第15話 小此木沙絵の章 その5

 突然だけど、なんだか彼の様子がおかしい。学校に来て彼の様子を見た時は、悩んでいるような顔をしていた。でも、孝幸君達と話をしたからなのか、今の彼は楽しそうというか嬉しそうな顔をしている。別に、これ自体は何もおかしくないと思う。ただ、今までに見たことのないくらい嬉しそうな雰囲気だった。

 どうして、あんなに嬉しそうなんだろう?

何か、週末に遊ぶ約束でもしたとかなのかな? もしくは、親御さんと出掛けるとか?それなら、嬉しそうにしているのは分からなくもないけど、それでもあんなに嬉しそうにするかな?

 考えてみたけど、全く分からなかった。すごく気になるけど、聞きに行ける勇気もないので諦めた。


 四時限目は体育で、昨日と同じバレーだった。見学していた篠田さんがしれっと参加していたんだけど、すぐに倒れてしまって保健室に運ばれていた…らしい。彼の事を考えていたので、全然気づかなかった。


 篠田さんは、噂によると低血圧らしい。だから、激しい運動をするとすぐ倒れてしまうとか。病気とかと違って、治せるものじゃないから上手く付き合っていくしかないのだそう。…まあ、噂だから実際、彼女が低血圧なのかは判断できないんだけど。

 大変なんだとは思うし、動きたいのだとは思うけど、彼女はよく体育に参加しては倒れているので、もうちょっと抑えるとかした方が良いんじゃないかと思う。倒れてしまった後の授業に出席しているところはほとんど見たことないし、何より親御さんが心配するだろうし。


 昼休みなので、お弁当を食べた。お母さんは、朝ごはんは昨日の残り物にするくせに、お弁当はおしゃれな感じにしてくれる。今日も、お弁当の中身は色とりどりだ。卵焼きが甘くてすごく美味しい。世の中には、しょっぱい卵焼きが好きな人がいるらしい。私はずっと甘いのを食べてきたので、ちょっと考えられない。

 そう言えば、彼はどっちが好きなんだろう。というか、そもそも卵焼きは好きなのかな。今まで彼のことはずっと見てきたけど、卵焼きを食べているところを見たことがない。もちろん、私が見たことないだけなのかもしれないけど。彼がよく食べているのは、ハンバーグとか唐揚げとか、やっぱり男の子なんだなと感じるものばかりだし。お肉が好きなのかな? …私も、何か作れるようになろうかな。上手になったら、私が作ったものを彼に食べてもらって、『美味しいよ』なんて言ってもらいたいなあ。それで『良いお嫁さんになるね』とか…言われちゃったりして!

 …何バカなことを考えてるんだろう、私は。冷静になって考えてみると、そもそも話をしたりすら出来ていないのに、手料理を食べてもらうなんて夢のまた夢だ。なんとかして、仲良くなれないかなあ。

 彼の方を見ると、女の子に呼ばれて廊下に出ていくところだった。あれは…同じクラスの橋本さん! まさか、告白…なんてことないよね!? 何度も話しているところは見たことあるけど、そこまで親しげでもなかったし、告白なんてまさか、そんなこと…ないとは言えない。

 様子が気になるので、見に行こうと思ったけど、二人ともすぐ自分の席に戻ってきてしまったので、内容が全く分からなかった。彼はなんだかため息をついていて、彼女は…特に喜んだり悲しんだりもしていない。告白じゃなかったのかな?

 …良かったー。もし、告白だったらどうしようかと思った。全然そんな風ではないみたいだし、安心した。安心したらお腹が空いてきたので、お弁当を食べてゆっくりした。


 彼は5、6時限目にしっかりと起きて、ノートを取っていた。今までもたまにこういうことがあったけど、孝幸君達にノートを見せてもらって確認までしていた。

 …やっぱり、何かあったんじゃ…。そういえば、今までも橋本さんと話した後は、しっかり授業を受けていた気がする。…ということは、彼は橋本さんにしっかりしているところを見せようとしてたとか?じゃあ、やっぱりさっきのは告白だったのかな!?


 気になって気になって仕方なかったけど、やっぱり聞きにはいけなかったので、彼の後をつけることにした。告白されて受けたのなら、きっと放課後に落ち合うと思ったからだ。

 でも、彼は何故か保健室に向かっていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る