっか。じゃあね」
「ばいばーい」
彼が保健室から出てくるのでまたトイレに隠れて、いなくなった頃に帰った。
結局今回も分からなかったけど、ほっとしている自分がいるのも確かで、やっぱり無理に知ろうとしなくても良い気がしてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます