第23話 金子透の章 その9
ーなんだかいろいろと話せている気がする。いや、本当に気がするだけなんだけどね。まだ大学のことしか聞けてないし。
「君は、高校何年生? どこの学校の子なのかな? ここら辺だと…雨高かな?」
「僕ですか? えっと…、そうです。高校2年生で、雨高に通ってます。」
「そっか~。雨高に行ってるんじゃ頭良いんだね」
「い、いやいや、そんな事ないですよ。たまたま受かっただけですよ」
「またまた~。謙遜しちゃって~」
「いやいや、本当ですって!」
お姉さんは僕が謙遜しているみたいだけど、それ以上でも、それ以下でもなく本当になんとか受かっただけなんだ。毎日毎日、必死に勉強したなあ。入学の時の課題が大変だったのを思い出しちゃった。もうあんな量やりたくないよ。本当に大変だったんだから。
「あっ!」
お姉さんが急に大声を出したので、ビックリした。どうしたんだろう?
「いろいろ聞いちゃったけどさ、そういえばまだ名乗ってなかったよね? 私の名前」
言われてみれば、確かにそうだ。僕も全然気にしてなかったけど、お姉さんの名前を聞いてなかった。
「今更だけど、自己紹介といこうかな。私の名前は
「僕は金子透です。こちらこそよろしくお願いします」
「透君ね。良い名前だね~」
「ひ、柊木さんも、向日葵なんてこれからの季節にぴったりですね」
ずっとお姉さんって言ってたから、ちょっとドキドキしながら呼んでみた。
「うん…。そうだね…、夏近いんだもんね……」
あれ? お姉さんが少しだけ暗い顔をした。褒めたつもりだったんだけど、嫌だったのかなあ。
「す、すみません! 嫌でしたか?」
「えっ!? ど、どうして謝るの!?」
「いや、その…、なんだか暗そうな顔をしてたので、褒めたの嫌だったのかなって思って…」
もっと上手く誤魔化すとかして、素直に答える必要はなかったんじゃないかとちょっと後悔した。やっぱり僕は口下手らしい。
「あっ、そうだったんだ…。ごめんね! そんな顔してるつもりはなかったんだけど…その、ちょっと嫌な事を思い出しちゃっただけだから。別に嫌だったとかそんな事はないよ!褒めてくれて嬉しいよ!」
「そ、そうですか。それは良かったです…」
お姉さんはなんだか、誤魔化すみたいにそんな事を言った。気をつかって言ってるだけでやっぱり嫌だったのかな。このままだと気まずくて喋れないし、なんとか話題を変えよう。
「あの、お姉さんはなんで病院に来たんですか? 誰かのお見舞いとかですか?」
「私? 私はねー…、うん、そう、お見舞いだよ。友達がここに入院してて…それでここに来てるの」
「そうなんですね。僕もお見舞いで来てて、父さんがぎっくり腰になっちゃって、それでここに着替えを渡しに」
「そっか~。ぎっくり腰は大変だって聞くし、早く治るといいね!」
「は、はい…」
やっぱり聞かない方が良かったかもしれない。元気な感じで返してくれたけど、なんで病院にいるのか聞いた時、明らかにさっきみたいな暗い顔をした。どうしよう。他に何か聞けることは…。
「あの…」
「んー? な~に?」
「柊木さんは大学で何をしてるんですか?」
「何、何って言われても…、絵を描いてるんだ」
「絵、ですか?」
「そう。ああ、えっと、美術とかでみたことないかな? 風景画」
「あー、あります。タイトルとかは全然分からないですけどね」
油絵の具で描かれてるやつのこと…だよね?多分。いろいろみたことはある。
「まあ、そうだよね。受けてる私もよく分からないし」
「えー、良いんですか、それ」
「ま、まあ、タイトルが分からなくても技法の真似は出来るし大丈夫だよ…、多分」
「ぷっ、あははは!」
そう答えるお姉さんを僕は笑ってしまった。別にお姉さんの事をばかにするつもりはなくて、なんていうかちゃんと人間なんだなって思ったからかな。安心して笑っちゃった感じが一番近いと思う。
「も~、笑わないでよ~。別に、先生に聞かれたりしないから覚える必要がないだけなんだから~」
「す、すみません」
お姉さんも笑っている。暗い顔じゃなくなって良かった。
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