第21話 金子透の章 その7

 学校から帰って来たので着替えて、用意されていた荷物を持って、病院行きのバスに乗る。前回の荷物も重かったけど、やっぱり今回も重たい。でも、今の僕はそんな事は特に気にならなくて、とにかくあのお姉さんにまた会えるかどうか、そこだけが気になっていた。


 急ぐ必要も無いのにバス停まで早歩きで来てしまった。来る途中に水たまりでも踏んだのか、少しズボンの裾が濡れていた。


 バスに揺られている間も、あの人の事を考えてしまう。病院まで走っていった方が速いんじゃないかと思うくらい、バスの時間が長く感じた。


 バス停を見てみたけどお姉さんの姿はない。バスから降りると少し雨が弱まっていた。なんだか急げとでも言われている感じがして、病院の入り口まで走った。


 土曜日だからなのか病院内は、忙しそうだった。エレベーターに乗って、父さんの病室に向かう。病室までの通路で、他の患者さんのお見舞いに来た人の話し声が聞こえたりした。


 部屋の前に着いたので、ノックをして中に入る。父さんが話しかけてくる。


「よう、透。今日も悪いな」


「良いって良いって。はい。これ、着替えね」


 そう言って、荷物を渡す。やっとあの重さから解放された。


「おお、ありがとさん」


「前のやつは?」


「ああ、ええっと、これだこれ。よろしく頼むな」


「うん。了解」


 渡されたち荷物は、持ってきたのよりは少し軽い気がするけど本当に気休め程度な違いでしかない。お姉さんに会うため、そう思って頑張るしかない。


「あっ、そうだ。透、お前、今日学校だったよな?」


「え? うん、そうだね」


「飯食ったのか?」


「いや、まだだけど…」


「売店でなんか買ってこいよ。ついでにコーヒーも頼む」


 そう言って、千円を渡してくる。


「うん。分かった。行ってくる」


 病室を出て、売店に行く。

 そう言えば、お姉さんはここにお見舞いに来てるのかな。前に見たときは、入院している感じの格好ではなかったから多分そうだと思うけど…。というか、そもそも今日は会えるのかな。お姉さんにだって、仕事なり学校なりがあるだろうし期待して来てみたけど、会えないんじゃないだろうか。


 考えているうちに売店に着いた。かごを持って、先にコーヒーをいれる。お弁当は売り切れているらしくないのでおにぎりかパンを買わないといけない。いろいろあって迷ったけど、鮭とツナマヨのを1つずつ取る。飲み物も買おうと思って、飲み物のコーナーに行く。ミックスオーレを手に取る。また、この前みたいに会えないかなとか思ったけど、駄目だった。お会計を済ませて、病室に戻る。


 戻る際にすれ違った人や近くにいた人の顔を見てみたけど、お姉さんらしき人は見当たらなかった。


 また、ノックをして部屋に入る。


「はい、これ」


 父さんにコーヒーを渡して、僕は近くのパイプ椅子に座る。


「お、悪いな」


 父さんはコーヒーを開けて、一気に飲み干した。


「ぷはー! うまい!」


 なんだか疲れた体にお酒を流してるみたいだ。ブラックなのによくやるよなあと思った。僕は袋の口を広げて、こぼさないようにしながらおにぎりを食べ始めた。


「そういえば、何か良いことでもあったのか?」


 父さんが急にそんな事を聞いてきたので、少しむせた。


「…え? な、何で?」


「いや、なんとなく嬉しそうにしてたからな」


「そ、そうかな。そんなつもりはなかったんだけど」


「で、何かあったのか?」


「いや、特には…」


「あっ、あれだろ。好きな子でも出来たんだろ?」


 そんな事を言って、にやにやと笑ってくる。


「別に、そんなんじゃないってば!」


「本当かー? 必死に誤魔化そうとするところが怪しいなあ。…まあ、楽しそうでなによりだ」


 好きとかではないけど、変なところで勘が鋭いのは止めてほしい。でも、そっか、僕は今楽しそうな顔をしてるのか。いや、実際、またあのお姉さんに会えるのを楽しみにしてはいるけど、まさか顔に出ているとは思わなかった。少し恥ずかしくなった。










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