第14話 金子透の章 その6

 ー 本当に心配するこっちの身にもなって欲しい。


「そういえば…、そろそろテストだよね?」


「あー、そうだね。そろそろだね」


「ちょっと勉強ヤバイかも…」


「まあ、これだけ倒れてそのあとの授業、全部出れてないしね」


 彼女が倒れた後、その後の授業に戻ってくることはほとんどない。…というか出来ないので、テスト以前に出席日数が足りてなさそうではある。


「透君、勉強教えて?」


「いや、僕も勉強しないとだからちょっと厳しいかな」


「えー、ケチ。ひどいんだよ。私が留年しちゃっても良いの!?」


「いや、良くはないけど…」


「もし私が留年しちゃったら、体育のたびに一つ下の子達を三年生のクラスに向かわせることになるんだよ? それでも良いの!?」


「いや、良くない、それは良くない。うん。…っていうか、どうしてまた倒れる前提で話してるのさ!」


「いやー、なんとなく?」


「なんとなくで、自分の体を危険な目に合わせようとしないで!? 本当に何考えてるのさ!?」


「あははは。本当に、透君と話してるとおもしろいなあ」


「だから、笑い事じゃないって!」


 彼女は大笑いをしている。

 本当に何を考えているのやら。知り合いもいない、上級生のクラスの近くを歩きたいなんて思う子がいるとはとても思えない。

 そして、それ以上にまた倒れるつもりでいるのが気に食わない。本人は楽しいのかもしれないけど、周りに心配と迷惑をかけるのを本当に理解しているのか。


「分かった、分かった。気を付けるからさ、勉強教えて?」


「はあ、しょうがないなあ。どこ?」


「ここがさあ、難しくって…」


 きっと言葉だけなのは分かっているけど、何もないよりは良い。彼女にだって、動きたい気持ちがあるのは分かっているつもりだ。それでもやっぱり、何かあってからじゃ遅いから、心配になるから、気をつけて欲しいなと改めて思った。


「そうだ。迎えはどうなったの?」


 教えられるところを教え終わった時に、ふと気になったので聞いてみた。


「いつも通り、お母さんが迎えに来てくれるから大丈夫ー」


「そっか、了解」


 それなら大丈夫なはず。時間も時間なので、帰るとしよう。


「じゃあ、僕帰るよ」


「そっかあ。ありがとうねー。ばいばーい。またここで会おうねえ」


「いや、だから!」


「冗談だよー。気をつけて帰ってねー」


 彼女の冗談は心臓に良くない。そもそも冗談で終わった試しがないから本当に止めて欲しい。


 保健室から教室に戻ってくると、当然といえば当然だけど、誰もいなかった。音楽室の方から、演奏の練習が聞こえてくる。何を弾いてるんだろう。聞いたことはあるはずだけど、何かは分からなかった。


 傘を開いて、下校する。そう言えば、父さんのところに行くのは明後日だ。思い浮かぶのはお姉さんの姿。また…、会えるかなあ。孝幸に言われたことを思い出す。気になるのは知らないから、か。なんだか学者みたいな言葉だ。

 でも、確かにお姉さんは気になる事を言っていた。あの時は緊張してて、聞けなかったけど確かに『雨宿り』って言っていた。しかも、すごく悲しそうに…。

 仲良くなれれば、それについても教えて貰えるかな。僕でも何かしてあげられないかな。ずっとあの眩しい笑顔のままにしてあげられないかな。

 考えても分からない事だらけだから、とにかく仲良くなれるようにしないと!


「よーーし!頑張るぞー!」


 結構大きな声だったけど、雨音にすぐかき消された。





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