第17話 小此木沙絵の章 その7
ー二人の楽しそうな声をそのまま1時間くらい聞いていた。彼女が何か聞いて、彼が答えて、彼女が彼をからかっては、彼が心配そうに怒って…。悔しさとか悲しさとかで、すごく泣きたい。
「そうだ。迎えはどうなったの?」
彼がまた心配そうに聞いた。
「いつも通り、お母さんが迎えに来てくれるから大丈夫ー」
「そっか、了解」
いつもとか毎回とか、そんな言葉が出てくるたびに二人の仲の良さを感じてしまって、切なかった。
「じゃあ、僕帰るよ」
「そっかあ。ありがとうねー。ばいばーい。またここで会おうねえ」
「いや、だから!」
「冗談だよー。気をつけて帰ってねー」
彼が出てくるみたいなので近くのトイレに隠れた。わざわざ隠れる必要もなかったのに、本当に何やってるんだろう、私。
彼が近くにいなくなったのを確認して、トイレから出た。やっぱり二人は付き合ってるのかな。考えたくないけど、考えてしまう。
…とりあえず、帰ろう。そう思って、玄関に向かう。学校から出ても、『でも…、でも…、』と二人は付き合ってないと考えようとしていた。自分のことだけど、随分と未練がましい。堪えきれずに、少し泣いてしまった。泣いている声を誰かに聞かれたりしたくなかったので、雨が降ってて良かった。
家に着いてからもあの事が頭から離れなくて、ずっと落ち込んでいた。食べた覚えが無いのにお腹がいっぱいになっていたし、やった覚えが無いのに課題も終わっていた。もう寝る準備まで終わっていて、早く考えるのを止めろ、とでも言われているみたいでなんだかムカついてきた。
大体、なんであんなに仲が良いの!私とはほとんど喋ったりとかが無いのに、あんなに仲良さげに話して、見せつけるみたいに!
完全に八つ当たりだ。分かっているけど、悪口が止められなかった。
散々言って、落ち着いてきた。もう諦めないとなのかな。諦めきれるのかな。
そんな事を思ってまた泣いた。
泣きつかれて眠ってしまったみたいで、朝になっていた。あのまま、目覚めずに寝ていたかった。現実ってひどい。ご飯がいつもよりおいしく感じた。…そんなに現実もひどくないかも。
登校中も彼の事を考えていた。…あれ、思い返してみるといつも考えてる? もうすっかり、彼は私の生活の一部なのだと思った。
教室に入ると彼と、彼女の姿が見える。でも、やっぱり一緒にいるわけじゃない。本当に付き合ってるのかな? 昨日の様子だと仲が良かったのは本当だけど、別に恋人らしい事をしてはいなかったし…。
「おはよう、沙絵ちゃん。また何か考え事?」
そんな事を考えていると香織ちゃんが心配そうに話しかけてきた。
「おはよう、香織ちゃん…。うん、そうなんだ」
「そうなんだ。私に出来ることがあったら、何でも言ってね。絶対に力になるから」
「う、うん。ありがとう…」
そんなに力強く言われても、さすがにこれは相談できない。……いや、香織ちゃんなら真面目に答えてくれるだろうし、聞いてみようかな。
「あの~、友達の話なんだけどね」
「うん?…うん?」
絶対に一回目の『うん?』はなんだか困った様子のだった。二回目は『話を続けて?』の『うん?』だったけど。聞いてくれるみたいなので話を続けることにした。
「その、私の友達の好きな人が他の女の子と楽しそうに話してるのを聞いちゃって、落ち込んでてさ…」
「そう…なんだ。それで?」
「それでさ、その子が、その二人は付き合ってるんじゃないかって思ってるんだけどさ、香織ちゃんはどう思う?」
「そうだねー、うーん?」
やっぱり聞かない方が良かったかもしれない。友達の話っていう体にしたけど、なんだか恥ずかしくなってきた。
「男女の友情はあり得ない、なんて言われる事もあるけど、意外とそんな事もないんじゃないかな。実際問題、その子は二人が話してるところを見ちゃっただけなんでしょ?」
「うん…。そう、聞いてる。」
見てたんじゃなくて聞いたんだよって言いたくなったけど、わざわざ訂正したら私の話なんじゃないかって怪しまれそうだったから止めておいた。
「付き合ってるってその二人が明言したわけでもないみたいだし、大丈夫じゃないかな?
たまに『付き合ってないの!?』って言われるくらい仲が良い人だっているんだし。」
「ほ、本当に!?」
「う、うん。きっとね。」
「そっか、そうだよね!」
香織ちゃんがそう言ってくれたので、つい安心して、声が大きくなってしまう。
「だから、その友達にそう言って、安心させてあげてね。」
「え? あ! そ、そうだね! ありがとう、香織ちゃん!」
「どういたしまして」
安心して、友達の話として話したのを忘れていたので、変な返しになってしまった。
確かに、まだ確実に二人が付き合っていると決まったわけじゃない。そして、もし付き合っているのだとしても、こんな簡単に身を引くつもりもない。ずっと好きだったのに、こんなことで諦めて良いはずがないんだから。
まだまだ話しかける勇気も出ないような状況だけど諦めるつもりは無くなった。やっぱり私は、彼が好きだから。そう思って、また彼の方を見つめていた。
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