第25話 金子透の章 その11
ーつい、気になっていろいろ聞いてしまう。
「うーん…。正直に言うと、夏以外ならなんでも良かったんだよね」
「夏以外…ですか?」
「うん。私、向日葵なんて名前だけど、夏が好きな訳じゃなくてさ。じゃあ、何で冬かって言われると…描いてて一番楽しかったからかな」
別に、名前が向日葵だから夏が好きじゃなきゃいけないとは思わない。何で夏が好きじゃないのかは気になるけど、どの季節が好きか聞かれて、そこまで深く考えて答えることはそうそうないだろうし、あまり気にしなくていいかな。
「どこら辺が描いてて楽しかったんですか?」
「枯れてる木とか、動物が食べ物を探してるところが、こう、生命の終わりを感じて、面白いな~って」
「そ、そうなんですか…」
どういうことか全く分からない。これが芸術家と一般人の違いなのかな。
「あの…」
「あれ? 雨が止んだ?」
「えっ? …本当だ!」
お姉さんの言ったことが信じられなくて、周りを見たり、空を見上げたりした。空色自体は曇ったままだけど、小雨とかですらなく確かに雨が止んでいる。
「珍しいね! 透君!」
「そ、そうですね。本当に…珍しい」
「今の内に、バイトに行こうかな! じゃあね、透君。 雨宿り付き合ってくれてありがとね!」
「えっ! あっ、はい!お気をつけて!」
お姉さんが走っていってしまった。もし、本当に神様がいるなら、僕が晴れ男なら、こんな時に雨を止ませないで欲しかった。雨宿りのことも聞きそびれたし。…まさか、今日雨が止む事を知ってたとか?…まさかね。
話せたことの嬉しさともっと話したかった寂しさでなんとも言えない気持ちのまま、バスに揺られて家に帰った。
日曜日は、お姉さん…いや、柊木さんの事を考えていたら気づいたら終わっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます