第12話 金子透の章 その4

 結局、あまりちゃんと寝られないまま朝になってしまった。まだ少しドキドキしている。やっぱり、これは恋なのだろうか。


 ご飯を食べて準備をし、学校に向かう。なんだかいつもより景色が明るく感じた。…当然、雨は降っているし、空は曇っているんだけど。


 学校に着いた。ちょうど他の生徒も登校している。教室に向かうと、孝幸とひろしが既にいて、孝幸がこちらに気づくと話しかけてきた。


「よお、透! おはー」


「おはよう。相変わらず朝から元気だね」


「ん? あ、透。おはよう」


「おはよう。こっちも相変わらず眠そうだね」


「夜中まで、ゲームやってたからさ」


 ひろしはあくびをして、また机に突っ伏してしまった。僕は自分の席に荷物を置いて、二人のところに戻る。


「あのさあ、その…、聞きたいことがあるんだけど…」


 昨日の事を話して、これが恋なのか二人に聞いてみようと思った。


「ん? なんだ、悩みごとか? どんと来い!」


 そう言って、孝幸が自分の胸をドンと叩く。叩いたのが強かったみたいで、少しむせていた。


「あんまり重たい話は無しで頼むよ」


 突っ伏したままひろしが言う。


「うん。それで、えっと、昨日、父さんがぎっくり腰で入院することになったから着替えを持ってたんだけど…」


「親父さんがか…? 分かったぞ! 早くぎっくり腰が治る方法だろ?」


「いや、さすがに僕たちにそんな事は聞かないでしょ。」


 顔を上げながら、ひろしが言った。


「いやいや、分からないだろ! あっ、そうだ。親父が『よく効くぜ』って使ってるお気に入りの湿布教えてやるよ。」


「いや、だから人の話を聞けよ。」


「さっきからなんだよ、ひろし。邪魔をするんじゃあない。」


 少し荒れそうになってきたのを止めるために喋り始める。


「まあまあ。湿布の話は後で聞かせてもらうとして、それじゃなくてさ。」


「おう、なんだよ。」


「その…、二人ってさ、恋したことってある?」


 言ってて、恥ずかしくなった。やっぱり、友達に聞くような話じゃなかった気がする。でも、分からないままもやもやし続けるのも苦しいし…。


「…は?」


 ひろしは何言ってるんだ、という顔をしていた。まあ、そんな反応にもなると思う。

 孝幸は何とも言えない顔をしながら、口を開いた。


「まあ…あるが、それがどうかしたのか?」


「えっと、だから、着替えを持ってった時に会ったお姉さんのことが頭から離れなくて、それで…。」


 後半部分は、自分でも何を言っているのか聞こえないくらい小さな声だった。また、あの時の事を思い出して恥ずかしくなる。


「その、これは恋なのかな…って…。」


 言い終わってから長い間、無言の時間が続いた。やっぱり言わない方が良かった。また少し後悔が増えた。

 無言の中、孝幸が口を開いてくれた。


「その…、お姉さんとやらは、どんな人なんだ?」


「えっと、金髪?ブロンド?みたいな髪で、目に緑色のカラコンを入れてて、すごく綺麗な人で…。」


「で、頭から離れないから恋なんじゃないかって?」


 言いたかった事をまとめてくれた。やっぱり頼りになる。


「そ、そう。」


「あー、なるほどなー。そうだなー。それはー…。」


 孝幸がなんだか、すごくもどかしそうな顔をしている。


「いやいや、それは充分こi…」


 ひろしが何か言おうとしたのを、孝幸がすごい勢いで口をふさいだ。こ?…やっぱり、恋なのかな?


「透、俺はこいつと話があるからちょっーとだけ待っててくれ、な! おい、ひろし!

お前、ちょっとこっちに来い!」


「おい、止めろ。離せ、離せってば!」


 そう言って、孝幸がひろしを教室の外に連れていってしまった。ひろしの言った、『こ』の続きを聞こうと思ったんだけど、いない以上は仕方ないので、待ってることにする。


 ***

「おい、いい加減離せって。」


 トイレまでひろしを連れてきたので、手を離す。


「なんだよ。急にこんなところに連れてきやがって。」


 ひろしがすごく不満げにそう言ってくる。


「お前、透にそれは恋だって言おうとしただろ!」


「いや、話聞いてる限りはそうだったし。本人が知りたがってるんだから、教えてやるのが良いだろ。」


「かーっ。これだから、お前ってやつはよお!」


 こいつは、本当に分かっていない。


「な、なんだよ。」


「いいか。あいつがわざわざ、俺たちに聞いてきたんだぞ? あの朴念仁の透が!」


「べ、別におかしなことじゃないだろ。聞ける相手が俺たちだけってだけで。」


「ああ、確かにおかしいことじゃない。問題はそこじゃなくてだな、あいつが恋について考えようとしてるってとこだ。」


「いや、だから! それがなんだって話をしてるんだよ!」


「だからだな、俺たちがそれは恋だって言ってやるんじゃなくて、自覚をさせようって話だよ。」


「…自覚をさせて、どうするんだよ。」


「自分で考えて、行動できるようにするのさ。恋だのなんだのってのは、もっとこう自由で良いはずで、他人がどうこうあんまり言うもんじゃないだろ?」


「…」


「自覚して、その相手のために行動して、それでうまくいったなら、祝福してやるべきだし。だめだったならだめで、慰めてやれば良い。何事も経験ってやつさ。」


「…」


「それに何より、あいつが俺たちに相談しようって思ってくれたことが、お兄ちゃん嬉しい!」


「誰が兄だ、誰が。」


「もちろん、俺だ!!!」


「はーーーっ。」


 何故かは分からないが、ひろしがすごくデカイため息をついた。やっぱり変なやつだ。


「うまく行くと思ってるのか?」


「さてな。どうなるかはあいつ次第だが、全力でサポートするさ。なんせ俺は百戦錬磨だからな!」


「一週間以内に全員と別れてるやつが言うと、重みが違うなー。」


 こいつ、棒読みで言ってきやがった。


「うるせー! ほら、戻るぞ!」


「へいへい。」


 ***


 2,3分ほどして二人が戻ってきた。




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