第7話 小此木沙絵の章 その4
ー店員さんは、厨房に戻っていった。
改めて、店内を見回す。静かでいいけど、あまりお客さんがいないのが心配だ。斜めの方にある席に座っているお兄さんがナポリタンを食べていた。粉チーズがかなりかかっていて、結構ボリュームがあるみたいだ。さすがに多いけど、美味しそうだった。
10分ほどして、店員さんが頼んだものを運んできた。生クリームとフルーツのソースがかなりかかっていて、果物も載っている。すごく美味しそう。佐々木さんが頼んだのも同じ感じだった。香織ちゃんのは、なんとメロンの果肉がごろごろ載っていた。そういえば、メロンって夏が旬だっけ。期間限定なのも納得だった。さっそく食べようとしたところ、佐々木さんは写真を撮っていた。さすが、意識が高い。こういうところが違うのだと改めて思った。
パンケーキを切り分けようとするけど、ふわふわで切りにくく、上の生クリームが倒れてしまった。綺麗に食べるのは難しそうだ。なんとか切った部分にクリームやソースをたっぷりと付けて頬張る。甘くて、ふわふわで、すごく美味しい。そして、口の中の甘味をカフェオレで流してさっぱりとさせる。カフェオレも香りが良く苦すぎなくて、飲みやすい。この繰り返しならいくらでも食べれそうで、すぐに食べきってしまった。もう一皿食べられそうだったけど、太ってしまうので止めておいた。二人も食べ終わったようで、水を飲みながら休んでいた。
しばらく休んでから、お会計をして外に出た。外はまだまだ明るい。傘を開いた。
「美味しかったね!」
歩きながら、佐々木さんが言う。
「うん。すっごく美味しかった! 次の期間限定が何か、聞いてくれば良かったなぁ」
香織ちゃんはもう、次も行く気らしい。実際美味しかったので、私もまた行きたい。
そんなこんなで、いろいろと話をしながら歩いてきた道を戻って、また学校の方まできた。家が反対方向にあるので、ここで佐々木さんとはお別れだ。
「じゃあねー、二人とも」
「バイバーイ」「またね」
佐々木さんはそう言うと、走って帰ってしまった。家の場所が結構遠いらしいからしょうがない。みるみるその背中が小さくなっていった。
「じゃあ、私たちも行こっか」
「そうだね」
私たちも、家まで歩き出す。慣れない靴なのに結構な距離を歩いたから、少し足が痛む。
「そういえば、6時限目って何をしたんだっけ?」
香織ちゃんに聞いてみる。
「えっ? 地理だけど…覚えてないの?」
「うん。実は、ぼーっとしててよく覚えてないんだ」
「そうだったんだ。じゃあ課題が出たのも覚えてない?」
「課題って何かあったっけ?」
「ほら、あの地名と特産品をプリントに書いてくるやつだよ」
「あー。あのめんどくさいやつね」
「そうそう」
地理の田中先生は、その地方の名前と関連したものについて、課題を出してくる。有名な出来事だったり、今回みたいに特産品だったり…そんな感じだ。
「出来たら、見せてくれない?」
「だめだよ。ちゃんと自分でやらないと」
「ですよねー。はーい」
やっぱり香織ちゃんは真面目だった。
そんな感じで、いろいろと話している内に家に着いた。
言うまでもないかもしれないけど、私と香織ちゃんの家は隣同士だ。小、中学校の時は、よく私の家に呼んで遊んだりした。最近は、勉強が忙しいみたいであまり一緒には遊べてないけど。でも、今日みたいに学校帰りにどこかによったりは出来るので、寂しい訳じゃない。
「じゃあねー、香織ちゃん」
「うん。じゃあねー」
傘を畳み、お互いの家に入った。
靴を脱いで、自分の部屋に向かう。制服を脱いで、簡単な服装に着替える。晩ごはんまでまだ時間があるので、課題をやってしまう事にした。
「ふー」
なんとか課題をやり終えたところで、息が漏れる。すごくめんどくさくて、疲れた。時計を見ると、まだ晩ごはんには早いみたいだ。スマホを持って、ベットに寝転がる。なんとなく電源を点けて、電話帳を見てみる。登録されているのは、自宅とお父さん、お母さんに香織ちゃんと佐々木さん、後はクラスの子の名前がある。残念ながら、彼の連絡先は持っていない。というか、そもそも彼が携帯の類いのものを使っているところを見たことがない。さすがに持っていないなんてことはないと思うけど、出来ることなら知りたい。電話をかけられるようになったら、すこしは告白する勇気がでそうだから。
そんな事を考えていると、下から呼ばれた。
晩ごはんが出来たらしい。階段を降りて、リビングに向かった。テレビが点いているみたいで、何か笑い声が聞こえる。扉を開けて中に入る。まだ並べきっていないようなので、運ぶのを手伝った。晩ごはんはカレーだった。お馴染みな具の、じゃがいもに人参、玉ねぎ、豚肉、そしてコーンが入っていた。味は沙希が食べられるように甘口で、コーンがしゃきしゃきとしていて美味しかった。
食べ終わって、リビングでテレビを見てくつろいでいたら、お風呂の準備ができたらしかったので、入った。
部屋に戻って来て、カーテンを開けてみる。窓の向こうに見える香織ちゃんの部屋には明かりが点いている。まだ勉強をしているのかな。
空を見てみる。星が綺麗…なんて、晴れていれば言えたのかもしれないけど、あいにく雲で全く見えそうになかった。毎日毎日、飽きもせず降り続けて…。私は、星を見たことがない。せいぜい、テレビや写真くらいだ。この雨は、いつか止むのかな。止んだら、彼と星が見れるのかな。
…どうして、ここで彼がでてくるのか。今日の事を思い出してしまって、鼓動が速くなった。恥ずかしいので、速く寝てしまおう。電気を消して、ベットに寝る。布団を頭から被ってみたり、寝返りを打ってみるけど、やっぱり彼の事が頭から離れず、寝られない。
夜はまだまだ長そうだ。
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